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【世界基準を追いかけろ!】Vol.53 努力が報われるとは限らない。それがPGAツアーという場所

TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe

松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回は日本とPGAツアーでの“努力”という言葉の認識の違いについて話してくれた。

前回のお話はこちら

GD 6月の全米女子オープンでキャディをして、何か感じたことがあったと聞きました。

黒宮 ショットの落とし所がちょっとズレただけで、結果が大きく変わってしまうケースをけっこう目にしましたね。要するに、良いショットを打っても結果に繋がらないことがあるということです。以前、あるテレビの番組で(松山)英樹が「努力は報われますか?」という質問に対して「NO」の札を上げていたんですよ。PGAツアーの選手たちは、良いショットを打っても結果に繋がらないことがあるというのを日常的に体験しているわけですから、いい意味でそういう思考になるんだと思いますよね。でも、日本のプレーヤーに聞くと、多分、ほとんどの人は「努力は報われる」と答えると思うんですよ。

GD 道徳教育としても、そう教わってきましたからね。

黒宮 でもそれは、傾斜が少ないフェアウェイや、よく整備された平坦なグリーンであればこそ。アメリカのように起伏の多いフェアウェイやグリーンでのプレーになってくると変わってくると思います。

目澤 日本の女子ツアーでは、例えば「1+1=2」という数式があって、それが勝利に繋がると分かったら、この数式をいかに繰り返して解くかが勝負になってくるわけです。

GD つまり、単純な繰り返しの練習に、どれだけ時間をかけたかが重要になるわけですね。

目澤 でも、アメリカのPGAツアーの場合、1+1=2の数式だけでは通用しない。コースの難しさや、移動距離が長くさまざまな土地や気候でのプレーが必要になるので、ときに2×3=6の掛け算や割り算が必要になるわけですよね。今年の全米オープン初日、荒天でサスペンデッドになった後に、ブライソン(・デシャンボー)は、夜の9時半近くまで練習場で球を打っていたんですよ(※1)。それを見ていて、掛け算も割り算も知り尽くしたレベルの人たちは理論とか理屈じゃなく、練習に答えを見出すしかないんだ、結局はそこなんだなって思いました。それはいつも松山選手を見ていても感じることで、世界のトップは皆同じですよね。

GD だから彼らは『努力は報われる』と簡単には言わないわけですね。そして、その練習も単なる球打ちではないわけですよね。

黒宮 最下点を安定させるとか、具体的な課題をもって取り組んでいますよね。

目澤 環境の問題もあると思いますね。例えば、ミュアフィールドビレッジ(※2)はジャック・ニクラスの設計コースですが、練習場は180度対面で球が打てるような設計になっています。180度だから、あらゆる風向きのショットを練習場で打てるわけじゃないですか。ターゲットも距離もバリエーションを考えて作られて、改めてジャックって凄いなって思いましたね。

GD 練習場から、加減乗除の数式を解く必要があるということですね。環境からして違うということがよく分りました。

(※1)初日2オーバー60位タイと出遅れたラウンド後、日没後の練習場で球を打っていたデシャンボー。「暗闇で球を打つことには慣れている」と納得がいかない部分の修正を試みたが、それもできないまま夜9時30分頃に終える。夜中に目が覚め「インパクト付近で右手首の角度を長く維持する」ことを閃き、翌朝ドライバーショットは復調した。全米オープンの連覇はならず26位タイに終わった。(※2)ミュアフィールドビレッジ……1974年オープン。故郷のオハイオ州にニクラスがデズモンド・ミュアヘッドと共同設計したコース。ニクラスがホストを務めるPGAツアー「ザ・メモリアルトーナメント」の開催コース

目澤秀憲

めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任

黒宮幹仁

くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導

週刊ゴルフダイジェスト2021年9月14日号より

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