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【インタビュー】長森遥南<後編>「ゴルフもスケートも水泳も……全部楽しかったんです」

2月に行われたミラノ・コルティナ冬季五輪にショートトラックの選手として出場した長森遥南。紹介されたプロフィールで「ゴルフでプロテストを受験した経験がある」という部分に驚いた人は多いだろう。スケートのこと、ゴルフのこと、仕事のこと、引き続き長森選手に話を聞いた。

PHOTO/Yujiro Kawatani、Naoki Nishimura、Getty Images、シュゼット・ホールディングス

長森遥南 ながもり・はるな。2002年4月25日生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学教育学部卒業後、株式会社シュゼット・ホールディングス入社。ミラノ・コルティナ冬季五輪のショートトラック女子3000メートルリレー、女子1500メートルに出場。ゴルフでは2018年に日本ジュニアゴルフ選手権出場、プロテスト受験の経験もある

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「自分の凡ミスです。距離計測器を使ってしまったんです。使用許可をされている大会も多かったので、その流れで使ってしまった。なんで事前に確認しなかったのか。本当に凡ミス。ゴルフは大好きでイヤイヤやったことはないとお話ししましたけれど、このときばかりはショックで……。フェードアウトのような感じでゴルフから遠ざかりました」

ゴルフから遠ざかると、逆にプロテスト受験のために遠ざかっていたスピードスケートへの熱量が再び高まる。関西学院大学へ進学すると2023年1月にユニバーシアード日本代表、2025年2月にはアジア冬季競技大会日本代表となり世界の舞台に。同4月に現在も所属するシュゼット・ホールディングスに入社。同社は菓子のブランド「アンリ・シャルパンティエ」を展開しており、実は長森は同社で焼き菓子「プティ・ガトー・アソルティ」製作を担当するパティシエでもある。

「今日もさっきまで生地を作っていました。これがすごく体力を使うんです。マスクや白衣ですっかり姿が隠れているからわからないけど、『実はみんなアスリートなのでは?』と思ってしまうくらい(笑)。あとは、常にやることがたくさんあって、マルチタスク。脳がフル回転です」。4〜6月はスケートのオフシーズンで、その期間は朝9時に出社し、退社の17時40分まで菓子製作の真ん中にいる長森だ。

「会社で仕事をしてみんなと一緒に汗を流し、その姿を見てもらうのも大事なことだと思うんです」とは、同社の氷上競技部の部長・堀田暁さん。実は大のゴルフ好きだが、「(長森と)ゴルフの話はしません。スケートをやめてゴルファーに転向すると言い出したら大変でしょ」と笑う、ちゃめっ気たっぷりの上司だ。

意外なほどに体力を使い、脳もフル回転だというパティシエの仕事



「見てもらうのが大事」というのは、長森が同社の“看板”を背負った選手であること、会社があって長森ら氷上競技部の活動ができるのだという意味合い。他の社員は普段働いている長森の姿を見ているからこそ、氷上で活躍する長森も応援できる。「プティ・ガトー・アソルティ担当の長森さんだ」と親しみが湧く。

「私自身、会社に“助けて”もらったと思っているんです。進路が決まらず、大学4年の冬ぐらいに『学校の先生になろうかな』などと思っていたぐらい。友達はみんな就職も決まっている時期に、遅いですよね(笑)。そこから入社させてもらって、こんなに応援してもらって……」

長森は「会社のみんなに応援されているのが本当にうれしい」と言う。ミラノ・コルティナ五輪のときもそうだ。会社の仲間が「10人駆け付けてくれました。もちろんすごく緊張していたんですけど、知っている顔があるだけでちょっとホッとできる、みたいな感じがありました」。

家族や友達だけでない“仲間”の存在が、自分を勇気づけ、励ましてくれる。大きな力になる。それは応援するほうも同じで、自分たちの仲間がオリンピックの舞台に立っていると思うと、居ても立ってもおられず、テレビ放送は日本時間の早朝にもかかわらず、自然発生的に社員で集まって応援したという。「自分がオリンピックでこんなに熱くなれるなんて驚きました」とは広報担当。お菓子作りの現場にいると、さまざまな部署のスタッフから「見たよ」と声が掛かり、輪ができる。それが会社という組織に好影響をもたらす。

この冬、同僚たち、ゴルフで培った仲間、日本のスポーツファンを熱くした長森。かつて、上田桃子や石川遼に憧れ、薫陶を受け、挫折を味わい、そして今、スケーターとしてオリンピックの大舞台に立った。自身が憧れていたアスリートの姿に「少しは近づけているかな」と思う。

目標を立て、それをクリアしていくのが好きだという。1週間単位でまとめる「週報」では、例えば「体重を〇グラム落とす」というような目標を細かく設定し、それを達成することで、大きな目標へとつなげていく。目標を設定すると、努力を惜しまず「とにかくストイック」とは、堀田部長評。

ストイックではあるが、スケートもゴルフも伸び伸び楽しんできたことが今につながっている。「ゴルフもスケートも水泳も……全部楽しかったんです」と振り返る長森。そして、それができた“環境”に改めて感謝する。「自分の親がいろんなことをさせてくれたのもありがたいですし、競技を支援してくれる会社にも感謝しています」。

仕事は常にマルチタスク。競技とは違う緊張感で臨んでいます

日本を代表する洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」。長森が担当するのは「プティ・ガトー・アソルティ」だ

そして、そんな環境をもっと多くの人、特に子どもたちにと思いを馳せている。「例えば中学校で部活動がなくなっている地域もありますよね。私はスポーツを通じていろんなことを学んできたので、多くの子にスポーツの機会を持ってほしいと思うんです。ただ、特にゴルフやスケートはお金がかかるというハードルがあるのもわかります」。

学生時代のゴルフでは自身がゴルフを始めた「アマ・バンド&スポーツ」や提携のゴルフ場の支援があったことを振り返り、同様にスケートでは「アンリ・シャルパンティエ スケート体験スクール」が、ジュニアスケーターの裾野を広げる一助となっていると胸を張る。

長森の次なる目標、その先の夢は「オリンピックでメダルを取ること」。2030年の舞台はフランス。「アンリ・シャルパンティエはフランス菓子のメーカーです。負けられません」。ちなみにプロゴルファー転向はない?「ふふふ。クラブ選手権は出たいですね。クラチャンにはなりたいです」。

5年後か10年後か、20年後か……「五輪メダリストでパティシエでクラチャンです」という記事が出たら、それは長森のことだ。

背中に「アンリ・シャルパンティエ」のロゴ。背負っているのは、ロゴだけではない

氷上競技部の部長・堀田暁さんは長森の良き理解者

週刊ゴルフダイジェスト2026年5月12・19日合併号より