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「松山さんがキャディをしてくれた」金谷拓実、マスターズに向け準備着々

今年のマスターズに出場する日本人選手は3人。ディフェンディングチャンピオンの松山英樹や世界アマチュアランク1位の中島啓太に注目が集まっているが、忘れてはいけないのがこの男。マスターズに向けてアメリカで武者修行中の金谷拓実を現地記者がレポート。

PHOTO/KJR

WGCデルマッチプレーの練習場。並みいる強豪の中でもコツコツと自分の課題に取り組んで練習する姿は。「周囲のことより自分のプレーに集中する」(金谷)を貫き通した一週間だった

強豪にもまれ勝負強さが戻ってきた

今年に入って、ハワイ、UAE、サウジアラビアと試合を重ね、その後渡米し、もう一カ月近くアメリカに滞在して、試合に出つつ、状態を上げてきた金谷拓実。日本人選手でいま一番試合をしているんじゃないでしょうか。

WGCデルマッチプレー選手権では、世界ランク上位のT・フィナウを逆転で破るなど2連勝して、決勝ラウンドへとコマを進めました。PGAツアーでなかなか結果を残すことができていませんでしたが、持ち前の勝負強さも出てきて、徐々に“金谷らしさ”をアメリカでも出せるようになってきましたね。

マッチプレーの2戦目には世界ランク上位のフィナウと対戦。終始リードを奪われていたが、15番から怒涛の追い上げで見事勝利。その翌日も勝利し、プレーオフの末、決勝ラウンドへコマを進めた

フロリダ滞在中には、松山英樹に教えてもらい、いろいろ吸収してきた様子。

「松山さんは怪我をされていたので、(キャディの)早藤さんとラウンドしたんですが、松山さんが18ホールずっとキャディしてくれて、カートを運転して、ボールも拭いてもらいました(笑)。ゴルフも教えてもらいました」

松山に「ボール位置だったり重心の位置だったり気づかないうちにズレるから、ちゃんとチェックしたほうがいい」という指摘を受けて、早速PGAストア(ゴルフショップ)に行ってスタンス&ボール位置チェックシートを購入。

(左)「風が強かったときなどに、自分が気づかないうちにボール位置や、重心の位置、構えなどが徐々にズレるから、一回一回終わったら確認している」と松山が言うのを聞いて、すぐにゴルフショップへ走った/(右)ボードには表面に、スタンスの位置、ボールの位置などが細かく描かれている。いつも同じ位置で構えるためのガイドになる。ちなみに裏は、ヘッド軌道が描かれている

今週は、サンアントニオに移動してバレロテキサスオープンに出場する予定で、そこではナショナルチームのコーチ、ガレス・ジョーンズ氏と合流するとのこと。まさに準備万端といったところです。

金谷にとって、2度目のマスターズ、その成長した姿をみせて、オーガスタで大暴れしてほしいですね。

練習中に新しいルーティンを取り入れた

練習場で時折見せていたルーティンは、剣道のようにクラブを一度担ぎ上げてから、中段まで下ろし、そこからボールにセット。これもアライメントの調整か

シャフトを使い慣れた「ジ・アッタス」に戻した

ドライバーのシャフトを「アッタスキング」から使い慣れた「ジ・アッタス」へ。慣れている分、コントロールしやすく、より安定感を求めた。ヘッドは変わらずピン「G410プラス」

週刊ゴルフダイジェスト2022年4月12日号より

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  • 4月のマスターズトーナメントに向けて日々「準備」を重ねるスーパーアマ、中島啓太。そのトレーニング現場をちょっぴり拝見。そこには世界アマチュアランキング1位の「自覚」とともに集中力マックスで練習する21歳の姿があった。 PHOTO/Hiroaki Arihara 春の気配が漂ってきた3月某日、杏文パフォーマンスセンターで。胸板が厚くなった姿に「筋肉の撮影」をお願いすると「恥ずかしいです」とはにかむのもまた、中島だ 静かなスタジオに今日も器具の音とトレーナーの掛け声と中島の荒い吐息だけが響く。「技術だけではなく、本当に心技体100%で臨まないと全部跳ね返されそうな感覚です」と話していた中島は、ゴルフの祭典を2週間後に控えて、確かにひと回り大きくなった。「とにかくたくさん食べてたくさんトレーニングをして体を大きくしてきました。最後まで体が切れるイメージを持って、力を出し切るためにトレーニングは頑張れています。順調です。体重も筋肉量も増えていて、このまま継続して試合を迎えられたらいいと思います」体重は75~76キロの間を行き来している。筋肉量も除脂肪体重が64キロくらいでいい感じ。脂肪を増やさないように体重を増やして筋量を増やしていく。その数値を共にチェックするのはトレーナーの栖原弘和氏だ。「彼は痩せやすい。体質もありますが、試合に行くとすぐに体重が落ちる。そこはしっかり気をつけています。胸筋、いいと思いますよ。バランスよく鍛えているので、ハーフパンツの上からはわかりにくいですが、お尻なんかもいい感じです。触ってみてください(笑)」 「メニューも自分のチームも信じて取り組んでいます」 ナショナルチームのヘッドトレーナーでもある栖原氏が考えたメニューで汗を流す中島。これは、コーチのガレス・ジョーンズ氏とも綿密に話し合いながら決めたものだ。この時期のスウィング改造というとリスクがありそうだが、そんなことはない。ミスやケガにつながっていた部分の使い方を細かく修正し、より安定感を求めていく。球筋からスウィングをつくるという中島。手首も積極的に使っていた。「彼は、腰痛、首痛が頻繁に出ていたので、スウィング中の動きが腰や首に負担をかけているということを話し合って、その修正を促進するようなエクササイズをしていきます。ゴルフに特化したプログラムと、腰や首周辺を鍛えるなど体自体を強くしたり柔らかくするジェネラルなプログラム、2つを組み合わせる。また、基本的にクラブがオンプレーン上を動くようにするために、体の動き、下半身や体幹、腕の動きをシンプルにしていく感じなので、手首の動きの修正もそのうちの1つです。マスターズはもちろん、大事な今年、その後にもつながっていきます」トレーニングすればゴルフが上手くなるのではなく、自分のゴルフの何を改善したくてトレーニングするかが大事だと栖原氏。「それぞれのプログラムの意味を、すべての選手に説明しながら行います」 ブルガリアンスクワットバーベルを担いで、片足ごとに下半身の曲げ伸ばしをする。「足の曲げ伸ばしの力を強くして、下半身の力を骨盤の回旋、体幹の回旋につなげていき、クラブスピードを上げていきます」(栖原) 真上と横にジャンプ! スウィングにつながる速い動きをトレーニング。真上と横で力を出す方向を変える。「バックスウィングは、骨盤を横に動かす力があって初めて回転しやすくなるので横にジャンプ、またその後の回転には上方向に力を発揮する必要があるので真上にジャンプ。両方行うんです」(栖原) 中島は、この説明にしっかり耳を傾けるという。学ぶことに貪欲だ。「中島選手は謎の落ち着き感があります(笑)。いい意味で大人です。それに、栄養士さんが『ラーメンには脂質がすごく含まれているのでよくない』と話すと、まったく食べなくしたり、生真面目というか、納得するとずっと貫くところがある。アスリートとしては大事な部分。性格は見た目のクールな感じのままですが、元気ですよ。でもヘラヘラしているよりシュッとしていてアスリートっぽいでしょう」栖原氏も夢の舞台に同行する。「初めて行くので楽しみです。でも、あちらでも、いつもとやっていることは変わらないと思います」先日、中島のもとにアマチュアディナーの招待状も届いた。「本当にワクワクしています。自分が今持っているすべてをかけられればいいかなと思います」(中島)日頃から、世界アマランク1位の「自覚」を持っていたいと言う中島に魔女もきっと微笑むはず。2週間後、オーガスタナショナルGCの1番ティーに立つため、視界は良好だ。 >>後編へつづく 週刊ゴルフダイジェスト2022年4月5日号より こちらもチェック!
  • 首痛の影響で、第5のメジャーと呼ばれるビッグトーナメント「ザ・プレーヤーズ選手権」を棄権した松山。マスターズまで2週間と迫るなか、果たして間に合わせることができるのか。現地記者がレポート。 PHOTO/KJR 棄権したプレーヤーズ選手権、練習場でスウィング動画を撮っている松山。首の痛みからか、いつもより練習量は少なく、フルスウィングすることも少なかった 松山英樹がプレーヤーズ選手権を棄権して、心配しているファンの方は多いと思います。マスターズまでに首の痛みは治るのか? 痛みは直ったとしても調子のいい状態に戻すことができるのか? 何を隠そう、私も彼の状態を心配しているひとのうちの一人。今回は、アメリカに1か月近く滞在し、PGAツアーを取材するのですが、その大きな目的が「松山英樹のマスターズ連覇に向けての道のり」を近くで見ることですからね。マスターズまでひと月もない中での試合欠場というのは、ちょっと想定外でした。しかもスウィングに影響のある、首から肩甲骨周りの辺りを痛めたといいます。棄権したプレーヤーズ選手権の試合前の練習では、バックスウィングでトップに入る前に顔をしかめていましたから、不安は募りますよね。でも本人がいちばん辛いと思います。 3月初旬に、首から肩甲骨周りにかけてを痛めた松山。練習中、時折、首の辺りをさする姿を見かけた 「ショットの状態は悪くないと思います。でも、首がうまく治って、フルスウィングできるようになったら曲がるかもしれないんで、なんとも言えないです。まあもうマスターズが近いんで、そういうこと(抑えて打つなど)したくないんですけどね。でも、試合は嫌でもやってきますし、体調もそこまでよくできないのなら仕方ないという気持ちもあります」(松山)こちらのコメントは、アーノルド・パーマー招待を終えた直後。怪我でうまくクラブを振れないことに対して、本人の歯がゆさが伝わってきますよね。ただ、棄権したプレーヤーズに関しては、悪天候で連日サスペンデッドが続き、風速も20㎧近くある日もありました。気温も下がっていたので、痛めている首のことを考えると、棄権してよかったのではという声もあります。自宅のある暖かいオーランドで、順調に回復していることを祈るばかりですね。 首痛で振れないがショットの調子はいい 昨年から引き続き、ショットの調子は上々。ただ、首のケガに一抹の不安が。「ショットは悪くないと思いますが、首がうまく治ってフルスウィングできたら曲がるかもしれない」と松山 アプローチは「調子が悪い」 ショットとアプローチのバランスが悪くなったことから、「グリーン周りはいま調子が悪い」(松山)と、珍しくアプローチに不安を感じている。ウェッジのソールの削り違いを何本も試している 週刊ゴルフダイジェスト2022年4月5日号より こちらもチェック!
  • コース改造により、今年のマスターズでは11番パー4と15番パー5の距離が延長されることに。同時に木も伐採され抜けは良くなったが果たして難易度は変わる? ILLUST/Sadahiro Abiko PHOTO/Tadashi Anezaki ロングアイアンの精度が要求される 今年のマスターズでは、11番パー4が15Y、15番パー5が20Y延長される。この影響について、佐藤信人プロに聞いた。「どちらもグリーン周りに池があることがポイントです。特に11番の左の池は昨年はまったく効果を発揮しなかったように思います。セカンドショットで池を避けるならカットに打つのが正攻法。現代の選手の場合、残り200ヤード前後ならば6I〜8Iでさほど難しくないんです。けれど、220ヤードのカットとなると4Iや5Iになってくる。すると途端に難易度がアップするわけです。それは15番にも言えることで、残りが230ヤード以上になると、グリーンに止めることがかなり難しくなってきます。それでなくても15番のグリーンは縦に狭い。昨年の最終日の松山選手のようにカットがかからず奥の池にハマることも多くなると思います。やさしいホールだった15番は今年、見応え十分です」 11番 パー4 505Y ▶ 520Y 昨年の平均スコア:4.40(難度2位) “アーメンコーナー”の入り口でもともと距離の長かったパー4がさらに伸びた。「大きな理由はセカンドでドラマを作らせること。ロングアイアンのコントロールショットはプロでも難しい技術です」(佐藤)。池に向かって傾斜するグリーンのため、セカンドは無理をせずセンターを狙うのがセオリー 15番 パー5 530Y ▶ 550Y 昨年の平均スコア:4.77(難度17位) 最終日に追いかける選手はイーグルを狙いにくる15番。昨年までは2オンが狙いやすかったが、20Y伸びたことで、無理に2オンを狙わず、池の手前のフラットなエリアに刻む選手が増える可能性も。 また300Y地点の手前のフェアウェイは比較的フラットなので「あえてティーショットを刻んで3Wか5Wで攻めるという方法もあります」(佐藤) 月刊ゴルフダイジェスト2022年5月号より こちらもチェック!
  • トッププロのスウィングをじっくり観察・分析して、最新スウィングを徹底研究! 今回はPGAツアー選手から8人をピックアップ。見るだけでもいいイメージが湧くので、好きな選手のスウィングを目に焼き付けてからラウンドに臨もう! PHOTO/Blue Sky Photos ジョン・ラーム 松山英樹 ジョーダン・スピース ジェイソン・デイ ブルックス・ケプカ ザンダー・シャウフェレ ブライソン・デシャンボー タイガー・ウッズ こちらもチェック!チャーリー・ウッズのスウィング
  • 昨シーズン、最終戦で3位に入り、マスターズ出場を決めた金谷拓実。スウィング改造に取り組んでいるという金谷が意識しているポイントとは? PHOTO/Hiroaki Arihara THANKS/太平洋クラブ銀座 かなや・たくみ。1998年生まれ、広島県出身。2020年にプロ転向し、国内ツアーですでに2勝。20-21シーズン賞金ランク2位 https://my-golfdigest.jp/tournament/p55110/ こちらもチェック! インパクトを長くしようと無理にひざを流していた 昨年は欧州や米国で海外挑戦をするも、なかなか思うような結果が出せなかった金谷拓実。最終戦でマスターズの切符をつかんで意地を見せたが、その試合のあと金谷は一本の電話をもらっていた。電話の相手は大学の先輩、松山英樹だった。「テレビ中継を見てくれていたみたいで、『終盤のほうとかドライバー以外は当てるだけになっていたね』と言われ、ドキッとしました。忙しい方なのに、よく見ているなぁと(笑)。本当、その指摘は図星で、自分でも何とか当てようとして左ひざも流れていたんですよね。実際、昨年はもう11月ぐらいから真っすぐ飛ばないからって、左ひざを送るようにしていたんです。左ひざを流してインパクトを長くしようとしていましたが、それだとなかなか安定しないですよね。本当はひざを流さずにインパクトを長くしたい。でもそれが終盤できなかったのは、スウィングの崩れというよりは、体力面での要因が大きかったんです」(金谷) ひざが流れなければヘッドが自然に走る この記事は有料会員限定です続きを読むには有料登録が必要です 松山に指摘を受けたように、調子が悪くなったり、体力が落ちてくると、金谷の左ひざは暴れ出す。「いかに左ひざを流さず飛距離を伸ばすか」が海外挑戦へ向けた喫緊の課題でもあった。「やっぱりひざが流れないほうがヘッドが走りやすくなりますからね。ひざが流れるとクラブと体が平行に動いて、スピードはロスしてしまいます。回転のなかで自然とヘッドが走る状態になれば、初速がアップして飛距離につながってくると思うんです」と語る。実際に金谷は、昨年からトレーナーさんと二人三脚でスウィングの改善に取り組んできたという。「ひざを流さない意識といっても、そこだけで改善できるものではない。今はバックスウィングで右股関節をしっかりと入れてタメを作るように仕向けています。結果的に、切り返し以降で左のお尻なども使えてひざが流れなくなるようにという狙いです。実際に右股関節が入っていないなというときは、間がないまま切り返しがスタートするので、そうなるとひざを流してインパクトを合わせるしかないですからね。今は、バックスウィングでいかに股関節を入れるかを意識しながら、スウィングしていますよ」 流れる左ひざに対して一番大事なのが、バックスウィングで「右の股関節」を入れること。そこがしっかり入ることで、スウィングに間が生まれ、その後のタメにつながり、安定したインパクトを迎えられる(写真は2022年ソニーオープン) 具体的なトレーニング方法は、「企業秘密です!(笑)」とのことだが、体の動かし方、股関節の入れ方は、本人が詳しく解説してくれた。 スウィングイメージは股関節を入れながら正拳突き 「前傾した状態で、空手の“正拳突き”のイメージですね。肩をタテに動かすように、バックスウィングで右肩を引いて、フォローで左肩を引く。右を引いているときに、合わせて股関節を入れる。その際に右サイドに体重を乗せようとか、無理に股関節を入れようとか特に考えないほうがよくて、前傾しながら右サイドを引いて、自然に右股関節が入った状態を作ります。股関節はあくまで体を上手く使うようにするきっかけなんです。切り返し以降は、右肩を下に、左肩を上に引く動きをして、バックスウィングの逆をやるだけ。上手く入れ替えができているときは、左の臀筋が使えて、結果的に左ひざも流れず、ヘッドも走ってくれるんですよ」金谷が目指すのは「初速175マイル」(メートルに換算すると約78㎧。21年シーズンはマックスで170.6マイル)。あと5マイル伸ばすことができれば、「キャリー300ヤード」も見えてくる。金谷拓実の挑戦、期待を込めて見守っていこう。 右サイドに体重を乗せようとする意識はなく、どちらかというと前傾したまま「右サイドを引く」イメージ。右股関節が切れ上がり、いわゆる“ズボンにしわ”ができた状態。右サイドでためたものを一気に左サイドで解放する。その際に今度は前傾しながら左肩を引くような動きをすることで、結果的に左の下半身が使えて、そのパワーがヘッドスピードに還元される 右股関節が使えているときは、左のお尻も使えるようになる。「お尻を使おうと思って意識的に動かすのではなく、自然とお尻が使えている状態がベスト」(左)/右の股関節が入っていないと、トップも浅くなり、クラブも外から下りやすい。左ひざを流して無理やりインパクトゾーンを長くするが、「当てるだけ」に(右) 週刊ゴルフダイジェスト2022年2月22日号より こちらもチェック!
  • 金谷拓実は「自信」という言葉をよく使う。それが自身のゴルフにいかに大事かわかっているからだ。しかし昨年、その「自信」をなくしてしまった。それを取り戻すため、“諦めない男”は今年も挑戦し続ける――。 PHOTO/Hiroaki Arihara、Tadashi Anezaki THANKS/太平洋クラブ銀座 僕は、やっぱり前のめりに進み続けたい 金谷拓実は昨年、自分をコントロールできなくなっていたという。「夏に海外から帰ってきて、日本の試合に出てからずっとです。ゴルフ場にいたら、いいスコアであろうが悪いスコアであろうが関係なく、本当にイライラして。自分はもっとできるはずなのにと考えたり、やらなければいけないことが全然できなくて自分にイライラするし、キャディさんにも当たるし。最後のほうはインタビューにもまともに答えられなかった」最終戦の1つ前、カシオワールドの最終日、勝利を逃した後の会見では、涙ぐむ金谷の姿があった。「もともとあまり得意ではないですが、ああいう時間も嫌だった。今考えるとすごく申し訳ないです。でも、ゴルフ場を離れて、車の中に入ったり、帰り道になるとすっかり落ち着くんですよ」 迎えた最終戦の日本シリーズJTカップ。金谷は思うようなプレーができずまた苛立っていた。3日目を終えた時点で首位と6打差の7位タイ。しかし最終日に逆転優勝して賞金王のチャンスはある。もう1つ、この試合で3位以内ならマスターズなどの出場権が得られる「世界ランキング50位」以内に入ることを知って臨んでいた。「最終日のプレー前は全然意識していなかった。優勝のチャンスもまだあると思ってプレーしていましたから。でも、終盤になってトップとの差も開いて……それでもまだ頑張れば、粘って、粘ってやれば3位に入れるんじゃないかとは思ってプレーしていました」周りがスコアを伸ばせないなか16番でバーディを取り、3つ伸ばしていた。しかし、バーディがほしい17番・パー5でパー。そして、数々のドラマを生んだ東京よみうりCCの18番・パー3のティーイングエリアに立つ。「18番はバーディが取れるようなホールではないから、ある程度開き直りました。何も考えずに、本当にバーディを取るだけと。あのホールは“絶対に手前”というセオリーがあるけど、関係なくピンだけを真っすぐ狙いました」5UTで打ったボールはイメージ通りにピン奥に着弾、バックスピンで戻り、ピン下1mについた。「計算もクソもない(笑)。いい方向に飛んだとは思いましたが、グリーンも硬くなっていたし、グリーンに落ちたらオーバーするだろうなと。でも上手くいった」金谷がバーディパットを打つ前、同じようなラインで先に打った堀川未来夢のパットが右に外れた。「気持ち悪くて。嫌な外し方するなって(笑)。でも、リーダーボードを見ると、後ろの組は、17番が取れても18番はボギーのほうが多いから、これを入れたら3位以内に入れると思いました」金谷は、世界ランク50位がかかった勝負のパットをねじ込んだ。派手めのガッツポーズが出た。「未来夢さんに、『あれ、賞金王は優勝だけじゃなかったっけ?』って言われました(笑)」 この記事は有料会員限定です続きを読むには有料登録が必要です 金谷らしいと思った。“諦めない”は金谷の流儀である。そして以前、「モチベーションが上がるのでよく見ている」と教えてくれた動画の話を思い出した。それは、『成功するために必要な3つのこと』というYouTube動画で、老人に海に連れていかれ海に沈められる。死ぬ寸前で出され『今何をしたいか』と問われ『息をしたい』と答える。そのくらい強い情熱がないと、100%物事に集中しないと、成功はないという例えなのだ。JTカップの最終日18番は、金谷が生き返る呼吸の場となった。 世界ランク50位以内がかかったパットを決めガッツポーズ。そんな金谷の最終戦を見て、松山英樹が悪い部分を指摘してくれたという。「ドライバー以外は当てるだけになっていると。パッティングのスタンスを開くようになったのも自分を支えきれないからだと。体力不足もありますよね。でも、忙しいのによく見てくれているなと。ドキッとしました」 「自信」は積み重ねることでしか生まれない 2021年を振り返ったとき、「ただただ苦しかった」と言う金谷。それは、海外の試合に出て成績を重ね、欧州やアメリカのツアーカードを取るという目標が崩れたからにほかならない。20年10月にプロ転向し、3戦目のフェニックスで早くも優勝。21年1月には欧州ツアー参戦。ここではある程度イメージ通りのプレーができた。4月の国内初戦、東建ホームメイトカップでも優勝。その後意気込んで乗り込んだPGAツアーの初戦で、歯車は狂った。「最初に出た全米プロのコース(キアワアイランドゴルフリゾート)が、距離は長いし、好きな言葉ではありませんが、周りの人がよく言う『コースが合ってない』感じで。もうまったくダメになった」全米プロは「75」「85」で予選落ち。この“おかしな感じ”を、次戦のメモリアルトーナメント(ミュアフィールドビレッジGC)以降も引きずることになる。「メモリアル初日の最終ホールのセカンド。フェアウェイのど真ん中から180Yを7Iで打って30Y右にいったんです。ギャラリーの方向に飛んで危なかった。そこからもう、どうしたら真っすぐ飛ぶのかわからなくなった。いつも通り臨んでいるつもりだけど、何がそうさせるのか。その後、全米オープンの予選会でも全然真っすぐ飛ぶ感じがない。調子を崩したわけでもなくアメリカに来たのに、アマチュアで出場したときより酷い状態になりました」体重も3、4キロ落ちた。泣いたことも一度や二度ではない。「暇になったから結構練習はしたんです。でも真っすぐ飛ばない。(コーチのガレス・)ジョーンズとも2、3回話をしましたが、涙が出るからあまり……キャディさん(ゲーリー・ジョンストン氏)に慰められるだけでした」アメリカで打ち砕かれた後、欧州で出場したアイルランドオープンと全英オープンの2試合は予選通過できた。「それでも自信はなかった。2日目の後半はけっこう焦っていました。初日も必死にプレーして、カットラインの下でも相当必死にプレーして。今振り返れば相当自分がぶっ壊れていたと思います」日本では周りから言われることもあり意識していた「東京五輪出場」も頭から消えた。噛み合わない自分にただ腹が立った。帰国しても、いい兆しは見られなかった。目標を切り替えざるを得なかった。21年の目標を聞かれたとき、金谷は「賞金王」とは答えられなかった。軸足を海外に置くと決めていたからだ。その状況で途中、目標を切り替えるのは容易ではない。世界ランク50位が1つの目安となったが、その後も調子はまったく出なかったという。「自信があれば同じ調子でも3、4勝はできたかもしれない。自信がなくなって落ち着きもないし、自分の技術に100%コミットしてないのがわかるし、ショットにも結果にも表れるし」確かに、金谷の持ち味である“勝負強さ”が消えていた。帰国後の12試合のデータを見ても、予選落ちはゼロでトップ10入りは9試合もあるが、勝ち星がない。金谷はプロ初優勝後、「不安が自信となり、自信が確信に変わった」と言った。自信とは、金谷のゴルフの大切な潤滑油なのだろう。「自信は、次の試合に向けての1カ月でどれだけやるかで表れます。東建で優勝できたのも、オフにしっかり取り組んで“背骨”みたいなものができていたから。積み重ねたものが大事。でも、積み重ねたのに海外の2カ月で結果に出なくて、自信がなくなった」それでも自分を見つめて努力し続けるのが金谷拓実という男だ。「アマチュアのときに一緒にパーマーカップに出たりしたドイツのマティ・シュミットが、全英オープンでシルバーメダルを取り、その後プロ転向して、7試合で歯を食いしばってシードを取って2021年の(欧州ツアー)最優秀新人になった。僕は日本に帰ってきて、何をしてるんだろうと思いました」帰国後、トレーニングを週3回に増やした。「筋トレもかなりしました。やさぐれていたので(笑)。昨年はもう、歯を食いしばることしか考えてなかった」と言うが、この積み重ねこそがまた新たな自信を生む。高校卒業後、QTサードで上手くいかなかったことを「挫折」と言っていた金谷。しかしその後、大学進学し、ひと回り大きくなって再び結果を残してきたのだ。1年前「立ち止まりたくない」と言っていた金谷は昨年、「倒されたので止まりました」と言いつつ、また立ち上がり、最後はチャンスの神様の前髪を必死につかんだ。「まあ、ハッピーエンドですよ」今は少し穏やかな気持ちになったという金谷は、変わらずまた、前に進み続けるのだ。 20-21シーズンは、平均ストロークとパーキープ率が1位、平均パット数は2位。パーオン率3位、フェアウェイキープ率6位という安定したスタッツだが、ドライビングディスタンスは287.11Yで41位。金谷が気にかける数字は「飛距離」だけ。「昨年から頑張っていますが、287Yしか飛ばなかった。また地道に頑張っていきます」 プロゴルファーは屍の上に立つ仕事 昨年は、同世代のライバルたち、コリン・モリカワやビクトール・ホブランらが大躍進した。その活躍を「めちゃくちゃすごい」と素直に認める金谷。「僕と同じくらいの選手が挑戦しているのだから同じ行動をしたい。やっぱり、挑戦を続けることはしないと、すぐに消えます。それを挑戦と言っているうちは、まだまだダメなんでしょうが」昨年は金谷の背中を追うように挑戦を続ける後輩であり同志の中島啓太が躍進した1年でもあった。2人は都度連絡し鼓舞し合う。本当にいい関係だと思う。中島は、8月の全米アマで初日80を叩き心が折れたとき、金谷に電話して立ち直ったという。「啓太から連絡がきて、偉そうに『自分を見つめ直すきっかけに』と伝えたかな。でも、啓太はアレがあったから、その後の取り組みが絶対に変わった。そういう出来事が自分を見つめ直すきっかけになるし、だからすぐに日本ツアーも勝ったし、一呼吸置かずにアジアアマにも強い気持ちで臨んでいけたのかと。僕も海外の2カ月の経験で、ちゃんと自分を見つめ直してきっかけにしなければいけない。前に進もうとしなければ、きっかけにもならないんです。大事なことです」欧州ツアーと米ツアーの差も感じるようになった。「あまり変わらないかと思っていましたが、フィールドの厚さが全然違う。優勝争いのレベルは変わりませんが、トップ10に入るとか予選カットが違う。ヨーロッパだと調子が悪くなければ予選は通れますが、アメリカは普通に予選落ちする。それにアメリカでは、ランクが下のほうの選手にも優勝のチャンスはありますが、ヨーロッパや日本は絶対にない感じです」だからこそ、「アメリカ挑戦」に向かいたいという金谷。よりレベルが高い場所、厳しい場所に身を置いて強くなる。 JGAナショナルチーム時代から仲がよく、高め合う関係の世界最強アマ・中島啓太と。今年はマスターズ、全英オープンと同じメジャーの舞台で“ライバル”として戦う。「オーガスタでプレーできるのはすごく嬉しいですが、2年前よりもいいプレーをして成長している実感を得たいです」(金谷) 世界ランクが上がるとチャンスは広がっていく。4月のマスターズへ――ディフェンディングチャンプとなった偉大な先輩と、有言実行で切符をつかんだ頼もしい後輩と同じ舞台に立つ。「2年前は、予選落ちするような位置から諦めずにプレーしたら、16番(パー3)ですごく長いパットが入ったりした。ハウスキャディさんに1つずつ聞きながら、1ホールごと、1打ごと進めていった。今回も同じことを繰り返すと思います」2年前は、アマチュアの特権、「屋根裏部屋」に泊まり、仲間とリビングでバスケットの試合を見ながら過ごしたよい思い出もある。しかし、プロとなった今、ただ思い出に浸るわけにはいかない。聖地、セントアンドリュースで行われる150回目の全英オープン出場も楽しみだが、どちらもアマ時代とは気持ちが違うという。「メジャーなのでいいプレーをしたいですが、メジャーに出ることが今度は足掛かりになる。前に出たときのような気持ちでは臨めません。“つかむため”の試合です」魔の2カ月――アメリカで何とか自分を鼓舞していた。「例の動画も見ていましたが、サザンオールスターズの風刺曲みたいな『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』も聴いていました。サラリーマンは、ほかの人の屍の上を越えて上がっていくという感じの曲なんですけど、プロってそういうものですよね。屍の上に立つ仕事です。言葉にすると厳しいですけれど……」 後ろの扉は閉めて前の扉を開けていきたい そうしてもう1つ、最近一番興味を持った話をしてくれた。「トレーナーさんから聞いたんですが、よく次のステップを踏むのに『扉を開く』と言いますよね。でも実は、前の扉を開くことよりも重要なのは、後ろの扉を閉めることなんですよ。後ろがあるから前に進めない。だからきちんと後ろの扉を閉めようって」2021年は、「後ろの扉」だったのかもしれない。「後ろの扉を間違って開けてはいけないんです。それにいつまでも後ろが開いているから戻りたくもなるし、足場がないから落ちる。きちんと後ろを閉めて、前を開ける。松山(英樹)さんも結果的にはそうですし、川村(昌弘)さんも。今年1月の欧州ツアーで会ったとき、最初の2、3年は日本にも出て、欧州・アジアも半々で出て、でも上手くシードが取れなかった。どっちつかずになるから、欧州のQTを受けできるだけ試合に出てシードを取った、と聞きました」2022年の金谷のスタートはソニーオープンとなる。その後、欧州ツアーにも挑戦していく予定だ。プロになって1年――あらためて理想のプロ像を聞くと、「技術もですが、僕はやっぱりどんなスポーツでも挑戦とか前に進もうとしている人を見て感動していたので、そういう選手になりたいと思っています」その感動した一人、以前著書を読んで参考にもなったという筒香嘉智(現ピッツバーグ・パイレーツ)の話を振ると嬉しそうに、「彼のようなことが必要ですよね。昨年2回カットされて……筒香選手だって日本に帰ろうと思えば絶対獲得する球団もあったでしょうが、そこで歯を食いしばって、最後に結果を残して、今年も契約してもらえたんです。そこで帰ると帰らないの差ってすごく大きい。何が幸せで何が目標で何が成功かはその人によるのでしょうが、それがお金だったら絶対に帰っている。世界一の国でプレーすることが大事だったから頑張れたのではないでしょうか。全員に強要するのはよくないですが、僕も、そうでありたいと思っています」そうして金谷は世界一の場所を目指して今年も戦う。「目標ですか……やっぱりツアーカードは取りたい。そうしないと始まらない。だから出られる試合は出てポイントを稼ぎたい」昨年、大学卒業後初めて一人暮らし用の部屋を借りた。そこにはまだ、以前から習慣にしている「9マスシート」は貼っていない。「学生時代は貼っていて、真ん中の目標を1年に1度は変えていた。“マスターズのローアマ”と書いたり。今も保管していて見返すと、そのときの心などが読み取れるから好きなんです。また書かないといけませんね。何にしましょうか……ツアーカード獲得だと、ちょっとしょぼいですね(笑)」真ん中の目標は、きっとビッグなものになるはずだ。それに向かう日々がまた始まる。 昨年最終戦の18番が「新しい扉」となった。コーチに動画を送ったりして確認してもらいつつ、スウィングなどはトレーナーの先生らと相談し自分で考える。このオフの課題は、「飛距離も精度もオフでガッと上げるのではなく、シーズン中も含めて積み上げていきたい。ジョーンズコーチとの電話でも『徐々に』と話をします。トレーニングなどもオフは少し強度が高くなりますが、イメージとしては1年ずっとやっていく感じです」 週刊ゴルフダイジェスト2022年1月25日号 こちらもチェック!