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「これから変わっていく渋野日向子が基準になる」改造、復活、アメリカ挑戦【しぶこ語録2021】

国内最終戦「リコーカップ」をスキップし、米女子ツアーのQスクールに挑むべく渡米した渋野日向子。インタビュー等で渋野が語った言葉を振り返ると、改めて2021年に懸けた想いと進化が見えてきた。

PHOTO/Shinji Osawa

「トップの位置の手が右肩より上がらないように」

今年の開幕戦、渋野は誰の目にも明らかなほど変化したスウィングを引っ提げて登場した。

「トップの位置を気にしています。今までは高めに上げていたのをちょっと低めに。安定性、正確性が高いショットを打てるように」と話をした渋野。「今までのいいところにプラスアルファでやっていかないともっと上のレベルにはなれない。咋年アメリカに行ったときに感じたので日本でもやらないといけません」
今オフ、コーチの青木翔氏からひとり立ちした。「クラブのことも、自分のシャフトのスペックもロフトも知らなかった。必要最低限のことは知る必要があります」

「トップに上げたときに自分の右肩よりも手が上がらないことを目指している。横振り、円っぽいスウィングです」。この1年、試合でも試しながら改造してきた。ドローヒッターだった渋野が一番嫌なのが左に出るミス。「切り返しのタイミングやテンポの速さ、スタンスの向きが原因のことが多いです」

「100Y以内のレベルアップが必要」

石川遼などの助言を得て自分で考え“新生・渋野”として取り組んだのはスウィングだけではない。クラブセッティングも替えた。大きな変更は46度、51度、54度、57度のウェッジ4本体制にしたこと。「100Y以内のレベルアップのため。パー5のバーディ率が上がるし、短いパー4でもバーディが取れる可能性が広がります。今までは51度で5割の力で打っていたものを54度がカバーしてくれる。アゲンストのときに60Yを57度で打つ必要もなく54度で風に強いボールを打てる。バリエーションが増えていくので、これからも課題にはなります。クラブ選びもめちゃくちゃ楽しいんです」


パー5のマネジメントという点でも「100Y以内の練習をすることで、刻んでもバーディチャンスにつけられる。新しい攻め方です」

練習で正確な数値を計測するようにもした。「今まではピンやエッジまでの距離しか考えていなかった。自分のフルショットしたときの距離感しか頭に入ってなかった」「13本のキャリーを調べる。各地で気温や飛距離が変わってくるので毎週やる。振り幅を把握することで、それを基準に試合中でも対応できるように練習します」

「今までスタンスの向きやウェッジの距離感などは考えて打ってなかった」。4本での打ち分けやアプローチの引き出しも増え、それが生きた試合も多い

スタッツも気にするようにした。「一番見ているのがパーオン率。そこが少しずつ上がってくれば今やってることは合っているんだととらえることができます」
これらの劇的改造に否が応でも外野のいろいろな声が届く。

「今やっていることにまったく不安はないですし、周りにどうこう言われようが私は関係ない。まだまだ始めたばかりですけど、これからも日本でもアメリカでもどんな場所でも自分の意志を貫いて最後までやり遂げたいです」

トレードマークの笑顔についても「笑顔だったりそういうところは今まで通り貫いていければいいなという思いはあるけど、どうしても集中するところは顔が強張ってしまうと思う。頑張っているなというところも見ていただければ」と語った。

「3年後のパリ五輪は出たい」

5月からはしばし、米ツアーに舞台を移す。ここで、結果には表れないが確かな経験を積んだ。

「全米女子オープンは自分のゴルフに対して諦めていた。全米女子プロは残り2ホールで予選カットまで1打という状況で3つ伸ばせたのは最後まで諦めなかったから。新しい一歩と感じました」

得たものは多い。アプローチの引き出しが増えた。もっと高いボールを打ちたい、もっと飛ばしたいと思うようになった。そして、“面白いゴルファー”になりたいとも。「アメリカで見ていて面白いゴルフだと言ってくださる方が多くて。私には残った言葉です」

7月の東京五輪の出場は逃した。

「選ばれなかったのは実力不足、悔しい気持ちもある」。しかし、大好きなソフトボールチームなどの活躍を観て感動し涙が出た。「3年後のパリ五輪は出たい。1度は日本代表としてオリンピックに出たい気持ちは強くなりました」「パラリンピックも含めて観て、もっともっとそういう夢や希望を与えられるスポーツ選手になりたいと改めて感じました」

その後、国内3戦を挟んで出場した全英女子オープンでも手ごたえを感じた。

「ギリギリアンダーで回ることができ、途中いいゴルフもできた。少しずつ前に進めているなと再確認できました」

ここからは日本ツアーでの連戦だ。Qスクール(米女子ツアー予選会)に向けて、しっかり課題をもって取り組む。少しずつプレーがかみ合ってきた。

「今までよりはチェックポイントが減ったぶん、思い切り振れるようになって、ドライバーの飛距離も出て安定感は増している」「パットも自分の打ち出したいところに打てる回数が増えてきていた」

ウェッジ4本の効果も試合ごとに出てきた。バーディにつながるショットが増えた。ミスに対する修正力も高まった。前向きな言葉が出てくる。「ショットはよくなって、パーオン率も上がっている。パットとバーディ率をもう少し上げたい」「この難しいピン位置だったりグリーンの速さのなかで少しずつスピン量も増えてきていい感触になっている」「最近歩くペースをゆっくりにした。プチンとなった瞬間に堂々と前を行く感じで、スウィングのテンポもゆっくりと心がけながら。だんだん理想と近いショットを打てるようになってきたら、他のことも考えられるようになってきたのかな

同組でラウンドすることの多い同世代と楽しみながら切磋琢磨する。「萌寧は外しちゃいけないところに外さない、外しても絶対ボギーを打たない。ゴルフのお手本です」

「18番は集大成だった」

変化を恐れては成長しない。もちろん、葛藤もある。

「飛距離を出したいからといってスウィングを崩してしまうのは後退。欲を捨てて飛ばない自分を受け入れて最後まで戦わないといけないというところも変えていきたい」

そうして、9月のスタンレーレディスでプレーオフの激戦を制し、ツアー5勝目を挙げた。言葉があふれだす。「こんな早く勝てると思っていなかったので不思議な気持ちでいっぱい。すごく嬉しいです」「この2年間勝てないと思ったことはめちゃくちゃあります。女子プロゴルフは世代交代がめちゃくちゃ早い。2年前にレギュラーツアーに出始めたのに、もう思ってしまうくらい。自分が置いていかれる感があります。去年は自信がなかった。淡々とこなしてきたような気はします」「どの優勝も嬉しかったけど、すごく考えることの多い優勝だった。何か変わることはないけど、ちょっと自信にはつながるなと。前向きになれたし、活力が湧きました」

「今までスウィング改造を行ってきた集大成が、最終18番のすべてのショットで出たのではないかと思います」。優勝後の涙は「いろいろ思い出しての涙です」

2戦連続優勝のチャンスは雨に阻まれたが、予選落ちを挟んですぐ、またもプレーオフとなった三菱電機レディスで優勝した。

「見てる側からするとハラハラドキドキするようなゴルフだったと思うので、そういう面白い勝ち方ができて嬉しかったです」

「お客さんがいないと本領発揮できない」

誰よりもファンを大切にする渋野は、コロナ禍の無観客試合に寂しさを感じ、ギャラリーの存在に力をもらえることを改めて感じていた。「いい意味で調子に乗れるタイプなので」「これだけの人数のなかでやるのは久しぶりだったので緊張しましたし、やっぱりこれが試合だと思いました。あるべき女子プロゴルフの試合だと」

「見に来てくださる方がいて自分も楽しめる」と渋野。ギャラリーの多いなかでバーディを取ったり「魅せるゴルフ」ができると嬉しいという

「周りの評価に負けないよう自分の意志を貫いてやりたい」

「新しい自分を見つけたいというのもありますし、つくっていきたいという感じでもあります」と始めたスウィング改造が、渋野の心技体を鍛え、「ゴルフ脳」を鍛え、アメリカ挑戦への武器となる。

感情コントロールも意識しているが、ときどき「プチン」とすることがある。だから、何度も自分に言い聞かせる。「目の前の一打一打をしっかりやる」そしてこの1年ずっと言い続けてきた言葉がある。「自分の伸びしろはまだまだある」ということ。

「まだまだやることがたくさんあるので今は楽しい。ショット力も上げたい、飛距離も伸ばしたい、アプローチ、パットの精度も上げたいので本当に全部です」
こうして渋野は2019年の自分を超えるべく進化しつづける。

「新しい自分だけど19年の自分でもあるわけで、混じって今の私がいる」「19年の自分が“渋野日向子”みたいな感じで私も思ってるし、思われてるし、そこを基準にしてしまう。でもこれから変わっていく渋野日向子が基準になっていくのを自分でも確かめたい」

一区切りするエリエールレディスの週に23歳になった渋野は、「22歳も変化することに対して恐れないようにやってきたつもりですが、23歳も22歳でつくりあげたものをもっともっと積み上げていけたら」

「日本で戦っているだけではアメリカで戦うのに必要なものは見つけられない」と思い決断したアメリカ挑戦。そのために取り組んでいるスウィング改造。「今やっていることを突き詰めていければ来年アメリカツアーでも戦えるかなと思っています」「その(米下部ツアー)選択肢はあります。難しいというか全然違うとは聞きますが、経験する価値はすごくある」「緊張感のなかで自分のイメージした、計算したプレーができるか。タテ距離もですし、ラフでどれだけボールが食われるか、風に対する計算など、Qスクールに向けて数字で把握していれば何かしらの対策はできると思います」

19年、一夜にしてシンデレラとなった渋野日向子は、自らの手で新しい靴を履き、新しいステージに向けて確実に歩んでいく。

優勝し雑音も打ち消した。「新しいスウィングで勝ったとき、あーだこーだ言ってた人を見返したいという気持ちを片隅におきながらやっていました。やってきたことは間違っていなかったと思わざるを得ない結果だと思います」。そして、継続していけば2年前の自分より強くなれると考えている。伊藤園レディスでも朝もやの早朝から黙々と練習する渋野の姿があった

週刊ゴルフダイジェスト2021年12月7日号より