【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.135「カップインで首を傾げる妙なスポーツ」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Masaaki Nishimoto
僕の弟子のプロゴルファーの話です。彼は飛ばし屋だけどパターがイップス系になってしまって。15年ほど前、合宿のラウンド中、1~2メートルのパターが入っているのに首傾げている彼の姿を見たうちの師匠(高松志門)に、「オマエは“健康な鬱”やな」って言われてました。
この前、5年ぶりに試合の練習ラウンドで彼と一緒に回ったときに、「高松さんに言われた『健康な鬱』がいまだ残っているんです」言うから、だったら「『俺は病気や』思ってやったらエエやんか。そしたら気楽やぞぉ。病気やねんから、入らんでも何でも気にせんでエエんやからなぁ」と言うときました。
でも、ゴルファーにはそういう人が多いですね。お客さんでもドライバー打って真ん中に行っとんのに首を傾げ、周りから「ナイス!」言われても「いや、たまたま」とか言う人がけっこういます。
かくいう僕も、試合でパーンと打って、「アカン、今のは振れんかった、もうひとつやなぁ」って首傾げとる。ド真ん中に行ってるのにでっせ。
何で首を傾げるんかいうと、完璧やないからです。そら、詰まりなくイイ感じで振り抜けて、完璧に芯でとらえたときには首は傾げません。でもそんなこと滅多にありませんからね。それでちょっとヒールに当たったり、先っぽに当たったりしたらおかしいなとなる。イップスの人なんかは常に「なんかおかしい」と違和感を持ってストロークしとるから、1メートルが入っても首を傾げるわけです。
しかし結果がよくてもこんなに首傾げるのはゴルフくらいでっせ。
サッカーなんか、カスったようなキックでゴールに入ったからって、それで腕組みして首傾げてる人はおらんからね。逆に相手のディフェンダーに当たって入ってもガッツポーズしとる。だから、サッカーで“キックイップス”なんか聞いたことないですやん。
でもゴルフは石ころに当たってカップインしたら、「おかしいな、これに当たってなきゃ外れとんねん」って首傾げる。入ったんやから喜んだらエエですやん。
あまりに完璧を求めすぎると、皆、“健康な鬱”になりまっせ。
「なんでも入ったら喜ぶ。そんなことでいいんや思います」
PHOTO/Masaaki Nishimoto
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2023年7月4日号より