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松山英樹のスウィングに「完成はない」世界一の練習の“中身”と“意味”に迫る

日本でもアメリカでも、あるいはイギリスでも、ラウンド中でなければ松山英樹は大抵、練習場にいる。アジア人として初めてマスターズを制し、世界ランク1位にもっとも近い日本人プレーヤーであるにもかかわらず、誰よりも練習するのはなぜか? その練習で、松山は何を目指すのか? 松山と親交が深い、内藤雄士コーチが「世界一の練習」の中身と“意味”を解説してくれた。

TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、KJR THANKS/ハイランドセンター

トーリーパインズGCで日没近くまで練習する松山

内藤雄士

丸山茂樹をはじめ、多くのトッププレーヤーの優勝をサポートしてきたプロコーチの第一人者。現在は若手の大西魁斗のコーチも務める

地道な練習をコツコツと
やってきたから今がある

アマチュアのスウィングには「課題」がたくさんあるから、練習場でやることはいくらでもある。でも、松山英樹はどうなのか? プロの目で見ても、ほぼ「完成形」に近いといわれる彼のスウィングの、どこに改善点があるのだろうか。

「松山君のすごいところは、いつでも自分のウィークポイントを探していること。しかも、弱点をちゃんと見つけ出して、その改善に向かって努力するから練習の『質』が高いんです」と、内藤雄士はいう。目先の試合結果よりも、自分自身が理想とするスウィングを長期的視野に立って追い求めているということか。

「松山君の姿は、ベン・ホーガンと重なる感じがします。ホーガンは、あれだけの勝ち星を重ねながら、勝つことよりも理想のスウィングを作り上げることに執着した人物。松山君も、気持ちは同じなんじゃないかと思います。じゃあそのスウィングはいつか完成するのかというと、おそらく死ぬまで完成しない。松山君の中で、常に足りないパズルのピースがあって、そのひとつをはめるために膨大な量の練習をこなす。ひとつがはまったら、また次のピースというふうに努力を重ねてきて、今があるという感じ。その濃密すぎる作業をこれからも続けていくんだと思うと、世界ナンバーワンを目指す道のりの険しさにゾッとします」(内藤)。


松山はプロ入り後、コーチをつけずに自分ひとりで「理想のスウィング」を追求してきた。スウィングに対する深い理解と探求心がなければ、到底続けられない壮大な実験・研究の日々。現在は目澤秀憲コーチとの二人三脚で同じ作業を続けている

実際、松山が内藤にスウィングの話をするときは、「できていること」が話題になることはなく、「ここがよくない」とか、「(別の動きをしようと思っているのに)こうなっちゃう」ということばかり話すという。信じられないことだが、松山の内的感覚としては、我々アマチュアと同じく、「自分はまだ上手くない」と思っているのではないか。

「驚いたのは、あるひとつの課題に対して、『2年間、取り組んでいる』という話を聞いたときです。どんなプロだって、新しい課題に取り組んで、1カ月やって上手くいかなかったら、『自分には合っていない』と判断して、別のやり方を探すのが普通です。ところが、松山君はできるまでやり続ける。2年も続けるというのは、ちょっと聞いたことがないです」と、内藤が明かす。

現在の松山英樹は、気の遠くなるような努力の積み重ねでできている。と同時に、今、この瞬間もその「ゴルフ細胞」が入れ替わり、昨日よりも少し強い、松山英樹に生まれ変わり続けているのだ。

「ジャック・ニクラスが、70歳を超えてもまだ『毎日上達している』と言っていますが、松山君もマスターズに勝って終わる選手じゃないってことだけは確かですね」(内藤)。

ティーオフの4時間前から
試合は始まっている

試合当日、松山の1日はスタート時間の4時間前起床から始まる。「なんだ、そのくらいなら自分も同じだ」と思った人は、起床後のタイムテーブルを見てほしい。起きてすぐのランニングから始まり、食事と移動時間以外は、スタートまでとにかく「ずっと」練習している。

「キャディの早藤(将太)君が朝のランニングに付き合うと、ついていけないくらいのペースで走るらしいんです。そうやって全身に血を巡らせて、頭と体を起こす。タイガー(ウッズ)も長年続けてきたやり方です」と、内藤。

コース入りしたら、パッティンググリーンを経由して、ドライビングレンジへ。ただし、ここで打つ球数はおよそ60球とあまり多くない。

「とくにドライバーの球数がたった5球と少ないのが、アマチュアには参考になる点です。これは、短いクラブの完成度が高ければ、ドライバーも問題なく打てることを熟知しているから。アマチュアが、不安なドライバーをたくさん打って、それでスウィングを崩しちゃうのとは対照的です」(内藤)

【松山英樹の1日(試合の日)】
4:00 起床
4:10 体のケア
4:30 ランニング&トレーニング
6:00 朝食
6:30 コース入り
6:35 パッティング練習
7:00 打撃練習
7:35 アプローチ練習
7:45 パッティング練習
8:00 ティーオフ
13:00 ホールアウト
13:30 打撃練習
15:30 アプローチ練習
16:00 パッティング練習
17:00 帰宅

Q.ラウンド前の練習はどんなことしているの?
A.スタートのぎりぎりまでその日の調子をチェック

スタート前にボールを打つのは、あくまでもその日の調子、球筋を見極めるため。感覚だけに頼らず、動画でもチェックして、スウィング全体のバランスやリズムが崩れていないかを確認することで、平常心でスタートできる

Q.ラウンド後の練習はどんなことしているの?
A.弾道計測器でデータをチェックしながら練習

ラウンド後の練習では、その日のコースでの反省を踏まえ、悪かった部分の「原因」を探り、必要なら修正する。その際、頼りになるのが「トラックマン」などの弾道計測器。自分の感覚と、実際のスウィングの「ズレ」を確認できる

松山英樹 3つのの鉄板メニュー

松山の「片手打ち」は、もはや練習場の風景の一部。

「松山君は、右手のほうが『当たっちゃうから難しい』と言っています。右手は器用な分、手打ちでも打ててしまうと。だから必ず、左手で右胸や右ひじを押さえてやっていますよね。つまり、練習の最初に『片手打ち』をやるのは、体で打つことを確認するためということです」と、内藤。

また以前から、軟らかめのカーボンシャフトが入った7番アイアンでボールを打つ姿をよく見かける。

「軟らかいシャフトは力むと暴れるので、自然とグリッププレッシャーをゆるめて、クラブをプレーンに乗せる振り方になります。とくに朝の練習で軟らかいシャフトは有効で、アマチュアも真似する価値があります」(内藤)。

松山の鉄板メニュー1 片手打ち

【効果】体の回転で打つ感覚を染み込ませる

左右とも、手を使わずに体の回転で打つという点は同じ。わきを軽く締めて腕と体の一体感をキープしつつ、胸の面の向きが変わるように、上体をしっかり回転させて打つ

松山の鉄板メニュー2 軟らかシャフト

【効果】プレーンが安定しリズムが生まれる

グリップに力が入ると、腕、肩も硬直し、切り返しで右肩がかぶりやすい。軟らかいシャフトは力んで、クラブが上から入るとまったく当たらないので、自然にオンプレーンに振れる

松山の鉄板メニュー3 両わき締め打ち

【効果】腕と体の運動量が一致する

テークバックでボールが落ちるのは、腕に対して体の回転量が不足している。切り返しでボールが落ちる場合は、右わきのゆるみが原因。腕と体が同じ量だけ動けば、ボールは落ちない

週刊ゴルフダイジェスト2021年12月21日号より

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