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なぜ? 岡山から強いプロがぞくぞく誕生<前編>渋野、久常、尾関を輩出した作陽高の指導方針とは?

渋野日向子を筆頭に、男子の若手注目株・久常涼や、ルーキーシーズンに優勝した尾関彩美悠など、近年、岡山から強い選手がぞくぞくと誕生している。そこで今回は、岡山のジュニア事情を探ってみることに。まずは強豪校・岡山作陽高校へ。

TEXT/Masato Ideshima ILLUST/Kow Sasaki PHOTO/Takanori Miki

「ウチは日本一“自由”ですよ
押し付けると思考が止まります」

渋野日向子の活躍で一躍有名になった岡山県作陽高校だが、ツアー会場に行くと同高校出身者の多さに驚かされる。女子では渋野の先輩にあたる藤本麻子や東浩子らのほか、昨年のプロテストでトップ合格を果たし、今季ツアー初優勝を飾った尾関彩美悠、男子ツアーでは今や中心選手の一人として活躍する久常涼や幡地隆寛らがいる。では、なぜ作陽高校からこれほど多くのプロゴルファーが誕生しているのか。まずは2005年の創部以来、監督を務めている田淵潔さんに話を聞いた。

<作陽高校出身の主なプロ>
●藤本麻子(09年卒) ●東浩子(11年卒) ●幡地隆寛(12年卒) ●丹萌乃(15年卒) ●成澤祐美(16年卒) ●渋野日向子(17年卒) ●須江唯加(18年卒) ●久常涼(21年卒) ●尾関彩美悠(22年卒)

作陽高校にはゴルフ部の練習施設はない。高校からバスで約20分の場所にある緑ヶ丘ゴルフ練習場で打撃練習を行っている。

「うちはゴルフをしたことのない子でも入れます。すでに上手い子をスカウトして入部させるようなことはしません。オープンスクールでこういうふうに練習をしていますというのを見てもらって、3年間ゴルフをしてみようと思う子に入ってもらいます。基本方針は? と聞かれれば、ゴルフを途中で嫌になってほしくないということでしょうか。それにゴルフは好きでやらないと強くならんって思っています。一生懸命練習しているのにスコアが悪い子もいますけど、スコアのことは言いません。心構えとかゴルフってこういうゲームなんだよってことは言いますけどね。技術的なことは何も強制しないんです」

田淵監督は「作陽ゴルフ部は日本一自由なゴルフ部だ」と言う。押しつけがましい指導は、思考が止まるのでしない。放課後の練習はラウンドに当ててもよし、練習場で球を打ち続けるもよし。ふと打席に目を向けると、自由に休憩したり談笑したりしている生徒の光景が目に入る。部活というよりはサークルという表現のほうがマッチしているような……。そういうなかで田淵監督が大事にしているのは、自主制だ。

「ボクは『先生に見てもらわないとダメです』みたいなのが好きじゃないんです。ゴルフは孤独なスポーツなので、自分のことは自分で考えないと。個人でコーチをつけている子もいますが、コースへ出たら頼れるのは自分だけです。だから、自分のことは自分でなるべくさせているんですよ」

思春期真っただ中の高校生たちは、悩み事も多い。たとえば卒業後の進路について。ゴルフ場に就職し、研修生になるという生徒に田淵監督は「5年経っても芽が出なかったら、第二の人生を考えたほうがいい」とアドバイスするという。

「在学中はもちろん、卒業してからも相談には乗ります。でも、最終的には自らが進む道を決めて歩んで行ってほしいと思っています」

主体性が育まれる過程を、今日も田淵監督は静かに見守っている。

「自分で計画的に練習できたのが大きかったですね」(尾関彩美悠

「ゴルフ部はほんとに自由でした。もくもくと練習している人もいれば、あんまり打たないでしゃべっている人もいて。“部活”みたいな感じではなく、何をしてもいい。私的には計画立ててやることが好きなので、性格的に合っていたんだと思います」

新旧キャプテンに聞いた「作陽のココがいい!」

旧女子キャプテン●小川羅々さん(3年)

「監督や先輩の雰囲気が良くて入部を決めたのを覚えています。雰囲気の良さが作陽のいいところです」

新女子キャプテン●境澤有さん(2年)

「練習環境の良さで入部しました。私はコーチをつけず監督に聞いて練習していますが、かなり上達しました」

旧男子キャプテン●松尾慈亮さん(3年)

「高校からゴルフを始めました。自由で縛りがなくて、自分がしたいことができたおかげで成長したと感じています」

新男子キャプテン●井土裕介さん(2年)

「中学では野球とゴルフをしていたのですが、高校からゴルフ一本です。偉大な先輩たちの後に続きたいです」

女子は2008年と15年に団体戦で全国高等学校ゴルフ選手権を制覇。来年春には学校が岡山・倉敷市に移転予定で、より充実した練習環境になるという

「作陽は生徒たちをのびのび育てますね」(東浩子の母・久恵さん)

緑ヶ丘ゴルフ練習場で受付や事務などを担当している東浩子の母・久恵さんは田淵監督の妹で、浩子の姉は作陽高校ゴルフ部の第1期生だと言う。「作陽にはうまくなれる環境が整っています。協力的なゴルフ場(湯郷石橋GC)が近くにあって、練習場もココがあって。昔から生徒たちは本当に楽しそうに練習してますね」。練習に来るお客さんたちも、作陽高校の活躍を楽しみにしているそうだ。

>>後編へ続く

月刊ゴルフダイジェスト2023年1月号より

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