【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.89「包帯が真っ赤! それでも回りたかったターンベリー」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Takanori Miki
前回のお話はこちら
今週は全英オープンが開催されます。イギリスのコースは本当に好きで、試合もいろいろ挑戦しとりますけど、ターンベリーでの事件のお話をしましょう。
試合の3日目が終わり、宿の台所で左手をケガしたんです。骨が見えとったくらい。それで何針も縫って、すごく腫れて。翌朝も血が止まっておらんのです。だから、手袋を切って包帯を巻いて、練習場でとりあえず打ってみようと行った。でも痛くて打たれんのです。
「やめるわ」言うてたら、高松厚が来てくれて、「オクちゃん、ちょっと最後に1回、シャフトを持って打ってみて」言うんです。それでシャフトのところを持って、ポーンと打ったら、「あれっ、これ痛くないわ」、「じゃあそれでいこう」と。高松が最終日に急遽キャディをやってくれました。高松自身は試合はダメやったから。
全部のクラブをグリップ1本分余らせて、シャフトのところを持ったら振れるんですよ。短く持つから軽いんです。
でも血がボタボタ落ちてくる。イギリスのコースは1番が終わったら2番でクラブハウスのほうに帰ってくるから、無理やったら2番でやめようと言っておったんです。でも最初のホール、ワンピンを入れて、パーでした。あのときは嬉しかったですね。
結局18ホール回れました。最終ホールで涙が出ました。よう回れたなあ、ありえへんと思って。高松のおかげです。シャフトを持てばええという発想がなかった。そういう発想ができる奴なんです。
99パーセントは棄権しますわ。でも、決勝ラウンドだから、やっぱりやりたいんですね。最後のほうでは包帯が真っ赤になっておった。そうしたらヨーロッパツアーのディレクターみたいな人が気づいて。「試合終わったらちょっと来てくれ」と言われて。「うちは、ちゃんとしたドクターがおるから。事故やから大会で負担できる。これはヨーロッパツアーにも責任がある。ドクターにケガの具合を教えてくれ」と。医務室に行って、痛み止めを飲みました。「お前は鉄人や、アイアンマンや」言うてはりました。「こんなん普通、絶対ゴルフできへん」って。今だったら絶対できない話です。出場はダメやと言われるでしょうから。
何や、全英オープンと関係ない話をしてしまいました(笑)。
「欧州ツアーでは、いろいろな経験をしました。でも、さすが、対応はしっかりしとります」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年7月26日号より