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【インタビュー】柏原明日架「25歳の親離れ」で気づいた“ゴルフ愛”【誌面未掲載写真あり】

2019年に2勝を挙げ、さらなる飛躍を胸に臨んだ2020-21年シーズン。しかし、そこに待っていたのは理想とはかけ離れた「ギリギリシード」という現実だった。かしこまった場所だと“人見知り”が出てしまう柏原明日架に、渋谷の街を歩きながらざっくばらんに話してもらった。

TEXT/Masato Ideshima PHOTO/Takanori Miki、Hiroyuki Okazawa

柏原明日架
かしわばらあすか。1996年生まれ宮崎県出身。2014年にプロテストに合格。2019年、ミヤギテレビ杯でツアー初優勝、同年マスターズGCレディスで2勝目を挙げる。2020-21年シーズンはエリエールレディスで2位タイに入り、滑り込みでシードを決めた。富士通所属

先が見えないコロナ禍に下した
大きな決断

「めちゃくちゃ苦しいシーズンだった!」と、渋谷の街を歩きながら柏原は話し出した。今だから笑顔で話せるが、誰もが柏原明日架がシード落ちの危機に陥るとは思っていなかった。プロ入りから5年、シードを失ったことがなかったからだ。

2020年、新型コロナウイルスの影響で選手とメディアとの接点も薄くなった。感染予防の観点から、できる限り接触を避けるため、気軽に喋りかけるようなことができなくなり、我々は“ネットの速報”で情報を得ることが主となった。結果はわかっても、それ以外のことはわからない。外見だけで選手の状態を把握するほかに術がなかったのだ。柏原の成績が思わしくないことはもちろん知っていたが、それでも柏原のシード落ちはイメージできなかった。当の本人はそのあたりをどのように感じながら戦っていたのか。

「20年のアース・モンダミンカップが初戦でしたが、それ以降も試合がやれるかどうかわからない状況で、実際にあると思っていた試合がなくなったりして、体調的にもメンタル的にも波風が立っていました。3月に当たり前のように開幕していたのができず、4月になっても5月になってもできず……。モチベーションをどの方向に持っていけば良いのかわからなくなっていたのを覚えています」


アース・モンダミンカップで開幕したものの、柏原は本来の調子でゴルフをすることができなくなっていた。結果、20年は思うような成績を残すことができなかった。統合シーズンだったため、巻き返しの時間はあったものの、成績が出ないことは選手にとって稼ぎがないことを意味し、それが何よりもキツい苦しみになる。そんな最も苦しいときに柏原はある決断をする。

「今までは父にずっとサポートしてもらって、コーチという立場でもありました。そこから離れて自分で一旦整理したいという話をしました。それで21年に入ってから、自分のゴルフスタイルについて自分で気づいて、感じて、自分の中に落とし込むことを初めてトライしました。自分から言った手前、助けてとも言えないし、プライドもあるから言いたくもない。でもわからないことはたくさんありました。そんなもやもやする日々が続きましたね」

9月のゴルフ5レディスから7戦連続で予選通過。「このころから、自分がどうやれば予選通過できるのか、戦えるのかがやっとわかってきました。少しずつ自信を取り戻せてきたときですね」

「堀琴音の存在は大きかったです」

同級生の堀琴音にもアドバイスを求めた。自分がどん底に落ちたからこそ堀の凄さを知ったと振り返る。堀への恩は優勝でしか返せない

「やらされる」から
「自らやる」に変わった

柏原にとって、いわゆるこれが親離れということになる。「25歳で親離れは遅い」と言う人がいるかもしれないが、ゴルフ界では多々あることで、これが意外と難しいのも事実。なぜなら、ジュニア時代から、一番近くでゴルフを見てきてくれた存在だからこそ、良いときも悪いときも最大の理解者であったのが親だからだ。これが単なるコーチなら割り切れる部分もあるが、親となると精神的な支えにもなっていることもあり、そこから最も苦しい時期に離れるのには相当の覚悟が必要だったに違いない。

「離れたら勝てないだろうなと思っていました。それに、自分ってこんなにゴルフのことをわかっていなかったんだなと気づいてしまった。これじゃあ勝てないよなって(笑)」

初めて父から離れてゴルフをしてみてわかったことは、『ゴルフの難しさ』だと言う。

「今まではいろんなことが上手くいっていたんだなと気づきました。アマチュア時代にそこそこ成績が出て、プロテストも通って。初優勝までは6年かかりましたけど、シード権は取れていたし。ありがたいことにスポンサーさんにも付いてもらって、賞金をもらって……。形としてはしっかりプロなんですけど、ゴルフの感覚としてはアマチュアの延長のような感じだったんだと思います。自分で成績を出してきたという感覚はあまりなかったんですよね。ゴルフが仕事だって本当の意味では思っていなかったんだと気づきました」

ゴルフをすることが当たり前だったからゴルフが好きかどうかなんて考えていなかった。もしかしたら、“やらされている”感のほうが強かったのかもしれない。しかし、遅めの親離れを経験したことで、自分がゴルフが本当に好きだと改めて知ることができた。11月のエリエールで2位に入って滑り込みでシード権を守った。滑り込みだろうかなんだろうが、シード権に優劣はない。自分のことを初めて知ることができた柏原は来年はどのようなシーズンにしたいと思っているのだろうか?

「今まで12月の時点で来年はこうしたいってあまり思わなかったんです。もちろん漠然とした目標はあったけれど、今までは自分から設定しなくても言ってくれる人がいたから(笑)。でも今年は、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃって思っているのであまり時間はないと思っています。12月は挨拶とかゴルフ以外のことも忙しいんですが、その合間に練習できるかなって、今まででは考えられない思考になっている。本質的にゴルフが好きになったのかなって思います。今頃? って笑わないでくださいね!」

ゴルフのことが好きだと気づくことができたのは親離れができたから。同時に親が今までどれだけのことをしてくれていたかに気づいた。感謝の気持ちを胸に柏原はさらに強くなる

「美容にはめちゃくちゃ
こだわってます!」

柏原は渋谷の街に妙に馴染む。それもそのはず、女子ツアーの中でも美意識が高く、プロアマの前夜祭などでもいつも注目の的になる存在だからだ。

「単純に好きだからというのはありますね。好きでやっているうちに徐々に反響があって、若い子から『ゴルフのときのメイクの仕方を教えてください』とか、『日焼け対策はどうしていますか?』とか声をかけてもらうようになって。ゴルフをしたいけれど、そこが壁になっている人が多いんだなと思いました。それでプロゴルファーだからこそ、何か発信できることがあるんじゃないかって。今はプロゴルファーとしてできることってなんだろうと考えながらSNSで発信しています」

柏原には見られる意識が備わっている。ゴルフに関してはアマチュアだったとこれまでの自分を振り返っていた柏原だが、美容に関してのほうがむしろプロ意識が高い……。

「見られるスポーツだという意識はあったので、そのためのケアはすごくしています。紫外線とか多くの人がゴルフをやると髪が傷むんだろうなって思われているのを取っ払いたいなって思っています」

常に見られていることを意識する。そうすれば何かが変わると柏原は言う。美に関してはメジャー級のプロ意識を持っている

とは言うものの、数年前の柏原の印象は“ボーイッシュでかっこいい”だった。それが今はクールビューティ……。イメージが180度変わった人も少なくないはずだ。この変化はいったい……?

「髪はショートカットが似合う、化粧はあまりしない、日焼けをしてロングパンツ。“ザ・アスリート”というイメージが親にはあって、その影響が大きかったんです。でも、自分はおしゃれが好きだし、髪をいじるのも好き。それで自分でいろいろと考えて、イメージをいい意味で壊せる方法を考えたんです。おしゃれをしてもカッコイイゴルファーにはなれるんじゃないかと。これは自分だけじゃなくみんなが持つべき意識だと思いますね」

2022年、“本当のプロ”になった柏原の姿を見ることができそうだ。

「若い子だけでなく私たちも見てほしい(笑)」

「若い子たちの実力はスゴイと思います」と、素直に認めつつも「私たちも見てほしい。プレーだけでなく、格好とかも含めて、です!」

誌面では載せきれなかった秘蔵写真を特別公開!

月刊ゴルフダイジェスト2022年2月号より

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  • PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki AriharaTHANKS/北谷津ゴルフガーデン 昨年2勝目を挙げ、2021年も活躍が期待される稲見萌寧。オフの期間にハードなトレーニングとともに、スウィング改造に取り組んだという。その改造の中身について聞いてみた。 稲見萌寧いなみもね。2020年パーオン率1位。女子ツアー屈指のショットメーカー。現在、武器に磨きをかけつつ、飛距離アップに向けトレーニングに励む。国内ツアー通算2勝 軸が左に傾くクセを修正 今年のスウィングは、昨年と比べるとあまり差がないように見えるかもしれませんが、私の中では大きく変わっています。昨年はテークバックで軸が右へ動くのを嫌がり、「その場で回りたい」という意識が強すぎました。結果、捻転量が小さくなり、トップで軸が左に傾いていました。もともと私は切り返しで上体が突っ込む癖があるのですが、軸が左へ傾くことで、それが悪化していたように思います。スウィングへの違和感も大きく、昨年はスムーズに始動もできないほどになっていました。オフ期間中、トレーニングとともに私が重視したのは、“傾く”動きをなくすことでした。今はテークバックでしっかりと右に乗るように意識しているので、軸が左に傾かず、地面と垂直な状態をキープできています。軸が傾いていた原因は、“スタンスの広さ”だと思っています。私はもともと無意識のうちにスタンスが広くなりやすく、昨年はそれが顕著でした。結果、無理に捻転させようと、手で上げていたんだと思います。そこで、バランスよく立てていた一昨年のスタンス幅に戻したところ、捻転もしやすくなり、切り返しでの上体の動きも安定しました。 2020年のスウィング <バックスウィング>軸が左右に傾いていた ワイドスタンスで、軸が右に傾いた状態からテークバックし、切り返しでは逆に軸が左に傾いていた。「このときは始動にも悩み、ぎこちなくなっていました」 <ダウンスウィング>スムーズに下ろせなかった 「軸が左に傾いた状態で切り返していたので、スムーズに振り下ろせなかった」という稲見。無理に手で下ろしていたため、軌道も不安定だったという 2021年の最新スウィング テークバックで体重が右足に乗り、軸は傾かずに垂直をキープ。トップでも軸が左に傾くことなく、しっかりと捻転できている >>稲見萌寧のスウィングを別ウインドウでじっくり見る 飛んで曲がらない秘密は「ひじの使い方」にあり 自分のスウィングの好きなところは、ハーフウェイダウンからフォローにかけてのひじ使いです。男子プロからも褒められたりするんですよ(笑)。特に意識しているわけではないのですが、ハーフウェイダウンからインパクトにかけて右ひじが伸びきることなく、球を強く押せる形が作れています。右ひじが伸びてしまうと、インパクト時に手元が浮き、上体が伸び上がってしまいますが、これにより前傾をキープしたままインパクトを迎えられます。もう1つ、周囲から「インパクトからフォローにかけての左ひじの“抜き方”が上手い」とも言われます。私の持ち球はフェードなのですが、フェードを打つときに一番怖いのは引っかけです。インパクトからフォローにかけて、左ひじが伸びきっていると、左腕が外旋しやすくフェース面が必要以上に返ってしまい、球がつかまりすぎるという怖さがあります。フェースの向きを一定にキープしたまま、目標に向かって球を押すためには、インパクト以降で左ひじを抜いていく必要があるんです。オフ期間中、トレーニングを積極的に行った理由は、飛距離アップというより、捻転が深くなったことで速くなった回転スピードを支える「土台」を、より安定させたかったという気持ちからです。あくまでも私の持ち味はアイアンの精度なので、安定感も失いたくなかった。結果的に飛距離も少し伸びましたが、2021年も引き続きアイアンを武器に勝負していきたいですね。 男子プロからも褒められるという「ひじの使い方」。インパクト前後で右ひじの角度が変わらないことで、ボールを強く推していくことができる。またフォローで左ひじを上手く抜くことで、フェースが返りすぎるのを防いでいる 週刊ゴルフダイジェスト2021年3月9日号より