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【私のマスターズ観戦記】#4「ウッズさんからの手紙」

ゴルフの最高峰の試合「マスターズ」。この夢の試合を観戦するためにオーガスタを訪れた4人のゴルファーに、オーガスタでの出会い、気づき、旅の思い出を聞いた。第4弾は、2002年のマスターズを観戦した中野龍之さんの観戦記。

PHOTO/ご本人提供、Kiyoshi Iwai

2002年のマスターズはタイガー・ウッズが史上3人目の連覇を達成した

機内での出会いが奇跡を生んだ

中野龍之さん(69歳・HC14・ゴルフ歴42年)

マスターズ観戦は長年の夢でした。観戦が実現してみてあらためて思うのは、夢は心に思っているだけではなく、実際に行動に移すための第一歩を踏み出すことが大切だということです。

2002年のマスターズ開催2週間前のことでした。私が経営する会社の社員から、「来週のマスターズ、社長は見に行かないんですか?」と軽く言われたのです。「チケットを取るのは極めて困難なのに、来週に行けるはずないだろう! 簡単に言うな」と。翌朝、本社のある福岡から東京へと出張している最中に、その社員から電話が。「3人キャンセル待ちの後に、申し込み枠がありますよ!」。その旅行代理店の住所を聞くと、まさに今、自分がいる日本橋の、行きつけのカフェの2階だったんです(笑)。旅行代理店へ行き、その場で交渉をしてチケットを譲っていただきました。

アトランタ行きの飛行機では、日本人女性と隣席でした。どこへ行くのか聞かれ、心を弾ませている私は「マスターズトーナメントへ行くんですよ!」と意気揚々と答えました。そこからは、詰め込んだ豆知識やオーガスタの歴史などを得意げに話しました。会話が弾んで気づけば10時間ほども女性と話しっぱなしでした。するとアトランタへ降りたとき「実は私もオーガスタに少し関わっているの。何か困ったことがあったらお電話ください」と渡された名刺を見ると、『オーガスタインターナショナル日本代表』の肩書きが! まさに釈迦に説法でした(笑)。

私はタイガー・ウッズさんの大ファンで、ぜひ現地ではロープぎりぎりのところで見たいと思っていました。でも実際には、大ギャラリーの中では前になどとても行けませんでした。しかも向こうの中学生ほどの背丈しかない私には選手がよく見えず、あきらめようとしていました。すると、観客のみなさんが察してくれて、みなさんで前へ前へと押し出してくれたのです。目の前には、ウッズさんが! これには感激しました。

また、各ホールのスタンドは一度座ると、なかなか移動できません。私はのどが渇き、お腹もすいてきましたが我慢していました。すると横に座っていた家族が、ジュースとサンドイッチをどうぞと、笑顔で差し出してくれました。「パトロン」と呼ばれる観客たちの心の広さや思いやりに触れました。

タイガーのプレーぶりへの感想は「Next is best!」という中野さん。憧れの人がマスターズで優勝する姿を目の前で見られるとは、強運の持ち主だ!

撮影が許可されている練習日、美しいコースやそこでプレーするタイガーの写真を多く撮った。「パトロンの皆さんも本当に親切でした」

私には福岡から大切に持参してきた荷物がありました。それは、第14代柿右衛門の絵皿2枚です。ウッズさんが優勝するたびにお母さんとハグをしている場面を見て、母子家庭で育った私も母への愛情はとても深く、気持ちが伝わってきました。そこで、ウッズさんのお母さんへのお土産として、日本の伝統文化である絵皿に、英文・和文のメッセージを添えて持ってきたのです。しかし、前年の9・11の同時多発テロの影響で、手荷物制限が厳しく、絵皿はセキュリティに預けることに。これではお土産を手渡すことは難しい、そう思ったとき、あの機内で出会った女性を思い出したのです。

電話をして事情を告げると、「ああ、機内で大事に持っていたのはそれだったんですね、わかりました。ゲートへお越しください」と。ガードマンと一緒に現れた女性に、「破損してはいけないので2枚お預けします」と言うと、「直接お渡しできないので、支配人に私がお渡しします。支配人から渡してもらい、そしてもう1枚を支配人にあげてもいいですか?」と。お願いしますと告げて、私はオーガスタに別れを告げて帰国しました。

帰国後、私はマスターズでの思い出にふけりながら、日常を過ごしていました。あの女性からは、「支配人がウッズさんに渡せるかわからないですが、それでもいいですか?」とも聞かれていたので、絵皿のことは、渡っていればいいなというぐらいに思っていました。ところが、ニューヨークの支店のスタッフから、驚きの電話が飛び込んできました。「タイガー・ウッズという差出人から手紙が届いています!」と。

スタッフに日本へ届けてもらって開封すると、それはウッズさんからの感謝のお手紙でした。あの絵皿が、ウッズさんのお母さんに、しっかりと手渡されていたのです。ウッズさんがご自宅からわざわざ送ってくださったお手紙には、ウッズさんのサインもしたためてありました。

しかも、それだけではありません。オーガスタナショナルの支配人からも、お礼のお手紙と、そして、ウッズさんがマスターズで初優勝されたときにパーティで使用されたオーガスタの美しい絵皿を贈っていただきました。絵皿の返礼が絵皿だなんて、なんて粋なことをされるのかと感服しました。

そのウッズさんのお手紙と、オーガスタの絵皿とを、私は額装して会社のラウンジの壁に今でも飾っています。それを目にするたびに、マスターズ観戦という夢の旅で出会った、素敵な人々のことを思い出します。

日頃から出会いを大事にするからこそ、新しい出会いをつかめるのだろう。「お手紙はもちろん、絵皿の返礼が絵皿だなんて。とても粋ですよね」会社のラウンジに飾っているタイガーからの絵皿と手紙。見るたび夢の旅を思い出す

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週刊ゴルフダイジェスト2022年4月19日号より