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【インタビュー】シード復帰の矢野東「僕は人一倍あきらめが悪い」

度重なるケガと不調により、3年間取り戻せなかったシード権。その間に子育て、YouTube、スクール事業を始め、いよいよシニアツアーか……と思った矢先に2020年の特別QTで1位。そして2021年を戦い、4年ぶりのシード権復活を成し遂げた。スマートに見えて実は執念深い矢野東。その心の内を語ってもらった

TEXT/Mika Kawano PHOTO/Takanori Miki THANKS/Five elements

矢野東
やのあずま。08年にツアー2勝を含む10試合連続トップ10入りで賞金ランク2位と大躍進。その後は椎間板ヘルニアや右ひじの手術などに苦しみ、シード落ちを余儀なくされた。2020年の特別QTで1位を獲得すると、今シーズン見事、シード復活を勝ち取った

QT締め切り10日前まで迷っていた

コロナ禍で2年統合シーズンとなった昨季、21年の出場チャンスを与える目的で行われた特別QT。トップ通過したのが矢野東だ。

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特別QTは20年の末に開催された。正直自信もなかったしエントリーの締め切り10日前くらいまで出るか出ないか迷っていました。後輩から練習ラウンドに誘われて「迷ってるんだよね」と言うと「とりあえず出ましょうよ」と。で、出ることになったんですが、モチベーションは低かった。でも本番になったら調子が上がって、もしかしてこれいけるかもと思ったら結果的に1位(笑)。

迷っていたのはショートゲームに不安があったからです。以前はパターが得意だったんですけど、19年のQTでは1メートルのパットがカップに届かないとか、手の震えもあったりして……。イップスですね。グリップも悩みに悩みました。アプローチのほうがもっとひどい。遊びのゴルフでは平気なのに試合だとじんわりくる。課題はあったけれど会場のザ・ロイヤルGCはフェアウェイも広くてグリーンが大きくてアプローチをする場面が極端に少なかった。ショットは飛んで曲がらない状態だったのでアプローチがダメでもスコアが出せたんです。

練習すればするほど迷いが多くなっていった

QTでつかんだチャンスを生かし来季のシードを獲得。その裏には40歳を過ぎて取り組んだスウィング改造がある。ゴルフの迷路から救ったのは若いコーチだった。

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ケガをして手術もしてボロボロになってQTもサードで落ちて無職に。どん底だった20年に、5年後のツアー優勝を目標に掲げたんです。それが改造のきっかけです。150ヤード打つのに10通りの打ち方ができちゃう。どれもそこそこ上手くいくから迷う。10を大きく分けると“押す”か“弾くか”の2つなんです。いま習ってるコーチにどっち? と聞いたら即答で「押す」。QTでは完全に「弾く」打ち方を消していました。



以前はクラブの入射角や体の使い方などの組み合わせで10通りあって正解がわからず苦しみました。ひたすらいい球を打ちたい、と。でもいいスウィングをしても迷いは増える一方。いまは理解力が上がったので、理想じゃない構えやインパクトでも狙ったところに球を落とせるようになりました。

結局ゴルフって圧倒的に物理なんですよ。メンタルじゃない。グリップ、アドレス、入射角、打ち出す方向の組み合わせ。ひとつだけ良くしてもスウィングはバラバラになる。それぞれが連動していけば変なスウィングでもコントロールできるんです。いまは、スウィングの全体像が明確にわかっているから修正もしやすい。ミスもするけれどクエスチョンがないから試合に出ても楽でしたね。

いま取り組んでいるのは切り返しのタイミングを早くすること。あとは手首を柔らかく使うことです。

スウィングがわかれば300Yだって飛ばせる

昨季の平均飛距離は287.72ヤード、ツアー人生自己最長を記録した。飛べば曲がるではなく“飛んで曲がらない”を矢野は目指す。

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もっと飛ばそうと思えば飛ばせるけどコースの幅を考えるといまは振ったら制御できない。コントロールできる範囲で振っています。

日本人は飛ぶと曲がると思っているけれどそれは間違い! クラブの動きと体の動きがわかれば飛んで曲がらない。世界のトップがそうじゃないですか。年上の人が「東、飛んでるね」って言ってくれますが、年齢に関係なく飛ばせるのを僕が体現したい。日本の賞金王は曲がらない人のほうが多かったから、飛ばないけど曲がらないというのが普通でした。でも世界は違う。日本は遅れています。

効率良く振ればプロなら300ヤードいけると思いますよ。見ててもったいない人が多い。僕も「飛んでるな」と言われたい。この歳でいきなり300ヤードは異常だけど、最終的にはそれを目指してます。

昨シーズンはコースが短く感じました。ドライバーだけじゃなく中空アイアンが飛ぶっていうのもあったけど、短く感じればやっぱりゴルフは簡単ですよ。

「飛ばないけど曲がらない、それで満足しているプロは僕に言わせればナンセンス。僕は“飛んで曲がらない”スウィングを完成させますよ」

環境を変えるためにすべてを受け入れた

デビューの頃から“イケメンなのにいいヤツ”が矢野の定評。そしていま彼は評価のアップグレードに取り組み始めた。

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どん底のときに子供ができて、めちゃくちゃ可愛くてゴルフ以外は幸せだったので悲壮感はなかったです。すぐに気持ちを切り替えて復帰への5年計画を立てました。僕、できないことはないと思っているんで、まずは行動。自分であれこれ考えるんじゃなくいろんな人に話を聞いて人脈を作った。そうしているうちにゴルフアカデミーの監修の仕事だったり自分のYouTubeチャンネルも立ち上げた。1つの環境でやってたら世界は広がらない。今はYouTubeを見た人にレッスンを頼まれたり、どんどん広がってます。

将来のビジョンがはっきりしているんです。最終目標は恥ずかしいから秘密ですけど、そのために何をすべきかを常に考える。ゴルフに限らず貪欲ですね。欲張るからゴルフはダメ(苦笑)。全部バーディ欲しくなっちゃうから。口では1日4アンダーでいいと言いますけど本音は違うかな。

昔はプロアマの仕事は断ってました。でも19年以降は頼まれた仕事は全部受けています。女子プロの解説もインタビューも。だからスケジュールはパンパン。いろんな人に自分を知ってもらえばプラスになるし成長できる。矢野東っていう商品価値を高めるためにはなんでもやります。

外づらを良くしたいのは昔から。人として良く見られたいから。お腹が出ないように走るのは見栄えのため。ビジュアルはいいほうがいいじゃないですか。矢野東というブランディングが大事ですから。プロゴルファーの新しいモデルケースになりたい、そう思っているんです。

スタイリッシュなイメージと泥臭い諦めの悪さはなんだかミスマッチにも思える。だが矢野東の辞書に“あきらめ”の文字はない。復活優勝は遠くなさそうだ。

「僕、仕事の依頼は断らないんで」

月刊ゴルフダイジェスト2022年2月号より

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