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【世界基準を追いかけろ!】Vol.54 コーチングもTPOが大事

TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe

松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回は試合期間中の選手への接し方で気をつけているポイントについて。

前回のお話はこちら

GD トーナメント期間の選手へのアドバイスの仕方は、普段オープンウィークなどに練習場で教えるときと変えているんですか。

黒宮 試合では選手が良い成績を出すことが最優先です。ですから試合中のコーチに求められるのは、現時点で選手に何を与えるべきか見極める判断力です。その意味では、高度な理論や知識はその場では必要ないと思っていて、コーチと選手がお互いの理解を深めて、身に付いているモノのなかから的確に提案できることが求められますね。

GD 全米女子オープンで小暮千広さん(※1)のキャディをしたときは、まさにそのような対応だったと聞きしました。

黒宮 初の海外メジャー大会ですから、当然、余裕なんてないわけです。その場でのアドバイスは最小限にしておき、そのとき起きたミスの原因や修正点を整理しておいて、帰国後にすぐに選手が取り組めるようにしました。

GD 試合当日は難しい応用問題ではなく、やってきたことのチェックに留め、試合が終わったら次の試験に向けてできなかったことを整理復習する。コーチは進学塾の先生みたいですね。

目澤 実は、今年の全米オープンが終わった直後に、松山くんと一緒にTPI(※2)に行ったんです。そして僕がTPIを受けたときに、最初にいろいろ相談に乗ってくれたデーブ・フィリップス(※3)が松山くんのパッティングをちょっと見る機会があったんです。デーブは、僕が最初に会ったときは、簡単なフィジカルテストをやってから僕のスウィングをちょっと見ただけで、「キミは右の骨盤が弱いね」と一発で見抜き、それを矯正するシャドースウィングを教えてくれた人だったんです。ですから松山くんにどんなことを言うのか興味があったんですけど、彼は本当にシンプルなアドバイスを一言した後に、「そんなにいろいろ考えなくていいよ。ヒデキはパッティング上手いと思うよ」って言ったんです。要するに、全米オープンが終わった直後で、全英オープンの前というタイミングですから、選手が迷うようなことは言わずに、自信をつける方向でアドバイスをしたんだと思うんですよ。いやぁ、その一部始終を見ていて凄いなと思いましたね。

GD 全米オープンと全英オープンの間は一カ月しかないので、その間に修正できることを絞り、メンタル面も上昇させて臨ませる、調子のピークも考えたうえでのコーチングですね。

黒宮 ちょっとした話し合いで必要なものをポッと出せるのが凄い。まさに試合期間中にコーチに必要とされる資質ですよね。

目澤 デーブとはその後も交流をしていますけど、彼と話をしていると、もちろんデータや知識は必要なんですけど、でも結局、僕たちコーチは「人」を相手にしてレッスンをしているので、もっとシンプルに伝えないといけないなと思わされます。受け手の気持ちや状態をくみ取った上でアドバイスをするとか、そういうことが大事なんだって考えさせられて、本当に勉強になりますね。

(※1)小暮千尋……明秀学園日立高校3年。プロの試合にほとんど出場経験がないまま全米女子オープンの日本予選会を突破。本戦は15オーバー、133位タイで予選落ちだった。(※2)TPI……タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート。最先端の分析機器を備えた認定インストラクター養成機関。(※3)デーブ・フィリップス……TPIの共同創設者。米ゴルフダイジェスト誌のゴルフインストラクタートップ50に選出されている

目澤秀憲

めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任

黒宮幹仁

くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導

週刊ゴルフダイジェスト2021年9月21日号より