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【ティアドロップ物語】Vol.4 キャロウェイ「ティアドロップからハイトウへ」

TEXT&PHOTO/Yoshiaki Takanashi(Position ZERO)

現在主流となった「ティアドロップ」型のウェッジは、どのようにして誕生し、受け継がれてきたのか。連載第4回目は形状の美しさとプロからの要望を追求したキャロウェイのウェッジづくりのこだわりに迫る。

前回のお話はこちら

2004年
キャロウェイ
フォージド+

2002年にキャロウェイ初のティアドロップ「フォージドウェッジ」が発表されると、04年にフィル・ミケルソンがキャロウェイ契約となり、「フォージド+」からロジャー・クリーブランドとの共同作業が始まった。最初に試されたコンケーブ(凹み)ソールはミケルソン専用の「PMグラインド」に結実。その後もさまざまなトライアルが続けられ、形状も含め、完全にパーソナライズされていった

クリーブランドからキャロウェイへ

「ティアドロップ」ウェッジの元祖「TA588」を1988年に生み出したロジャー・クリーブランドは、自らの名を冠した「クリーブランドゴルフ」を90年にロシニョール社に売却した。新しい“経営者”は彼に前衛的なクラブの創造を指示。それはクリーブランド創業当時から随所にクラシック的な“用の美”を散りばめてきたロジャーのデザインとは一線を画すものだった。だが彼は会社の意向を受け入れ、フェースからネックが生えたような特異な形状の「VAS」などをデザインしたが、どうにも気持ちは晴れなかった。それはトム・レーマンやコーリー・ペイビン、ベン・クレンショーなど、旧知の契約プロに見せるのが辛いと感じるクラブだったからだ。ロジャーもプロゴルファーである。革新のなかにも構えやすさや安心感といった伝統的な“道具としての美しさ”を備えていなければならないと考えていた。「TA588」がまさにそれだった。しかし、「VAS」はその対極にあった。

同じ頃、革新と伝統の間で思い悩む男がもうひとりいた。キャロウェイゴルフの開発総責任者、リチャード・C・ヘルムステッターである。当時のキャロウェイは「ビッグバーサアイアン(X-9)」を発売して脚光を浴びてはいたが、 “前衛的すぎる”デザインがネックだった。ヘルムステッターは逆にプレーヤーの目線でクラブを見ることのできる人材を探していた。まさに相思相愛、渡りに船。
96年1月、ロジャー・クリーブランドはキャロウェイのチーフデザイナーとして電撃的な転身を果たしたのである。

ロジャー・クリーブランドが開発したクリーブランド「VAS」とリチャード・C・ヘルムステッターが生み出したキャロウェイ「ビッグバーサアイアン」。どちらも当時としては異端ともいえる前衛的なデザインだった

革新と伝統が融合した道具としての美しさ

ロジャーのキャロウェイでの初仕事は「ビッグバーサ(BB)X-12」や「BBツアーウェッジ」の監修だった。それ以前の「BBアイアン」と「X-12」、あるいは「X-14」の間にある劇的ともいえる形状変化を知る者は、彼の審美眼がいかに確かなものであるかを実感できるはずである。ウェッジデザイナーという印象が強いが、クラブ全般にわたってキャロウェイクラブの美しさを整えること、それがロジャーの役割だった。伝統的なティアドロップウェッジの開発に着手したのは、02年の「フォージドウェッジ」が最初になる。これ以降、『フォージド+』、『Xフォージド』ウェッジとバックフェースやネックに、「・R・」という“ロジャー作”を示す刻印の入ったツアー用ウェッジが、フィル・ミケルソンやアニカ・ソレンスタムのバッグに入るようになったのだ。

極端なハイトウデザインはミケルソンがジュニア時代から愛用したピンゴルフ「EYE2」のLWにインスパイアされたもの。ロブショットに特化した機能を持つ「EYE2」LWでゴルフを覚えたからこそ、ミケルソンの傑出したロブショット技術が生まれた。全面スコアリングラインも、超ハイロブショットではありえないほどトウ先ヒットになるからだ

当時、ロジャーにツアーウェッジデザインで最も大切なこととは何か、と聞いたことがあるが、そのときの答えはこうだった。

「フィルのウェッジを作るときはフィルの目で。アニカのときはアニカ、上田桃子のウェッジなら桃子の目になって構えてみることが大事だね。そうすれば最適なシェイプもソールの形状も自然に見えてくる。ウェッジはゴルファーにとって“特別”なものだからね」

04年以降、ミケルソンとは二人三脚でパーソナルなウェッジを作ってきた。“PMグラインド”、“マックダディグルーブ”、フェース全面に溝を切った“フルフェース”デザイン、そしてハイ・トウシェイプ。今や他ブランドにも大きな影響を与える新しいティアドロップデザインを、ロジャーはプレーヤーそれぞれの“目”になることで生み出し続けている。

PM GRIND 19

ミケルソンが理想とする3種のアプローチ、ノックダウン(低打ち出し・ハイスピン)、ピッチショット(中弾道・ハイスピン)、フロップ(超高打ち出し)を実現するために、ソール、形状、重心設計、スコアリングラインすべてにこだわって製作された

PMグラインドの要素が詰まった最新ウェッジ

JAWS FULL TOE

最新の「JAWS FULL TOE」ウェッジ(9月10日発売予定)にハイトウデザイン、フルスコアラインといった「PMグラインド」の遺伝子が受け継がれている

週刊ゴルフダイジェスト2021年9月14日号より