【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.835「常に考えて練習していればデータと感覚は自然に合ってくるものです」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
データ解析でレベルアップできるのは理屈では分かりますが、頭では分かっていても、いざという時に体が動かなくなることがあり、いまはデータ解析はやめ感覚を重視しながらやっています。岡本プロ
はこれについてどのようにお考えになりますでしょうか。(匿名希望・29歳・男子プロゴルファー)
ゴルフショップに行けば店舗には試打できるコーナーがあり、実際にボールを打った時のさまざまなデータが取れる測定機が設置されているかと思います。
ヘッドの入射角やヘッドスピード、打球の打ち出し角に初速や回転数、回転方向から想定される飛距離と最高到達点などを示す各種の数字が一瞬にして弾き出されてきます。
最近では、アプリも開発されているようで、簡易なデータ計測を個人でもできるようになっていると聞きます。
今や何でも、スマホ万能のデータ時代というわけです(笑)。
ボールのスピンが毎分何千回転――肉眼では見えないし計測できないボールの回転方向と回転数が分かれば、そのボールがどう曲がるか理解できるはずです。
数字として表されたデータは否定しようのない現実であり、受け入れる以外にありません。
自分の打ったボールは、間違いなくそういう回転をしているのですから、それを分かったうえでどう改善するのか、あるいはどう生かすのかが課題となるでしょう。
データそのものは解決法ではないということです。
データが収集できたからといって、それで何かが変わったり、向上したりするわけではないのです。
そこを勘違いしてはいけません。
実際にボールを打って、さまざまな計測データを抽出することは良いことだと思います。
集めたデータはあくまでも分析する材料であって問題解決のための基礎資料にすぎません。
測定値やパーセンテージが掲示されるデジタル時代。
数字で示されると、分かったような気がしますが、それは改善するための材料ということを忘れてはいけません。
データが出たからといって、そのままではあなたのゴルフが改善される保証はありません。
「頭では分かっていても、いざという時に体が動かなくなることがある」と言っていますが、実はそれは、頭でも体でも分かっていないと同じことなのではないかしら。
ただ分かったような気になっていただけなのですよ。
テクノロジーの進化によって、ゴルフのさまざまなデータを手軽に収集できるようになったことは、プレーヤーのレベルアップ効率を大幅に向上させていると思います。
ただ、収集された多種多様なデータが必ずしも有効に役立てられてはいないのも事実でしょう。
なかにはデータの海に溺れてしまうかのように「体が動かなくなる」ゴルファーもいる。
データの情報が多すぎて頭で処理し切れなくなり、手や体が思うように動かせなくなっている状態と思うのです。
ちょっとキツイ言い方をさせていただきますが、プロになって今ごろ「頭で考えていることと体が動かないこととの関係がどうなっているか悩みながら練習している」って、どうなのかしら……。
データが語りかけている数字がどういうメカニズムで成り立っているか、その意味を理解してどう動けば数字がどう変わるかを想像して練習の参考材料にする。
そして何より、練習場でのデータとコースでのデータは別ものということも頭に入れる、それがプロではないかしら。
各種データをどんなに細密に収集しようとも、それらを実際に打つときの感覚と結び付けることができなければ数字の羅列にすぎません。
データはそれ自身は無機質な数字です。
経験を重ねるうちにそれを自分のゴルフ感覚に翻訳できるようになるものです。
どんなふうにボールを打ち、どう組み合わせてコースを攻略するか。それを一歩一歩積み重ねながら、自分で考えないとレベルアップはできません。
データの収集や解析は、自分のゴルフを組み立てていくうえでの素材のひとつとして考えてほしいですね。データ万能のご時世ですが、ゴルフは人間がやるものです。
ココ一番というときにモノをいうのは、実は虫の知らせとか第六感、といった“カン”だったりすることも分かっていてほしいですね。
「データを活用して効率よく上達するのは良いですけど練習量を減らすのは違いますよ!」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)
週刊ゴルフダイジェスト2024年10月29日号より