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【独占インタビュー】松山英樹が語ったマスターズの前と後「ああよかった、腹が立つんだ」

マスターズ優勝後、7月にコロナ感染、病み上がりで出場した東京五輪でメダル争い。そして10月のZOZOチャンピオンシップでツアー7勝目を挙げるなど、激動の1年間を走り抜けた松山英樹。まもなく30歳になる彼は、いま何を考え、そしてどこに向かっているのか? 心の内をじっくりと語ってもらった。

PHOTO/Takanori Miki、Taku Miyamoto

松山英樹
1992年2月25日生まれの29歳。2010年のアジアアマで優勝し、11年のマスターズでローアマに輝く。13年にプロ転向し、国内ツアー賞金王に。14年から米ツアーに本格参戦し、メモリアルトーナメントで初優勝。21年のマスターズで日本人初のメジャー制覇を遂げ、同年10月、日本開催のZOZOチャンピオンシップを制して、米ツアー7勝目を挙げた

「ああ、もう勝てないのかな」
正直そう思っていました

GD 2017年以降、4年近く勝利がないなかで、4月のマスターズで悲願のメジャー優勝、そして10月にZOZOチャンピオンシップでも優勝し、ツアー7勝目を挙げました。いろんなことがあった1年だったと思いますが、それまで勝てなかった日々を振り返ってみて、いまどんな心境ですか?

松山 勝てない時期の最初の1、2年は正直「まあ勝てるだろう」って高をくくっていて、楽観的に考えていました。でも19年、20年になってもなかなか思うような成績が出なくて、コロナ禍になる前、2週連続トップ10に入ったのに(20年3月)、そこで勝てなかった時点で、「あぁ、もう勝てなくなるのかな」と思っている自分がいました。それはコロナ中断明けの試合でも続いて、BMW選手権(20年8月)で上位争いしましたが、そのときも優勝争いをしている感覚はあまりなかった。必死につないで、つないで、なんとか優勝争いしている状態で、ただそこにいるお客さんのような感じでした。

GD その「勝てない感覚」に、いつ変化が訪れたのですか?

松山 ヒューストンオープン(20年11月)で2位になったときに、「まだ気持ち的に争っている」というのを久しぶりに体感しました。まだ勝てる可能性があるなと。でもその後21年になっても、状態が悪くないのに予選も落ちるし、トップ10にも入れないのが続いて、「なんでだろう」ってすごく考えていました。

GD 4月のマスターズ前にそこに変化が訪れたということですか?


松山 そうですね。オーガスタに入って、前の週にやっていたことと、その前の週にやっていたことがすごくマッチしたんです。オーガスタで練習をしていくなかで、頭の中がすごくクリアになってきて、自分への期待度もどんどん上がっていたんです。「勝てるかもしれない、勝てなくても絶対に上位にいる、優勝は争える」って。いつもなら練習ラウンドも1.5や2ラウンドはするんですが、試合前日も練習ラウンドはしないで練習だけで終わりにしたんです。コースも知っているし、自分の状態を上げることに専念しようって思いました。それが結果的に良かったですね。

オーガスタに移動した瞬間
全部がつながった

GD 優勝を狙えると思えるようになったのは、スウィングが安定してきたということですか?

松山 そうですね、考えることが少なくなったというのがいちばん大きいですね。今までだったらスウィングのことを考えるだけでなく、そこにプラスして球筋を考えていたんですが、あの週は考えることが本当に少なくなっていました。

GD 具体的にどのぐらいクリアになっていたんですか。

松山 昨年から目澤さん( コーチ)と一緒にやり始めて、目澤さんの言っていることもすごくよくわかりますし、そこに取り組んできたんですけど、一方で自分をなくしている部分もあるのかなとも思っていたんです。それが何の拍子かわからないですが、マスターズ前週のテキサスオープンで時間をかけて練習をしていたら、なんかいい感じだなというのを見つけて。その試合はダメでしたけど、オーガスタに移動した瞬間に、「ああ、だからこうなるんだ」とパターまで含めて全部がつながっていく感じがあったんです。だから、「あ、戦えるな」って。

GD 目澤さんが話すようなGC4(弾道解析器)などで測っているデータと、スウィングがマッチしてきたということですか?

松山 そうですね。取り組んできたことと自分がやっていることがすごくハマったというか。頭で考えていることを体でうまく表現できるようになって、クラブを上手く扱えるようになったんです。

GD そうなると、マスターズの4日間は、スウィングをシンプルに考えていたということですか?

松山 そうですね、けっこうシンプルでした。クラブを上げるときは、ここ(テークバック)とリズムだけという感じでした。意識していたとしても、1カ所、2カ所……、あっても3カ所ぐらい。

GD ちなみに普段はどれぐらい考えているんですか?

松山 んー、何個かな。アドレスだけで多分4つぐらいある(笑)。

GD そんなにあるんですか。

松山 まぁでも、それがどんどん減っていけばいくほどやっぱり調子が良くなるんです。考えることが1、2個だったら、すごくシンプルですから、それは調子がいいって発言になると思います。なかなかそういうふうにはならないですけどね。

GD ZOZOチャンピオンシップのときは、調子が良くないと言っていましたが、そのときは考えることがいっぱいあったと。

松山 いっぱいありましたね(笑)。でも、考えることがあるなかでも、最終日に向けて徐々に減りつつあったかなとは思います。

「良かった、腹が立つんだ

GD マスターズに勝って、自分の中で心境は変わりましたか?

松山 うーん、どうですかね。変わったと言えば変わったかな。3週間クラブ握らないとか今までなかったですからね。今回もZOZOで優勝してからまだ1回もクラブ触っていないですし、そういうことが平気でできるようになっています(取材はZOZOから2週間後)。

GD それはプラスなことですか?

松山 絶対マイナスでしょ。体を休めるには必要な時期だと思っていますが、でもさすがにちょっとやばいかなと。

GD 目標だったメジャー優勝を遂げて、燃え尽きてしまったような感覚はありますか?

松山 そうなるんじゃないかと、自分でも心配していました。でも、マスターズ優勝後、最初に出場した試合で(AT&T)、結果が出なくて腹立っている自分がいて、「ああ良かった、自分は変わってなかった、腹が立つんだ。やっぱりゴルフが好きなんだ」と思ったんです。そこで「勝ったからいいや」って思うようだったら多分ゴルフをやらなくなっていたはず。でも本当に腹が立って、イライラしながら練習もしていたし、その姿を客観的に考えて、「ああ良かった」と思いました。

GD それまで「メジャー優勝」だった目標は、その後どう変わりましたか?

松山 ツアー6勝目をマスターズで挙げて、ZOZOで7勝目も挙げたので、K・J(チョイ)さんに並ぶ8勝目を挙げることが、いまは一番近い目標だと思っています。丸山(茂樹)さんが持つツアー3勝という数字を抜いたときに、「早くK・Jさんの数字を抜けよ」って言われていたので、すごく意識していました。無理じゃないかと思うこともありましたが、あと1勝で並ぶところまできたので、それを早く遂げたいなと。

GD 22年はマスターズのV2もありますが、どんな戦い方を考えていますか。

松山 早いうちにもう1勝して、シーズンを楽にプレーしたいですね。もちろんオーガスタでもう一回勝ちたいですし、それに向けてどういうスケジュールを組むか考えなきゃいけないと思っています。

GD マスターズに向けてピークを作っていくと。

松山 毎試合、山のてっぺんだったらいいんですけど、「ピークから下がったときどこにいるか」がすごく大事なので、そこの基準が上がれば、調子が悪くてもパーッと勝てるかもしれないと思っています。

GD マスターズの勝算は?

松山 正直ないですね。そこはコンディション次第で、すごく変わると思っています。それこそ一昨年のマスターズ(20年11月)みたいに20アンダー出るセッティングだと、僕にとってはしんどい。10アンダーから15アンダーぐらいのセッティングだったら勝負できるかなと思っています。13番ホールは距離が延びると思うし、天気次第でスコアがどれぐらい伸びなくなるかも変わりますからね。でも、たとえどんな天候だとしても、20アンダーの世界になったとしても、そこについていけるようなプレーはしたいと思っています。

週刊ゴルフダイジェスト2022年1月11・18日合併号より

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  • 2022年の出場権をかけた男子のファイナルQTが宮崎県のトム・ワトソンGCで行われた。注目だった米澤蓮や河本力らは期待通りの結果を残すことはできなかったため、AbemaTVツアーが主戦場となるが、2021年に大躍進を果たした久常涼の例もあるだけに、下部ツアーからジャンプアップしてくる可能性は大いにある。 現在、男子ツアーでは大学ゴルフ部出身者が大半を占める。古くは日大黄金時代に始まり、その後、星野英正や谷原秀人、そして松山英樹らを輩出した東北福祉大学が勢力図の中心に君臨している。来年も米澤蓮や杉原大河ら東北福祉勢の活躍は間違いないだろうが、そこに待ったをかける他大学出身選手の存在にも注目してもらいたい。前述した河本力は日本体育大学出身で、さらに日本大学出身の清水大成、木村太一、桂川有人の3人は実力の高さはもちろんのこと、爽やかなルックスにも注目。また、3人の先輩にあたる岩崎亜久竜はファイナルQTランキング9位で22年の出場権を獲得している。飛距離はすでにツアートップクラスと言われるほどで、レギュラーツアーでの暴れっぷりに期待が高まる。そのほかにも昨年活躍した木下稜介の出身校である大阪学院大学に在籍中の平田憲聖(3年)は、ファイナルQTで2位に入り、日本人最高位でフィニッシュ。22年は大学生プロゴルファーとしてレギュラーツアーを戦う期待の一人だ。「大学生プロゴルファーという肩書きには実は魅力を感じていました。自分の持ち味をしっかり出せるように頑張りたいと思います」(平田)次々に出てくる有力株に、2022年シーズンは注目必至。東北福祉大の牙城を崩す選手は現れるのだろうか。来年はツアー観戦の見方に出身大学を加えてみるとまた違った楽しみ方ができるかもしれない。 QTを日本人トップの2位で通過した平田憲聖。日本学生も制した注目株だ(PHOTO/Tadashi Anezaki) 週刊ゴルフダイジェスト2022年1月11・18日合併号より こちらもチェック!
  • 日本でもアメリカでも、あるいはイギリスでも、ラウンド中でなければ松山英樹は大抵、練習場にいる。アジア人として初めてマスターズを制し、世界ランク1位にもっとも近い日本人プレーヤーであるにもかかわらず、誰よりも練習するのはなぜか? その練習で、松山は何を目指すのか? 松山と親交が深い、内藤雄士コーチが「世界一の練習」の中身と“意味”を解説してくれた。 TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、KJR THANKS/ハイランドセンター トーリーパインズGCで日没近くまで練習する松山 内藤雄士 丸山茂樹をはじめ、多くのトッププレーヤーの優勝をサポートしてきたプロコーチの第一人者。現在は若手の大西魁斗のコーチも務める 地道な練習をコツコツとやってきたから今がある アマチュアのスウィングには「課題」がたくさんあるから、練習場でやることはいくらでもある。でも、松山英樹はどうなのか? プロの目で見ても、ほぼ「完成形」に近いといわれる彼のスウィングの、どこに改善点があるのだろうか。「松山君のすごいところは、いつでも自分のウィークポイントを探していること。しかも、弱点をちゃんと見つけ出して、その改善に向かって努力するから練習の『質』が高いんです」と、内藤雄士はいう。目先の試合結果よりも、自分自身が理想とするスウィングを長期的視野に立って追い求めているということか。「松山君の姿は、ベン・ホーガンと重なる感じがします。ホーガンは、あれだけの勝ち星を重ねながら、勝つことよりも理想のスウィングを作り上げることに執着した人物。松山君も、気持ちは同じなんじゃないかと思います。じゃあそのスウィングはいつか完成するのかというと、おそらく死ぬまで完成しない。松山君の中で、常に足りないパズルのピースがあって、そのひとつをはめるために膨大な量の練習をこなす。ひとつがはまったら、また次のピースというふうに努力を重ねてきて、今があるという感じ。その濃密すぎる作業をこれからも続けていくんだと思うと、世界ナンバーワンを目指す道のりの険しさにゾッとします」(内藤)。 続きを読む 松山はプロ入り後、コーチをつけずに自分ひとりで「理想のスウィング」を追求してきた。スウィングに対する深い理解と探求心がなければ、到底続けられない壮大な実験・研究の日々。現在は目澤秀憲コーチとの二人三脚で同じ作業を続けている 実際、松山が内藤にスウィングの話をするときは、「できていること」が話題になることはなく、「ここがよくない」とか、「(別の動きをしようと思っているのに)こうなっちゃう」ということばかり話すという。信じられないことだが、松山の内的感覚としては、我々アマチュアと同じく、「自分はまだ上手くない」と思っているのではないか。「驚いたのは、あるひとつの課題に対して、『2年間、取り組んでいる』という話を聞いたときです。どんなプロだって、新しい課題に取り組んで、1カ月やって上手くいかなかったら、『自分には合っていない』と判断して、別のやり方を探すのが普通です。ところが、松山君はできるまでやり続ける。2年も続けるというのは、ちょっと聞いたことがないです」と、内藤が明かす。現在の松山英樹は、気の遠くなるような努力の積み重ねでできている。と同時に、今、この瞬間もその「ゴルフ細胞」が入れ替わり、昨日よりも少し強い、松山英樹に生まれ変わり続けているのだ。「ジャック・ニクラスが、70歳を超えてもまだ『毎日上達している』と言っていますが、松山君もマスターズに勝って終わる選手じゃないってことだけは確かですね」(内藤)。 ティーオフの4時間前から試合は始まっている 試合当日、松山の1日はスタート時間の4時間前起床から始まる。「なんだ、そのくらいなら自分も同じだ」と思った人は、起床後のタイムテーブルを見てほしい。起きてすぐのランニングから始まり、食事と移動時間以外は、スタートまでとにかく「ずっと」練習している。「キャディの早藤(将太)君が朝のランニングに付き合うと、ついていけないくらいのペースで走るらしいんです。そうやって全身に血を巡らせて、頭と体を起こす。タイガー(ウッズ)も長年続けてきたやり方です」と、内藤。コース入りしたら、パッティンググリーンを経由して、ドライビングレンジへ。ただし、ここで打つ球数はおよそ60球とあまり多くない。「とくにドライバーの球数がたった5球と少ないのが、アマチュアには参考になる点です。これは、短いクラブの完成度が高ければ、ドライバーも問題なく打てることを熟知しているから。アマチュアが、不安なドライバーをたくさん打って、それでスウィングを崩しちゃうのとは対照的です」(内藤) 【松山英樹の1日(試合の日)】4:00 起床4:10 体のケア4:30 ランニング&トレーニング6:00 朝食6:30 コース入り6:35 パッティング練習7:00 打撃練習7:35 アプローチ練習7:45 パッティング練習8:00 ティーオフ13:00 ホールアウト13:30 打撃練習15:30 アプローチ練習16:00 パッティング練習17:00 帰宅 Q.ラウンド前の練習はどんなことしているの?A.スタートのぎりぎりまでその日の調子をチェック スタート前にボールを打つのは、あくまでもその日の調子、球筋を見極めるため。感覚だけに頼らず、動画でもチェックして、スウィング全体のバランスやリズムが崩れていないかを確認することで、平常心でスタートできる Q.ラウンド後の練習はどんなことしているの?A.弾道計測器でデータをチェックしながら練習 ラウンド後の練習では、その日のコースでの反省を踏まえ、悪かった部分の「原因」を探り、必要なら修正する。その際、頼りになるのが「トラックマン」などの弾道計測器。自分の感覚と、実際のスウィングの「ズレ」を確認できる 松山英樹 3つのの鉄板メニュー 松山の「片手打ち」は、もはや練習場の風景の一部。「松山君は、右手のほうが『当たっちゃうから難しい』と言っています。右手は器用な分、手打ちでも打ててしまうと。だから必ず、左手で右胸や右ひじを押さえてやっていますよね。つまり、練習の最初に『片手打ち』をやるのは、体で打つことを確認するためということです」と、内藤。また以前から、軟らかめのカーボンシャフトが入った7番アイアンでボールを打つ姿をよく見かける。「軟らかいシャフトは力むと暴れるので、自然とグリッププレッシャーをゆるめて、クラブをプレーンに乗せる振り方になります。とくに朝の練習で軟らかいシャフトは有効で、アマチュアも真似する価値があります」(内藤)。 松山の鉄板メニュー1 片手打ち 【効果】体の回転で打つ感覚を染み込ませる 左右とも、手を使わずに体の回転で打つという点は同じ。わきを軽く締めて腕と体の一体感をキープしつつ、胸の面の向きが変わるように、上体をしっかり回転させて打つ 松山の鉄板メニュー2 軟らかシャフト 【効果】プレーンが安定しリズムが生まれる グリップに力が入ると、腕、肩も硬直し、切り返しで右肩がかぶりやすい。軟らかいシャフトは力んで、クラブが上から入るとまったく当たらないので、自然にオンプレーンに振れる 松山の鉄板メニュー3 両わき締め打ち 【効果】腕と体の運動量が一致する テークバックでボールが落ちるのは、腕に対して体の回転量が不足している。切り返しでボールが落ちる場合は、右わきのゆるみが原因。腕と体が同じ量だけ動けば、ボールは落ちない 週刊ゴルフダイジェスト2021年12月21日号より こちらもチェック!
  • 昨年11月に世界アマチュアランキング1位となった日本体育大学3年の中島啓太。先日のプロツアー、パナソニックオープンで、男子ツアー史上5人目のアマチュア優勝を果たした。世界トップアマの強さの秘密に迫った。 PHOTO/Tadashi Anezaki、Shinji Osawa、Hiroaki Arihara 「全米アマのコースは今までで一番難しかった」 7月の日本アマでは念願の初優勝を飾った中島。今まで2位4回で、近所のおじさんに“2位の男”と言われていたという。「今年優勝して地元に戻ってもそんなに驚かれなくて。やっとだよね、という感じで迎えてくれました」 雨で中止となった18年も含めると2位4回だった。今年は最終日が雨で中止になったものの、「ゴルフ人生においてとらないといけないタイトル」をゲット しかし、8月にオークモントCCで開催された全米アマ。ここで一度、心が折れそうになった。「今まで回ったコースで一番難しかったですね。それまで一番だと思っていたロイヤル・メルボルンより、フェアウェイにアンジュレーションがあり、ボールが転がる。グリーンも硬くて、さらに風もプラスされた感じで。でも、自覚が足りなかった。初出場でしたが、本当にレベルが高い試合に出るという自覚と、世界ランク1位として出ることに対しての自覚です。現地では、様々なメーカーの方に声をかけていただいたり、ペアリングもランク1、2、3が一緒で注目組でしたが……」結果は無念の予選落ちだったが、そこでしっかり自分を見つめられるところも中島の強さだ。「初日80を叩いてしまい、そこで切り替えられないと本当にズルズルいきそうだったので、きちんと次にやるべきことに向き合って考えてはいけました。以前は、体が強くて大きくてパワーゲームをする選手が多いイメージでしたが、きちんと皆マネジメントして小技で勝負する選手もいますし、少し変わってきているのかなと」変わったのは中島のほうかもしれない。心技体が確実に成長しているからだ。「帰国後の隔離は長くて大変でしたが、トレーニングや練習ができて、自分自身を考え直す時間もあった。すごくいい2週間でした。『ゴルフデータ革命』という分厚い本を勉強もしました。ショートゲームの練習やトップ選手の考えていることはすべてデータに基づくべきなんです」その後、5日間、毎日2ラウンドする大学のリーグ戦に出場。そうしてパナソニックオープンを迎える。この試合ではリーグ戦から続く14すべてのホールでドライバーを使うマネジメントを試した。 続きを読む ドライバーを振り続けたパナソニックOP 「(ナショナルチームヘッドコーチのガレス・)ジョーンズさんと話をして徹底しました。優勝など結果目標はまったくなかった。14回毎日ドライバーを振り切るというだけ。あとはコースにアップダウンがあったので、痩せないよう、試合中でも筋力を高めるため毎日トレーニングすると決めてやった。調子は悪かったんです……」以前中島は、「調子が悪くてもターゲットにだいたい飛ばせることは強み」だと言っていた。「調子とスコアは比例しない」が座右の銘でもある。そうして、プレーオフの末、アマチュア優勝を果たした。優勝後、嬉し涙を流した中島。「結構涙もろい。負けても勝ってもいつも泣いています。泣いたのは東建以来です」と笑う。春の東建は金谷拓実に競り負けての悔し涙だった。その金谷がプロ転向したときは寂しくて泣いた。クールに見えてじつは感情豊かなのだ。 4日間、体全体を使って打ち、決めたスウィングで迷わず振り抜いた。「自分の優勝で泣いてくれた方がたくさんいたので嬉しかった」と本人も涙 「でも優勝は自信になりました。最終日のバックナインは、優勝争いの臨場感のなかでドライバーを打ついい機会にもなった。今後そういう場面がきた時の自信となる。ドライバーで打つと課題である50~60Yの練習にもなりました。朝トレをしたので筋肉痛で左にいくミスが多かったんですが、終盤の15、16番でフェアウェイに打てたのは成長したところ。パットも勝負どころでしっかり打てた。プレーオフでもショートしなかったのは成長と感じた部分です」中島は、結果に焦らない。すべては、もっと強くなるため。「もっと先の目標」があるからだ。 結果にこだわるより結果につながる準備を 中島のゴルフは、JGAのナショナルチームで磨かれている。尊敬する先輩、金谷拓実とは今も時々連絡を取り合う。「全米アマ後、言ってもらったんです。金谷さんもオーストラリアオープンで80以上叩き、僕と同じ思いをしたと。そしてジョーンズコーチと出会い、自分と向き合うことやデータに基づいて練習をすることをしっかり行ったと。だから、僕もそれらを改めてきちんとやってみようと思ったんです」優勝後、金谷はすぐに電話をくれたという。「3日目が終わった時点で優勝すると思った、そんなに驚かなかった。またお互い頑張りましょうみたいに言われました」歳は2つ違うが、同じチームで合宿や海外遠征などで同じ時間をすごし、よき相談相手、ライバルとなった。金谷は中島について「きれいなゴルフをする」と言う。多くの人が中島のスウィングを美しいと評する。「自分では、苦手をつくらないというか見せないという感じなんです」という中島は、得意クラブも「ない」し、苦手クラブも「ない」と答える。 15年日本アマ東海クラシック”練ラン”試合で戦い、共に練習し高めあってきた2人。アマ時代「世界一の景色」を聞いたとき「達成できたら次の目標がくるから何も変わることはない」と答えた金谷。「それは僕も感じました」 データに基づいて練習することが大事です 中島の現在のコーチといえば、ナショナルチームのヘッドコーチ、ガレス・ジョーンズ氏だ。「ジョーンズさんは、技術だけではなく、アスリートとしての気持ちの持ち方なども指導された。ヘッドコーチでありながらチームメイトです」「ゴルフでは事前の“準備”が一番大切」というジョーンズ氏。試合のラウンドの出来は、コースの下調べに基づいたゲームプランをいかに忠実に実行できるかにかかっているという。昨年末、中島に話を聞いたとき「大事なのは準備、準備、準備です」と繰り返していた。ジョーンズ氏の教えが徹底しており、信頼関係がうかがえる。試合の準備だけでなく、トレーニングも、栄養・自己管理もすべてが“準備”。コロナ禍となった昨年も、いつ試合があってもいいように準備していたという。これもジョーンズ氏の教えだ。スウィングづくりにおいて、「細かいことは自分でやりたい。球筋からスウィングをつくるタイプなので、こういう球が出たらこうすれば直るというのがわかっています。動画を毎回、正面と後方を撮ってチェックします」という中島。そして今は、リモートでもミーティングができる時代。週1度くらいはジョーンズ氏と連絡をとり、スウィングや課題の確認をする。「携帯をつないで動画を見せたりして、Zoomでレッスンするような感じです。最近は、腰に負担がかかるスウィングになっているので、それを改善していくようチェックしました」 持ち球はフェード。300Y級の飛距離と切れのあるアイアンショットも持ち味。他人のスウィングはあまり参考にしない。「僕の型にはまっていきたい」 結果にこだわるよりは、結果を出すための準備が大切。だから、練習は質よく。ショートゲーム中心に、「ディーププラクティス」=深い練習もテーマだ。「集中して短時間でグッとやるのは自分にすごく合うんです。試合期間中は100球も打ちませんが、会場にいって、他の選手が練習をしているのに僕が先に上がるのがすごく嫌で、やりすぎちゃうこともある。そこは頑張って自分のことに集中したい。でも、パットなんかは誰よりも残ってやっていたいんですよ」学ぶことが好きな中島。大学でも栄養学や心理学などを学べる環境にあることが嬉しかった。「大学は去年で全部終わりましたが、JGAの合宿でも授業5回分くらいの内容の濃い講習があります。それにもし、メンタル面で困ったことがあっても、大学の監督やJGAの皆さんが助けてくれます」周りの意見を大事にできることも中島の強さかもしれない。 データは「客観的な事実」だというジョーンズ氏。準備のため練習ラウンドではコースやグリーンのデータも徹底チェックする 「準備、自分と向き合う自信と自覚を持つ」 中島はクールでカッコよく見える。そういう意見があると伝えると少し照れながら「嬉しいです」。高校の頃から表情を出さないように意識しているのだという。“鬼”と言われ賞金王を2回とったキム・キョンテに憧れてもいた。「あのサングラスをして、何を考えているかわからない。ポーカーフェースで強い。一緒に回っている人は怖いというか、相手のほうが意識するから、アドバンテージがあるかなと思ったんです」冷静に話しながら、さりげなく面白いことを入れようとする素の中島は、姉が2人いるからか“末っ子キャラ”でもある。「僕は本当に自由でした。ゴルフをしたいときは思い切りやって、したくないときはしなかった。ただ、楽しくやるだけ。スコアで怒られたことは一切ないです。でも、うちの家族、優勝した時は、冷めてましたねえ(笑)」今後、取り組む課題はいろいろある。50~60Yの精度、パッティング……。「何より今は、準備はもちろん、自分と向き合うこと、自信を持つ、自覚を持つ、この4つがテーマです」と言う中島。 50~60Yを磨くスライスラインを克服するウェッジは音をしっかり感じながら打つ。トレーニングで握力が上がり微妙な距離を強く打ってしまいがち。でも技術を磨けば調整できると考える/スライスラインを外側に外しているときは状態が悪くない。「元々スライスラインが苦手。克服できたらパッティングは変わると思います」 そして、体づくりは綿密に。ここぞという試合で、ケガや病気になった苦い経験があるからこそ人一倍勉強して気をつける。携帯電話に体重・体脂肪率・体組成などを日々記録もしている。「ケガで試合に出られないということが多いので、そこは課題です。でも、その出られないことで学べることや成長できることもあるので、しっかりやっていきます」以前は感覚派を自認していたが、データを取り入れるからこそ、成長はあると考えている。「7㎏ほど増えて体脂肪率は減り筋量は増えました。大学入学前は、下半身しか強化していなかった。今は上半身もトレーニングする。確かにこれで小技のイメージに繊細さがなくなった。左は20だった握力が両方50になり、ラフからも負けないように打てるようにはなったけど……でも、これでも大丈夫なように頑張ります」変化を恐れると成長はない。「トレーニング文化が日体大ゴルフ部にも根づいてきていますし、パナソニックオープンで僕のキャディをしたのは1年生ですが、トレーニングについてはもちろん、プレー中のマネジメントも話しながらやるので、どんどん知識が広がってくれたらなと思います」さりげなくリーダーシップをとれるのも中島の魅力だ。「僕は下を見ている余裕はないので、自分がしっかりやるべきことをやって、それを目標としてくれる選手がいたら嬉しいです。僕は基本的に上を見ながらやって、横にナショナルチームと大学のチームを気にしながら、下は自然についてきてくれる、それが理想です」 「先輩方を受け継いで、アジアアマで優勝してマスターズに出たい」 目下の目標、アジアパシフィックアマチュア選手権(ドバイ、クリーク・ゴルフ&ヨットC)は、11月3日から始まる。「コースは初めて。でも、他の選手もあまり行ったことがない国だと思うので皆フラットな状態。試合前と試合期間中に、いかにいい準備をできたかが勝負を分けるという感じだと思います」すぐにプロ転向するつもりはまったくない。中島には、世界でもっとも活躍したアマチュアに送られる「マーク・マコーマックメダル」の権利で、来年の全米オープンと全英オープンの出場権もあるのだ。「楽しみです。それに、大学の名前をお借りしているので来年の11月の大学の試合まではアマチュアでいたい。でも本当に、目先の試合に集中すること。世界一になっても優勝しても実感もないですが、次の目標がくるので、自覚はきちんと持たなければ。ランク1位やツアー優勝をしたことの自覚です。それを自信にして次の試合に行きたい。でも、マスターズが叶ったら来年はすごい大きな1年になると思う。憧れですから」オーガスタで感動して泣く中島啓太の姿を見てみたい。 冷静かつ自分と向き合う中島だが、ふとしたときのお茶目な面も……「アジアアマは松山さんも金谷さんも優勝されてますし、ゴルフ人生においてすごくいい経験になると思うので、優勝してマスターズに出ることをしっかり受け継いでいきたいです」 週刊ゴルフダイジェスト2021年11月16日号より こちらもチェック!