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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.742「バンカーショットにセオリーなし」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

前回のお話はこちら


ここ5年間くらいのことでしょうか、PGAや日本の男子プロを見ていて、バンカーでのスタンスをスクエアに構える選手が増えてきていると感じますが、岡本プロはどうお感じになりますでしょうか?(匿名希望・44歳・HC3) 


「バンカーショットは、サンドウェッジのフェースを開いてオープンに構える」というのが一般的にいわれているセオリーかと思います。

その観点からいえば、最近のツアーでは、さほどオープンスタンスに構えない選手が増えているような気がしないでもありません。

あなたが敏感に、その変化に気づいたのは、バンカーショットはどうすれば上手く打てるかについて、普段から深く考えているからだと思います。

その向上心に溢れた姿勢と鋭い観察眼に敬意を表します。

ここで改めて考えてみれば、フェースを開いてオープンスタンスにというバンカーでの鉄則は、特に科学的な根拠が示されることもなかったように思います。

昔から経験的にそうしたほうが良いから、疑わずにやっているだけと言っていいかもしれません。

そうすると、必ずしもオープンスタンスで構える必要はないのかもしれません。

実際、砂が硬くソールが弾かれてトップしそうな時は、あえてフェースをかぶせ、ヘッドが砂の中に入っていきやすいようクローズスタンスに構える場合もあります。

つまり、セオリーというのは通常一般の対処法であり、どんなときにも適用することではない場合もあります。


以前と比べてバンカーショットでスクエア気味に構える選手が増えているのだとしたら、そこにはギアの進化やコース環境の変化などが影響を与えている可能性もあります。

1932年、バンカーが苦手だったジーン・サラゼンは、飛行機の水平尾翼からヒントを得て9番アイアンのソールに砂を爆発させるバウンスを設けることを思いついたそうです。

そうして誕生したサンドウェッジはこれまでの90年の歴史のなかで、ますますバンカーから出しやすいクラブへと進化しますが、グリーンは年々高速化してきました。

60度のウェッジなら、それほどオープンに構える必要もありませんし、砂の抵抗も少ないバウンスの形状も考案され、あまりカット軌道で打つとラインが出しづらくなる、などさまざまな要因から、バンカーでもスタンスをオープンにしない対応が見られるようになってきているのかもしれません。

わたしがアメリカと日本を往復してプレーしていたころ、日米でのコースの違いを感じていたことを思い出します。
久しぶりに日本のコースで試合に出るとウェッジを使った後はいつも、フェースの溝に挟まった小石をティーペグの先でかき出していました。

当時の日本のバンカー砂はやや粗かったので、コース整備の状態も時代によって変遷し、それに対応してプレーが変化することもあり得ます。

ただ、いままでのセオリーが過去のものになっているとは思いません。

元々、なぜフェースを開いて構えるかといえば、バックスピン量を増やすためでしょう。しかしフェースを開いたぶん、リーディングエッジが右を向くので、それに応じてスタンスはオープンになる。

ただ言われたとおりに打てばいいというのではありません。フェースを開く程度、オープンスタンスの加減など状況に応じて調節することを求められる。

そのスケール作りをするためには、バンカー練習を繰り返すことになるわけです。

バンカーショットの上手い人は、徹底してバンカーの練習をしています。

それこそ、一日中バンカー練習をしている日もあるくらい。

砂質や量、砂の層の厚さ、湿り気といった要因のほか、ピンまでの距離やグリーン面の傾斜や芝目など、ありとあらゆる条件が折り重なってきます。

そうしてターゲットを絞りボールの着地点を決めるのと、どんなフェースの入れ方をするかを決めるのは同時進行で考えて打たなければなりません。

バンカーは通常のショット以上に不確定要素が増えるので、そんな総合判断の選択肢は無限と言っても言い過ぎではありません。

よくパットにセオリーなしと言われますが、わたしはバンカーショットにはセオリーがありすぎるほどたくさんあるので、ないのと同じと言いたいですね。

そんなに難しいならバンカーに入れない練習に力を入れたくなりますが、そう上手くいかないのがゴルフ。あのサラゼンだって悩まされたのですからね。

とにもかくにも、通常のショットとバンカーショットは別ものだと心得て、双方同じ手間と時間をかけて練習することが大切だということです。

「バンカーは奥が深いですよ、冗談じゃなく(笑)」(PHOTO/Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2022年11月22日号より

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