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【インタビュー】シード復帰の矢野東「僕は人一倍あきらめが悪い」

度重なるケガと不調により、3年間取り戻せなかったシード権。その間に子育て、YouTube、スクール事業を始め、いよいよシニアツアーか……と思った矢先に2020年の特別QTで1位。そして2021年を戦い、4年ぶりのシード権復活を成し遂げた。スマートに見えて実は執念深い矢野東。その心の内を語ってもらった

TEXT/Mika Kawano PHOTO/Takanori Miki THANKS/Five elements

矢野東
やのあずま。08年にツアー2勝を含む10試合連続トップ10入りで賞金ランク2位と大躍進。その後は椎間板ヘルニアや右ひじの手術などに苦しみ、シード落ちを余儀なくされた。2020年の特別QTで1位を獲得すると、今シーズン見事、シード復活を勝ち取った

QT締め切り10日前まで迷っていた

コロナ禍で2年統合シーズンとなった昨季、21年の出場チャンスを与える目的で行われた特別QT。トップ通過したのが矢野東だ。

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特別QTは20年の末に開催された。正直自信もなかったしエントリーの締め切り10日前くらいまで出るか出ないか迷っていました。後輩から練習ラウンドに誘われて「迷ってるんだよね」と言うと「とりあえず出ましょうよ」と。で、出ることになったんですが、モチベーションは低かった。でも本番になったら調子が上がって、もしかしてこれいけるかもと思ったら結果的に1位(笑)。

迷っていたのはショートゲームに不安があったからです。以前はパターが得意だったんですけど、19年のQTでは1メートルのパットがカップに届かないとか、手の震えもあったりして……。イップスですね。グリップも悩みに悩みました。アプローチのほうがもっとひどい。遊びのゴルフでは平気なのに試合だとじんわりくる。課題はあったけれど会場のザ・ロイヤルGCはフェアウェイも広くてグリーンが大きくてアプローチをする場面が極端に少なかった。ショットは飛んで曲がらない状態だったのでアプローチがダメでもスコアが出せたんです。

練習すればするほど迷いが多くなっていった

QTでつかんだチャンスを生かし来季のシードを獲得。その裏には40歳を過ぎて取り組んだスウィング改造がある。ゴルフの迷路から救ったのは若いコーチだった。

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ケガをして手術もしてボロボロになってQTもサードで落ちて無職に。どん底だった20年に、5年後のツアー優勝を目標に掲げたんです。それが改造のきっかけです。150ヤード打つのに10通りの打ち方ができちゃう。どれもそこそこ上手くいくから迷う。10を大きく分けると“押す”か“弾くか”の2つなんです。いま習ってるコーチにどっち? と聞いたら即答で「押す」。QTでは完全に「弾く」打ち方を消していました。


以前はクラブの入射角や体の使い方などの組み合わせで10通りあって正解がわからず苦しみました。ひたすらいい球を打ちたい、と。でもいいスウィングをしても迷いは増える一方。いまは理解力が上がったので、理想じゃない構えやインパクトでも狙ったところに球を落とせるようになりました。

結局ゴルフって圧倒的に物理なんですよ。メンタルじゃない。グリップ、アドレス、入射角、打ち出す方向の組み合わせ。ひとつだけ良くしてもスウィングはバラバラになる。それぞれが連動していけば変なスウィングでもコントロールできるんです。いまは、スウィングの全体像が明確にわかっているから修正もしやすい。ミスもするけれどクエスチョンがないから試合に出ても楽でしたね。

いま取り組んでいるのは切り返しのタイミングを早くすること。あとは手首を柔らかく使うことです。

スウィングがわかれば300Yだって飛ばせる

昨季の平均飛距離は287.72ヤード、ツアー人生自己最長を記録した。飛べば曲がるではなく“飛んで曲がらない”を矢野は目指す。

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もっと飛ばそうと思えば飛ばせるけどコースの幅を考えるといまは振ったら制御できない。コントロールできる範囲で振っています。

日本人は飛ぶと曲がると思っているけれどそれは間違い! クラブの動きと体の動きがわかれば飛んで曲がらない。世界のトップがそうじゃないですか。年上の人が「東、飛んでるね」って言ってくれますが、年齢に関係なく飛ばせるのを僕が体現したい。日本の賞金王は曲がらない人のほうが多かったから、飛ばないけど曲がらないというのが普通でした。でも世界は違う。日本は遅れています。

効率良く振ればプロなら300ヤードいけると思いますよ。見ててもったいない人が多い。僕も「飛んでるな」と言われたい。この歳でいきなり300ヤードは異常だけど、最終的にはそれを目指してます。

昨シーズンはコースが短く感じました。ドライバーだけじゃなく中空アイアンが飛ぶっていうのもあったけど、短く感じればやっぱりゴルフは簡単ですよ。

「飛ばないけど曲がらない、それで満足しているプロは僕に言わせればナンセンス。僕は“飛んで曲がらない”スウィングを完成させますよ」

環境を変えるためにすべてを受け入れた

デビューの頃から“イケメンなのにいいヤツ”が矢野の定評。そしていま彼は評価のアップグレードに取り組み始めた。

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どん底のときに子供ができて、めちゃくちゃ可愛くてゴルフ以外は幸せだったので悲壮感はなかったです。すぐに気持ちを切り替えて復帰への5年計画を立てました。僕、できないことはないと思っているんで、まずは行動。自分であれこれ考えるんじゃなくいろんな人に話を聞いて人脈を作った。そうしているうちにゴルフアカデミーの監修の仕事だったり自分のYouTubeチャンネルも立ち上げた。1つの環境でやってたら世界は広がらない。今はYouTubeを見た人にレッスンを頼まれたり、どんどん広がってます。

将来のビジョンがはっきりしているんです。最終目標は恥ずかしいから秘密ですけど、そのために何をすべきかを常に考える。ゴルフに限らず貪欲ですね。欲張るからゴルフはダメ(苦笑)。全部バーディ欲しくなっちゃうから。口では1日4アンダーでいいと言いますけど本音は違うかな。

昔はプロアマの仕事は断ってました。でも19年以降は頼まれた仕事は全部受けています。女子プロの解説もインタビューも。だからスケジュールはパンパン。いろんな人に自分を知ってもらえばプラスになるし成長できる。矢野東っていう商品価値を高めるためにはなんでもやります。

外づらを良くしたいのは昔から。人として良く見られたいから。お腹が出ないように走るのは見栄えのため。ビジュアルはいいほうがいいじゃないですか。矢野東というブランディングが大事ですから。プロゴルファーの新しいモデルケースになりたい、そう思っているんです。

スタイリッシュなイメージと泥臭い諦めの悪さはなんだかミスマッチにも思える。だが矢野東の辞書に“あきらめ”の文字はない。復活優勝は遠くなさそうだ。

「僕、仕事の依頼は断らないんで」

月刊ゴルフダイジェスト2022年2月号より

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しかし、8月にオークモントCCで開催された全米アマ。ここで一度、心が折れそうになった。「今まで回ったコースで一番難しかったですね。それまで一番だと思っていたロイヤル・メルボルンより、フェアウェイにアンジュレーションがあり、ボールが転がる。グリーンも硬くて、さらに風もプラスされた感じで。でも、自覚が足りなかった。初出場でしたが、本当にレベルが高い試合に出るという自覚と、世界ランク1位として出ることに対しての自覚です。現地では、様々なメーカーの方に声をかけていただいたり、ペアリングもランク1、2、3が一緒で注目組でしたが……」結果は無念の予選落ちだったが、そこでしっかり自分を見つめられるところも中島の強さだ。「初日80を叩いてしまい、そこで切り替えられないと本当にズルズルいきそうだったので、きちんと次にやるべきことに向き合って考えてはいけました。以前は、体が強くて大きくてパワーゲームをする選手が多いイメージでしたが、きちんと皆マネジメントして小技で勝負する選手もいますし、少し変わってきているのかなと」変わったのは中島のほうかもしれない。心技体が確実に成長しているからだ。「帰国後の隔離は長くて大変でしたが、トレーニングや練習ができて、自分自身を考え直す時間もあった。すごくいい2週間でした。『ゴルフデータ革命』という分厚い本を勉強もしました。ショートゲームの練習やトップ選手の考えていることはすべてデータに基づくべきなんです」その後、5日間、毎日2ラウンドする大学のリーグ戦に出場。そうしてパナソニックオープンを迎える。この試合ではリーグ戦から続く14すべてのホールでドライバーを使うマネジメントを試した。 続きを読む ドライバーを振り続けたパナソニックOP 「(ナショナルチームヘッドコーチのガレス・)ジョーンズさんと話をして徹底しました。優勝など結果目標はまったくなかった。14回毎日ドライバーを振り切るというだけ。あとはコースにアップダウンがあったので、痩せないよう、試合中でも筋力を高めるため毎日トレーニングすると決めてやった。調子は悪かったんです……」以前中島は、「調子が悪くてもターゲットにだいたい飛ばせることは強み」だと言っていた。「調子とスコアは比例しない」が座右の銘でもある。そうして、プレーオフの末、アマチュア優勝を果たした。優勝後、嬉し涙を流した中島。「結構涙もろい。負けても勝ってもいつも泣いています。泣いたのは東建以来です」と笑う。春の東建は金谷拓実に競り負けての悔し涙だった。その金谷がプロ転向したときは寂しくて泣いた。クールに見えてじつは感情豊かなのだ。 4日間、体全体を使って打ち、決めたスウィングで迷わず振り抜いた。「自分の優勝で泣いてくれた方がたくさんいたので嬉しかった」と本人も涙 「でも優勝は自信になりました。最終日のバックナインは、優勝争いの臨場感のなかでドライバーを打ついい機会にもなった。今後そういう場面がきた時の自信となる。ドライバーで打つと課題である50~60Yの練習にもなりました。朝トレをしたので筋肉痛で左にいくミスが多かったんですが、終盤の15、16番でフェアウェイに打てたのは成長したところ。パットも勝負どころでしっかり打てた。プレーオフでもショートしなかったのは成長と感じた部分です」中島は、結果に焦らない。すべては、もっと強くなるため。「もっと先の目標」があるからだ。 結果にこだわるより結果につながる準備を 中島のゴルフは、JGAのナショナルチームで磨かれている。尊敬する先輩、金谷拓実とは今も時々連絡を取り合う。「全米アマ後、言ってもらったんです。金谷さんもオーストラリアオープンで80以上叩き、僕と同じ思いをしたと。そしてジョーンズコーチと出会い、自分と向き合うことやデータに基づいて練習をすることをしっかり行ったと。だから、僕もそれらを改めてきちんとやってみようと思ったんです」優勝後、金谷はすぐに電話をくれたという。「3日目が終わった時点で優勝すると思った、そんなに驚かなかった。またお互い頑張りましょうみたいに言われました」歳は2つ違うが、同じチームで合宿や海外遠征などで同じ時間をすごし、よき相談相手、ライバルとなった。金谷は中島について「きれいなゴルフをする」と言う。多くの人が中島のスウィングを美しいと評する。「自分では、苦手をつくらないというか見せないという感じなんです」という中島は、得意クラブも「ない」し、苦手クラブも「ない」と答える。 15年日本アマ東海クラシック”練ラン”試合で戦い、共に練習し高めあってきた2人。アマ時代「世界一の景色」を聞いたとき「達成できたら次の目標がくるから何も変わることはない」と答えた金谷。「それは僕も感じました」 データに基づいて練習することが大事です 中島の現在のコーチといえば、ナショナルチームのヘッドコーチ、ガレス・ジョーンズ氏だ。「ジョーンズさんは、技術だけではなく、アスリートとしての気持ちの持ち方なども指導された。ヘッドコーチでありながらチームメイトです」「ゴルフでは事前の“準備”が一番大切」というジョーンズ氏。試合のラウンドの出来は、コースの下調べに基づいたゲームプランをいかに忠実に実行できるかにかかっているという。昨年末、中島に話を聞いたとき「大事なのは準備、準備、準備です」と繰り返していた。ジョーンズ氏の教えが徹底しており、信頼関係がうかがえる。試合の準備だけでなく、トレーニングも、栄養・自己管理もすべてが“準備”。コロナ禍となった昨年も、いつ試合があってもいいように準備していたという。これもジョーンズ氏の教えだ。スウィングづくりにおいて、「細かいことは自分でやりたい。球筋からスウィングをつくるタイプなので、こういう球が出たらこうすれば直るというのがわかっています。動画を毎回、正面と後方を撮ってチェックします」という中島。そして今は、リモートでもミーティングができる時代。週1度くらいはジョーンズ氏と連絡をとり、スウィングや課題の確認をする。「携帯をつないで動画を見せたりして、Zoomでレッスンするような感じです。最近は、腰に負担がかかるスウィングになっているので、それを改善していくようチェックしました」 持ち球はフェード。300Y級の飛距離と切れのあるアイアンショットも持ち味。他人のスウィングはあまり参考にしない。「僕の型にはまっていきたい」 結果にこだわるよりは、結果を出すための準備が大切。だから、練習は質よく。ショートゲーム中心に、「ディーププラクティス」=深い練習もテーマだ。「集中して短時間でグッとやるのは自分にすごく合うんです。試合期間中は100球も打ちませんが、会場にいって、他の選手が練習をしているのに僕が先に上がるのがすごく嫌で、やりすぎちゃうこともある。そこは頑張って自分のことに集中したい。でも、パットなんかは誰よりも残ってやっていたいんですよ」学ぶことが好きな中島。大学でも栄養学や心理学などを学べる環境にあることが嬉しかった。「大学は去年で全部終わりましたが、JGAの合宿でも授業5回分くらいの内容の濃い講習があります。それにもし、メンタル面で困ったことがあっても、大学の監督やJGAの皆さんが助けてくれます」周りの意見を大事にできることも中島の強さかもしれない。 データは「客観的な事実」だというジョーンズ氏。準備のため練習ラウンドではコースやグリーンのデータも徹底チェックする 「準備、自分と向き合う自信と自覚を持つ」 中島はクールでカッコよく見える。そういう意見があると伝えると少し照れながら「嬉しいです」。高校の頃から表情を出さないように意識しているのだという。“鬼”と言われ賞金王を2回とったキム・キョンテに憧れてもいた。「あのサングラスをして、何を考えているかわからない。ポーカーフェースで強い。一緒に回っている人は怖いというか、相手のほうが意識するから、アドバンテージがあるかなと思ったんです」冷静に話しながら、さりげなく面白いことを入れようとする素の中島は、姉が2人いるからか“末っ子キャラ”でもある。「僕は本当に自由でした。ゴルフをしたいときは思い切りやって、したくないときはしなかった。ただ、楽しくやるだけ。スコアで怒られたことは一切ないです。でも、うちの家族、優勝した時は、冷めてましたねえ(笑)」今後、取り組む課題はいろいろある。50~60Yの精度、パッティング……。「何より今は、準備はもちろん、自分と向き合うこと、自信を持つ、自覚を持つ、この4つがテーマです」と言う中島。 50~60Yを磨くスライスラインを克服するウェッジは音をしっかり感じながら打つ。トレーニングで握力が上がり微妙な距離を強く打ってしまいがち。でも技術を磨けば調整できると考える/スライスラインを外側に外しているときは状態が悪くない。「元々スライスラインが苦手。克服できたらパッティングは変わると思います」 そして、体づくりは綿密に。ここぞという試合で、ケガや病気になった苦い経験があるからこそ人一倍勉強して気をつける。携帯電話に体重・体脂肪率・体組成などを日々記録もしている。「ケガで試合に出られないということが多いので、そこは課題です。でも、その出られないことで学べることや成長できることもあるので、しっかりやっていきます」以前は感覚派を自認していたが、データを取り入れるからこそ、成長はあると考えている。「7㎏ほど増えて体脂肪率は減り筋量は増えました。大学入学前は、下半身しか強化していなかった。今は上半身もトレーニングする。確かにこれで小技のイメージに繊細さがなくなった。左は20だった握力が両方50になり、ラフからも負けないように打てるようにはなったけど……でも、これでも大丈夫なように頑張ります」変化を恐れると成長はない。「トレーニング文化が日体大ゴルフ部にも根づいてきていますし、パナソニックオープンで僕のキャディをしたのは1年生ですが、トレーニングについてはもちろん、プレー中のマネジメントも話しながらやるので、どんどん知識が広がってくれたらなと思います」さりげなくリーダーシップをとれるのも中島の魅力だ。「僕は下を見ている余裕はないので、自分がしっかりやるべきことをやって、それを目標としてくれる選手がいたら嬉しいです。僕は基本的に上を見ながらやって、横にナショナルチームと大学のチームを気にしながら、下は自然についてきてくれる、それが理想です」 「先輩方を受け継いで、アジアアマで優勝してマスターズに出たい」 目下の目標、アジアパシフィックアマチュア選手権(ドバイ、クリーク・ゴルフ&ヨットC)は、11月3日から始まる。「コースは初めて。でも、他の選手もあまり行ったことがない国だと思うので皆フラットな状態。試合前と試合期間中に、いかにいい準備をできたかが勝負を分けるという感じだと思います」すぐにプロ転向するつもりはまったくない。中島には、世界でもっとも活躍したアマチュアに送られる「マーク・マコーマックメダル」の権利で、来年の全米オープンと全英オープンの出場権もあるのだ。「楽しみです。それに、大学の名前をお借りしているので来年の11月の大学の試合まではアマチュアでいたい。でも本当に、目先の試合に集中すること。世界一になっても優勝しても実感もないですが、次の目標がくるので、自覚はきちんと持たなければ。ランク1位やツアー優勝をしたことの自覚です。それを自信にして次の試合に行きたい。でも、マスターズが叶ったら来年はすごい大きな1年になると思う。憧れですから」オーガスタで感動して泣く中島啓太の姿を見てみたい。 冷静かつ自分と向き合う中島だが、ふとしたときのお茶目な面も……「アジアアマは松山さんも金谷さんも優勝されてますし、ゴルフ人生においてすごくいい経験になると思うので、優勝してマスターズに出ることをしっかり受け継いでいきたいです」 週刊ゴルフダイジェスト2021年11月16日号より こちらもチェック!
  • 今年、初優勝に続き2勝目も挙げ、賞金王争いを引っ張る木下稜介。30歳を迎えたばかりの男は、なぜこうも強くなったのか。じっくり話を聞くと、活躍につなが3つのキーワードが見えてきた。 PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara 木下稜介1991年、奈良県生まれ。香川西高卒業後、大阪学院大学へ。卒業後プロデビュー。奈良国際GCの近くで生まれ育った。「奈良は静かで落ち着きます」 【キーワード1】日々是努力 「変わらないと上にいけない」 「大学4年時のQTで3位になってツアーに出始めましたが、正直舐めていた部分もあった。シードくらいすぐにとれるかなと。でも開幕戦の東建で、グリーンの硬さや風の強さに戸惑い、全然通用しない。プロとアマの違いを特にコースセッティングで感じました」これが木下の1つめの壁である。そこからシードをとるまで5年。「めちゃめちゃ長かったです。焦りしかなかった」。その焦りは練習にぶつけるしかなかった。「練習は本当にしました。でも思うように成績が出ない。何かを変えないと上にいけないと思い、トレーナーさんとコーチに見てもらい始め少しずつよくなったと思います。1人ではムリでした」昨年のVISA太平洋では惜敗して2位。「優勝に近づいた感じはありましたが、実力がないと勝てないと。負けた日は寝れないくらい悔しかったけれど、まだダメだと思えたので、負けてよかったのかなと今になって思います」20代後半は“アラサー”と言われる年齢。しかし、人はいつでも変わることができるのだ。では、初優勝となった6月のツアー選手権を振り返ってもらおう。「ミスの原因はわかっていたので気を付けながらプレーし、またプレッシャーがかかってくるとリズムが早くなるので、しっかりスウィングしようと。スウィングは改造してよくなってきてるので、そのまま振れば絶対に真っすぐいくと思ってやっていました」 3日目が終わって4打リード。とにかく緊張していた。「これで負けたら勝てないと思った。ホテルでソワソワ。夜はすぐ寝れましたが、パッと起きたら2時半。汗をかいている。結局、熟睡できずアラームが鳴って、またどきどきして」 「17番のローフェードが成功し勝てると思った」 続きを読む 決して表には出さないようにしていた。「朝食の味は覚えてない。練習を開始して思い通りのスウィングでイメージ通りの球が出たので少し落ち着いたけれど、いざティーイングエリアに立ったらまた緊張してきて。左バンカーでいいと思って打ったのに、右の林にいった。同組2人とも完璧な球でフェアウェイ。でも、ボールの場所に着くと奇跡的に前が空いていてパー。これが大きかった。2番のパー5で、僕だけバーディがとれて落ち着きました」勝利を確信したのは17番のティーショットがフェアウェイにいったとき。この球は、全英オープンを意識して練習していた低いフェードボールだった。結局、日々の努力は裏切らない。 上がり3ホールが難関の宍戸ヒルズ。「17番はドローヒッターには気持ち悪いですが、3日間成功していた低いフェードがフェアウェイに。全英用にアゲンストに負けない球を練習していたんです」 「ウイニングパットも覚えてません。正直ウルウルしてボールもぼやけていて。打って入った瞬間『終わった……』と。涙が出ました」 5打差の圧勝だった。「コーチやトレーナーに、タイガーの全盛期みたいに圧倒的に勝てるよう強くなりたいと言っていたんです」ツアー選手権初優勝者は2勝目が遠くなるという“嫌なジンクス”は壁にしなかった。3週後の次戦、ダンロップ福島オープンでも優勝。「小平(智)さんの例を考えた。ツアー選手権に勝って、結局アメリカに行ったなと。この試合、途中でリーダーボードを見たらトップに立っていた。今までなら緊張して焦っていましたがバーディがとれた。自信が出て精神的に強くなった。調子もよかったしラッキーもありました」この2勝に、木下の成長は集約されているのだ。 【キーワード2】変化を恐れない 「グリップから頭の中までぜんぶ変えた」 木下の進化を支える3人がいる。「調子の波があるなかで、微妙なズレは自分では気づけない。海外では普通だし、いいコーチを常に探していました」という木下。現在の奥嶋誠昭コーチとの出会いは2年ほど前。「昨秋のVISAで、初日叩いてLINEで相談したとき、もらった2つのアドバイスがすごくよくて。1つは『右手片手打ちドリル』。これをやって、ひらめくものがあった。2日目から別人のようになり63が出て優勝争い。本格的に契約しました」人には覚醒する瞬間がある。それを感じとった木下と与えた奥嶋との相性のよさがわかる。「左に大きく曲がるミスが明らかに多く、原因は腰が止まって前傾が浮いて手で打っていること。そこを指摘してきたこのコーチやったらいけるかも、と思いました」実はスウィングを本格的に改造したのは、今年のオフだという。「2月末の長崎合宿で。僕は基本的に全部手でさばいてたので、アドレスからグリップ、スウィングをイチからすべて変えたんです。1週間、80を切れなかった(笑)。ドローヒッターなのでフックグリップを少しウイークにするだけでもむっちゃ気持ち悪い。上げ方、下ろし方も変えたのでまず振れない。250Yしか飛ばないし真っすぐいかない。パターもアプローチも見直したので、1カ月半後の開幕に間に合うの? って」しかし、直したい方向は一致している。手ごたえはあった。「LINEの動画などのやり取りが多いですが、奥嶋さんとは何でも言い合える仲。見た目はオーラが感じられませんが(笑)、見抜く力はズバ抜けていると思います」 2人目はトレーナーの早川怜氏。プロ入り後すぐ通ったとき、キツすぎて吐いて数回で逃げたと笑う。「でも、(松山)英樹を見ていて、やらないとダメだと、気合いを入れてもう一度お願いました」多くのトップアスリートを指導する早川氏は、パワーの出し方など「運動力学」の観点から教えてくれる。「ここでも手打ちを指摘された。胸郭なども回っていないので、そこから“動かす”トレーニングを始めました。オフに週2回、ケアも含めて1時間半くらい。スウィングにつながるトレーニングもします。たとえばメディシンボールを遠くに投げるときは、シャットに上げる手の使い方をすると上手くいく。奥嶋さんと早川さんが言うことがマッチするようになり、同時進行でよくなってきました」もう1人は、メンタルトレーナー的存在だという知人。自分の性格を、「楽天家じゃない、心配性です」という木下のマイナス思考を変えるアドバイスをくれる。「本を送ってくれたり、とにかく頭の中、考え方を変えていこうと。まず、勝つ自分を想像しないと勝てないと強く言われた。ポジティブ思考って難しいですが、日々頑張れば変われます。成功している人は皆そうです。一番はイメージ。どうなりたいか、そのためにはどうするか、など明確なビジョンを1つずつ真剣に考えるんです」すべてがかみ合うと自信も深まる。「ショットはアドレスして、球をイメージしてその通り打てる確率が格段に上がってきた。飛距離も伸び、アイアンで1番手くらい飛ぶようになりました」そうして、初優勝のチャンスをものにしたのだ。 木下稜介の1Wスウィング【正面】 データは見ないが最先端のスウィングはコーチから学ぶ。「たとえばテークバックからのシャットフェースも意識。前はオープンに上げていた。最初は感覚が飛ぶほどでした」 木下稜介の1Wスウィング【後方】 「手先が器用だとトレーナーさんにも言われましたが、なんとか合わせてしまうんです。すると飛距離にも限界があるし、プレッシャーがかかる場面で曲がるんです」 【キーワード3】世界の壁を超える 「ゴールがないからしんどい。でも成長はうれしい」 今年は海外が一気に目の前に広がった。そして新しい壁ができた。「全英では、同組の選手にそこまで差は感じなかった。日本にはないコースや風の種類でその対応力はまったく違いましたが、低い球を練習したので何となくプラン通りに予選は通れた。ただ、WGCでは選手が皆上手くて心が折れた。決して簡単なセッティングではないのに、僕が2アンダーでも順位は上がらない。そして、最終日にケビン・キスナーと回りましたが、7オーバー叩いて、正直あまりボールも飛ばないし大したことないと思っていたら、翌週優勝した。あれだけ調子悪そうだったのに! (松山)英樹に言ったら『それがアメリカツアーなんだよ』って(笑)」どこからでもパーをとってくる“粘り”にも感心した。「林からでも、どう寄せるのかという場所からでも。6mのパーパットも入れてくる。一番はマインドだと思います。どこからでもパーを絶対にとれると思うから確率も変わる。僕もマインドを変えました。実際、日本で林に入れても今までは『ボギーでいい』でしたが、『パーをとれる』と考えるようにしてボギー数も減りました」海外で勝負するためには、飛距離はある程度伸ばしつつも、100Y以内からいかにパーで上がるかが大事だと木下。「そのためにもアプローチ。連ランで花道から3回チョロしました。クラブが入った瞬間、逆目が強すぎて抜けない。でも向こうの選手は綺麗にヘッドを入れてスピンをかけてくる」海外経験を語る木下は饒舌だ。「芝の種類が違いすぎる。日本ではやらなくていい難しい技術が必要になる。グリーンもバミューダ芝で硬くて芝目がはっきりしている。見た目に騙されないようしっかりチェックしないと。谷口(徹)さんが日本のセッティングはアカンといつも言う理由がわかりました。やっぱりアメリカに行かないと上手くならない。スポット参戦では通用しない」 いい選手の技は貪欲に吸収刺激をくれる同級生も そして、偉大な同級生の存在が木下を刺激してくれる。 「1月のソニーオープンで英樹と連ランしたとき、パターで悩んでいたのか、僕にでも『どこを見てどう打ってる?』って聞きにくる。貪欲さや嗅覚が本当にすごい。あのレベルの選手で満足してなくて何かを常に変えようとしているのに、僕を含めて日本選手は何をしているのかと。でも、すごい同級生がいてラッキーです。スーパースターの遼もいます。遼のアメリカ挑戦は本当に尊敬できます。将来を見据えてスウィング改造にも取り組んでいる。ああいう姿勢をみると、僕も真剣になります」木下に海外挑戦のきっかけをくれたのは、大好きな高校の先輩、片岡大育だ。「アジアンツアーに挑戦したらいろんな経験ができるしタフになれると。実際、L・ウエストウッドなど一流選手を見られてすごくタメになった。僕は、勝つまでには時間がかかったけど、これからが大事。35歳くらいが肉体のピークだと思うので、それまでにアメリカでプレーしたい」長く、貪欲に――。「まだ途中です。変えるところはたくさんある。優勝は目指しても通過点と思うようにしています。たとえマスターズに勝ってもゴールではないし、スウィングも常に変えていると思う。ゴールがないのでしんどいですが、ゴルフがよくなってくるとすごく嬉しい」 海外でトップ選手と写真を撮影。もちろん技も盗む。「最近はコリン・モリカワやD・J。シャットな手の使い方を。マキロイは人柄に惚れました!」(写真は本人のインスタグラムより@ryosukekinoshita) 4月のマスターズでは、同級生の偉業にゴルフを観て初めて泣いた。「その英樹が、『アメリカで早く一緒にやろう。俺が日本に行くより早いと思うから』って言ってくれた。向こうで戦いたいと心から思いました」今年、米下部ツアーのQTをファイナルから受けるチャンスがあった。しかし、賞金王も狙える位置にいる木下は悩みに悩んだ。「コロナがなければ100%QTに行っていましたが……今回はアメリカを諦め、日本で頑張るので絶対に賞金王をとり、世界ランクを上げ、まずはマスターズにいく。将来的には英樹みたいにアメリカで勝てるような選手になって、マスターズで優勝するのが夢です」日本オープン終了後の自身のインスタグラムに「#賞金王」と入れた。彼なりの覚悟だろう。インタビューは恥ずかしいし苦手という木下が、誠実に語ってくれた「自分自身」。好きな食べ物は肉。好きなタイプは綺麗な清楚系。座右の銘は日々努力。昭和な男、木下稜介30歳。まだまだここからだ。 趣味もゴルフ。日々是努力。目標は賞金王、そしてマスターズ優勝――木下稜介 週刊ゴルフダイジェスト2021年11月9日号より