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「今こそ、ゴルフを楽しみたい」2度目のマスターズへ! 金谷拓実の信念と新境地

2019年にアマチュアとして夢の舞台に立ち予選を突破した金谷拓実。その後実績を重ねプロ入り。今週開催のマスターズに、プロとして初出場する。今の思いを聞いた。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Blue Sky Photos

2022年が始まってすぐ、金谷拓実は海外転戦に出た。ソニーオープン(予選落ち)、アブダビHSBC(25位)、ドバイデザートクラシック(予選落ち)、サウジインターナショナル(14位)と世界を巡るも、あまり調子が上がっているようではなかった。

金谷はこの時期、プロとして、とにかく結果を出さなければならないという“重い思い”で、がんじがらめになっている自分に気づいたという。

「まずは、それをしっかり受け入れてやろうと、ベイヒル(アーノルド・パーマー招待)の週から決めたんです。そして、プロの僕が言うのも何ですけど、アマチュアのときのような気持ちでプレーしようとも考えるようになった。一打一打、たとえミスしても、まだアマチュアだから、まだ先があるから、まだこれだけではないからと思えていた。プロとして、仕事だと思いすぎて自分を狭めていたのかもしれません。でもそれで、結果もですが、自分自身が長く続けられないのであれば、せっかくゴルフを職業にできているのに、なんだか申し訳ないなと思って。もう少しアマチュアのときみたいにゴルフをエンジョイしたい。そうすると同じ結果でも、次につながるものは違うと思うんです」

焦りや葛藤を、考え実践することで乗り越えてきた金谷。今の気持ちを一つ一つ絞り出すように、丁寧に説明してくれる。

「昨年の全英オープンが終わって飛距離アップに取り組んできて、今年1月から4試合やって、やっぱりそのときにスウィングも崩れた。もう一度、自分のゲームができるよう自分をきちんと磨いて、自分のゴルフをもってやりたいなと思って臨んだベイヒルでした」

このアーノルド・パーマー招待で金谷は予選落ちだったが、

「結果的に1打足りませんでしたが、僕のなかでは活きていて……きちんと自分のゲームをやれていたし、これを続けていけばいいんだと。手応えとまでは言えないけど、自分のなかでは今までよりもすっきりした感じ。コースはめちゃくちゃ難しかった。距離は長いし、フェアウェイも狭いし、フェアウェイからでもなかなかボールを止められない。でも、今までみたいに“わけがわからない”という感じではなかった。それに、あれだけ難しいと、ああいうスコア(優勝スコアは5アンダー)になるんだなあと少し安心しました」

昨年、全米プロで覚えた違和感が取れず、調子が上がらず自信をなくし、もがき悩み続けた日々――とは明らかに違う。それは、「自分のゴルフをしてやる」と考えていたから。

金谷がいう自分のゴルフとは、どんなに曲げても、どんなにミスをしても、目の前の一打を拾っていく“泥臭い”ゴルフだ。


鍛錬し挑戦し続ける
「諦めずに頑張れば、チャンスをもらえる」

そして迎えたWGCデルテクノロジーズ・マッチプレー選手権。日本人で唯一参戦していた金谷拓実は、日々のインタビューで繰り返し「自分らしいゴルフをするだけ」「最後まで諦めないでプレーする」と言い続けた。まるで自分に言い聞かせるように。やるべきことに集中し、諦めない姿勢こそが、運を呼び、道を切り開くことを金谷は知っている。

以前、金谷はこう言っていた。

「どんなときでも最後まで絶対に諦めずにプレーする。もったいないと思うんです。途中で諦めたらスコアにも出る。最後まで尽くしたならば、予選落ちしても、得るものはあると思う」

予選ラウンド第1戦、X・シャウフェレに3&2で敗れ、第2戦のT・フィナウとの試合でも15番を迎えて2ダウン。しかしこのホールを「偶然の」チップインで1つ取り戻し、16番、17番と続けて先にパットをねじ込み、1アップで18番に臨み勝利をもぎ取った。

WGCマッチプレー、逆転勝ちしたフィナウ戦。グリーン外からパットで決めガッツポーズ。目にもゴルフにも、持ち前の勝負強さが戻ってきた。マスターズ後のRBCヘリテージの出場権も獲得した

「中盤までは苦しいマッチだったけど、最後まで諦めずにプレーしてこういう結果になったことは自信にもなる」

3回戦のL・ハーバート戦はさらに凄みが出て5&4で圧勝。続けて行わ懸けたれたハーバートとの決勝トーナメント進出を懸けたプレーオフ・1ホール目の第3打、58度で打った80Yのショットがピンに絡む。これがプレッシャーになったのか、2オンしていた相手が3パットし金谷の勝利。

「この試合は自分らしいプレーができていたし、プレーオフはティーショットをミスしてピンチだったけど、自分を信じて最後まで諦めずにプレーして結果がついてきたのでよかった」

そして迎えた決勝ラウンド。C・コナーズに5&3で敗れ、ベスト16で終わった金谷は、本当に悔しそうな表情をしていた。

「こういうチャンスをつかみたかった」

悔しい思いは、“もっとできる”気持ちがあってこそ生まれる。金谷に自信が蘇りつつある証拠だと思う。この試合の結果、64位だった金谷の世界ランキングは、49位となった。

「こうしなさい」というコースの声を聞いて攻める

マスターズに話を向けよう。

アーノルド・パーマー招待後、フロリダでの合宿の前、金谷はオーガスタナショナルGCで2日間プレーしてきたという。2019年、初めてアマチュアで出場したとき以来のオーガスタだ。

「1回目のときのような感動はやっぱりなかった」と笑う金谷。それこそがプロの証しにも思えるが、3年前を振り返って、「僕、タイガーの復活優勝は見ずに帰らされたんです。ローアマだったら一緒に写真に納まっていましたよね。(最終日一緒に回った)デシャンボーもまだトレーニング前のデシャンボーだった(笑)。でも、あのときはやっぱり、初めてだったから、一つ一つ何でも経験にしたというか、純粋にいろいろなことが受け入れられていたと思うんです。今足りないのはそういう純粋に、楽しいからやっているという気持ちですよね」

3年前とつながっている自分と向き合いながら、今、やるべきことをやり続ける。

3年前のオーガスタ「純粋にいろいろなことが受け入れられていた」
初めてスタートホールに立ったとき、「今までにない感じで、すごく緊張していた」という金谷。ずっとウワーッという感じだったが、「一つ一つ何でも経験にした。いま足りないのはそれです」

昔の自分から学ぶこともある。

「2月の自主隔離期間中に携帯を開いたら19年の練習ラウンドのメモが出てきたんです。(コーチのガレス・)ジョーンズさんとやり取りする時間があり、それを『書き出しなさい』と言われて送ったら、アップデートしたことは何か聞かれ、『では、その練習をしなければね』と。たとえばドライバーでフェード、3番ウッドでドローを打つことがホールごとに必要だから、その練習をしないといけないと書いてあったり。ほかには、傾斜が強いところから60~100Yのピッチショットの練習が必要とか、いろいろと。僕は、結構メモに残している。いいときはあまり書いていませんが、めちゃくちゃダメなときなどは、ショックが大きいから書いてあるんです。でも、見返すと役立つものですよ」

「安定感で攻めるタイプ。ショートゲームもファンタスティック」(ガレス・ジョーンズ)

バレロテキサスの会場で2年ぶりに直接指導を受けたジョーンズコーチと。「精神面も強く、モチベーションも高い。真面目でいつも向上しようとする普段の姿勢がいい。正確性や安定性で戦い、ショートゲームがすごく、戦略で攻めるタイプ。その強みを生かそうとしている。今は長いスパンで見て、一緒にやっていこうと思っている。お互い信頼し合って、やるべきことを共有できてそれに向き合えている。少しずつ自信もついてきているように感じるよ」(ジョーンズ)

今年、少し改修されたオーガスタ。戦略を変えたほうがいいと思うホールもあったという。

「たとえば11番(パー4)。距離が少し長くなっていますが、3年前は何がなんでもセカンドはグリーンの右に打ってアプローチで拾うと決めていましたが、それが改修されて、右に外れたらもう絶対に寄らないんですよ。ティーショットの落とし所は少し広くなっているんですけど……15番(パー5)も少し距離が伸びていましたし、ティーショットの落とし所は広くなっていた気がしましたが、2オン狙いがいいのかどうか。そもそもパー5は、すごい傾斜のなかで2打目を打たされるから、ティーショットが上手くいっても3打目で勝負しなさいと、3年前はジョーンズさんに言われていたんですが、今年は……」

とはいえ、やることは変わらないという金谷。

「ドローヒッター有利と言いますが、上手い人には関係ない(笑)。そこまで思い切り曲げる選手もいないし。でも一番はやはり、コースに『こうしなさい』と言われているような感じがすること。ピンではない方向に打ってもピンに寄っていく。だからこそ、きちんとそこに打たなければならない。決められたように進めていかないとダメかなとは思っています。3年前は、予選落ちするような位置から諦めずにプレーしたら、16番(パー3)ですごく長いパットが入ったりした。ハウスキャディさんに1つずつ聞きながら、1ホールごと、1打ごと進めていった。今回も同じようなことを繰り返すと思います」

金谷は今年の海外遠征で、「いろいろな人に助けてもらいながら」過ごしたという。自分だけで突き詰めるのではなく、人や息抜きに頼る術も増やしているようだ。

「欧州ツアーでは、川村(昌弘)さんが、僕とキャディさんを見つけたらすごい勢いで走ってきます(笑)。1人で参戦しているから、たまにお会いすると、すごくしゃべるんです。面白いですよ」

松山英樹のアメリカの自宅にも行った。

「結構お邪魔させてもらいました。ご飯もいろいろと出してもらったし、練習も。松山さんはケガをしていたので、キャディの早藤将太さんとラウンドして、松山さんは18ホールキャディをしてくれました。カートを運転して、ボールを拭いてくれ、ゴルフを教えてもらいました」

風が強いときなど、自分が気づかないうちにボール位置や重心の位置、構えなどが徐々にズレる。それを一回一回確認している、と松山が言うのを聞き、すぐにPGAストアに行き、アライメント確認の練習器具を購入した。こういう体験も気分転換になった。

「自分がどこでプレーしたいのか。それで行動も練習も変わる」

上の言葉は「松山さんの言葉です」。アメリカ遠征中、松山英樹の自宅を訪問、ゴルフも教わり、改めてアライメント確認も徹底。「真っすぐ打ったり、やはり自分の得意分野を磨くことは大事です」

「いろいろな器具を見られたので面白かったです。アメリカにしかないものもあったし、もっと買いたいなと思いました(笑)。生活の面でも何でも挑戦してみようかと思っているんです」

前のめりに進み続ける金谷にとって、メリハリはきっと、心に余裕をつくってくれるはずだ。

マスターズで自信をつけたい

今週、オーガスタの舞台に立つ日本人選手は3人。

昨年の王者、松山英樹に対しては、「初めてのディフェンディングに挑むんですから、とにかくすごいですよね。僕も一緒に出られて名誉です」と金谷。

ナショナルチームの後輩、アマチュアで初参戦する中島啓太は、金谷と一緒にマスターズに出られるのが一番嬉しいと話をしていた。

「僕の出場が後から決まったので。ソニーオープンのときだと思いますが、啓太が『感動した』と言ってくれました。それに一番よかったのは、ジョーンズさんが2人とも出られることを喜んでくれたこと。2人で一緒に練習ラウンドを回れると思うので嬉しいですね。パー3コンテスト、僕はアマチュアのとき出られなかったので、一緒に出られたらいい。僕が啓太くんのキャディをしますよ(笑)」

コーチのジョーンズ氏とも約2年ぶりに会った。生の言葉での指導は心強い。

「LINEなどでほぼ毎週やり取りはしていますが、本当に久しぶりです。ただ、マスターズのためだけの練習ではなく、今の自分の課題に取り組みます。飛距離も精度もシーズン中に徐々に積み上げていきたいですから」

マスターズでの目標を聞くと、今、「優勝」とは答えられない自分がいると笑う金谷。

「前は結構そういうことが言えていたけど、最近は言えなくなりました(笑)。楽しみですし、もちろんメジャーなのでいいプレーをしたいですが、予選を通過して自信にできればいいなと思います」

その自信は、「PGAのツアーカード獲得」という、先の目標のためにも必要なもの。だからこそ、このメジャーに、いろいろなものを“つかむための試合”として臨む。

「松山さんならば試合を選べる立場ですから、準備の仕方がある。でも僕はそこにも立てていないから。啓太とかを見ていて、僕もアマチュアのときは、メジャーに出られるとなったらそこに向けて準備できていたなあと。今はそれが難しい。でもやっぱり、それが嫌だったら優勝したり、ツアーカードを取ることが必要だなと思います。出るチャンスをいただけた試合はものにしたいです」 

2度目のマグノリアレーンはきっと、葛藤する金谷を、その先の道へといざなってくれるはずだ。

以前、ある野球選手の言葉を借りて、「絶対に皆にチャンスはくるけど、その1回だけかもしれないので、その1回を仕留めないともう上がっていけない世界がある」と話をしてくれた。金谷は絶対に諦めないし、目の前の1打に全力を尽くす

週刊ゴルフダイジェスト2022年4月19日号より

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