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【ティアドロップ物語】Vol.5 フォーティーン・MT-28「竹林隆光氏が世界に広めた“激スピン”ウェッジ」

TEXT&PHOTO/Yoshiaki Takanashi(Position ZERO)

現在主流となった「ティアドロップ」型のウェッジは、どのようにして誕生し、受け継がれてきたのか。最終回となる今回は日本発の激スピンウェッジ「フォーティーン・MT-28」を取り上げる。

前回のお話はこちら

2002年
フォーティーン・MT-28

原口鉄也プロの要望を叶えるために開発がスタートした「MT-28」。ゼロベースでヘッドの開発をしていくにあたり、金型を作らずに試作ヘッドを作っていく過程で、機械加工でヘッドを削り出す方法が編み出されたという。最初から平滑性の高いフェースで強いバックスピンを生むという狙いはなく、機械加工で作った試作ヘッドが結果として高いスピン性能を示した、というのが激スピンウェッジ誕生の裏話のようだ。「MT-28」のネーミングは当時フォーティーンのプロ担当だった宮城裕治氏のイニシャル「M」と鉄也の「T」に「ツー(2)」「ヤ(8)」を組み合わせたもの

ミルドフェースウェッジの元祖

シェイプ、ソール、グラインド……。現在、ティアドロップ型のツアーウェッジ界をリードしているのは、間違いなくアメリカンブランドである。しかし、見落としてはならない日本ブランドの“功績”がある。それが「ミルドフェース&ミルドグルーブ」をウェッジの基本設計として根付かせたことだ。機械加工による真っ平らなフェースと、エッジが立った溝を持つ“激スピン”ウェッジは日本から世界に広まったのだ。

今から約20年前。誰もが強烈なバックスピンをかけられると評判になったウェッジが登場。2002年発売のフォーティーン「MT-28」である。一般販売に先んじて、そのプロトタイプは日本男子ツアーを席巻。契約ブランドの枠を越えて、トッププロたちが順番待ちを成すほどの人気を博した。

20年前にデビューした「MT-28」の顔。平滑なフェース面と丸いホーゼルをつなぐネック部分の絶妙な造形を含め、ウェッジの顔全体は、やはりティアドロップ形状だった

後年、フォーティーンの創業者、故竹林隆光氏は、この「MT-28」ブームについてこう語っていた。

「機械加工で削り出した平滑なフェース面が、鋭いバックスピンを生み出す最大のポイントだったわけですが、面が平らであればあるほどクラブとして成立させるのは難しくなる。真っ平らなフェースから丸い円柱であるホーゼルに向かって、なだらかに面を繋いでいかなければならないからです。ヒールポケットに段差が出ないように削るには、高度な職人技が必要でした。プロ用として細々と作っていたときはまだしも、量産ヘッドとなると均一性を確保するのがものすごく難しかったですね」

従来のウェッジのように鋳造でヘッドを成型し、プレス加工で溝を入れる製法のほうが、断然簡単に低コストで作ることができた。しかし、強烈なバックスピンの源であるフェースの平滑性は、従来の方式では生み出せないものだったのだ。

「MT-28」のミルドグルーブ(角溝)。溝容積の制限はされたが、平滑な面の摩擦力が強烈スピンの源であること自体は、新溝ルール下でも変わっていない。現在、機械加工で溝を刻む意味は、厳密化されすぎたルールに適合する溝を精密に作り出すためと言ってもいい

日本から世界に広まった
ウェッジの基本設計

「バックスピンを生み出すのは彫刻溝がボールのカバーに食い込むからだと言われていますが、これは当たっているようで半分違っています。バックスピンは、溝よりも面積の大きい、溝と溝の間の“面”がカバーにベタッと密着することで生み出されるもの。つまり、摩擦力なんです。鋭い溝のエッジはボールとフェースの間に挟まった芝生などをカットするため。角溝は細切れにした葉や土、水などの介在物をたくさん格納するために有効な“形状”なのです」(竹林氏)

ウェッジショットでも40ヤードを超えるフルショットに近いスウィングでは、溝ではなく“面”が生み出す摩擦力がバックスピンを生み出す。シャープな溝がボールの軟らかいカバーに食い込んでスピンがかかるのは、40ヤード以下のごく短いアプローチに限定されるという。これが “半分違っている”と言った竹林氏の真意だった。

均一な量産性という課題がありつつも、「ミルドフェース&ミルドグルーブ」はフォーティーンウェッジの基幹技術となり、その人気が他ブランドのツアーウェッジにも大きな影響を与えていくことになる。ブリヂストンスポーツが精密金属加工で知られるモータースポーツでお馴染みの「無限」で限られたプロ用のウェッジを作り始め、そのウェッジを引っ提げて丸山茂樹が米ツアーに進出。日本生まれの機械加工フェースの激スピン性能が、米ツアーのプロと競合ブランドを震撼させることになったのだ。

2010年の“新溝ルール”施行以降、初代「MT-28」で採用されていたような、いわゆる「角溝」は禁止になってしまったが、これは排水溝の容積を狭めたに過ぎない。バックスピンは平滑な面の摩擦力が決める。「MT-28」から始まった激スピンウェッジの系譜は、現在のツアーウェッジに引き継がれている。

進化し続けるフォーティーンのウェッジ

RM-4

バックフェース面左右方向に段差をつけた新技術のステップブレード設計を採用した「RM-4」。フォーティーンのティアドロップ系ツアーウェッジの系譜は、このモデルに受け継がれている

「RM-4」のほかにフォーティーンでは「DJ-4」(左)「C-036」(中)「TK-40」(右)など、アマチュアの悩みを解消する多彩なウェッジがラインナップされているが、これは竹林氏の “ゴルファーの夢は、できる限りクラブの性能アップで叶えたい”という開発思想を守り、具現化した結果である

週刊ゴルフダイジェスト2021年9月28日号より