稲見萌寧は“ショートコース”で強くなった! 「砲台グリーンも薄芝もぜんぜん怖くありません」
PHOTO/Yasuo Masuda、Tadashi Anezaki、KJR
東京五輪の銀メダルに続き、先日のニトリレディスで優勝するなど、勢いが衰えない稲見萌寧。そんな稲見の強さの秘密は、小さい頃から腕を磨いてきたショートコースにあった。
稲見萌寧
1999年7月29日生まれ、東京都豊島区出身。都築電気所属。日本ウェルネススポーツ大学在学中。18年プロテストに合格し、19年のセンチュリー21レディスでツアー初優勝。ツアー通算8勝
「砲台グリーンも薄芝も
ぜんぜん怖くないんです」
東京五輪で銀メダルを獲得した稲見萌寧が、先日開催された女子ツアー「ニトリレディス」で逆転優勝、今季7勝目を飾った。ツアー開幕前にインタビューしたとき、稲見はこう語っていた。
「北谷津(ショートコース)で育ったので、ペタペタの薄い芝とか、小さいグリーンや砲台グリーンなんかもぜんぜん怖くないんです。小学生のときからずっとショートコースで練習してきたので、アイアンは得意ですね」
1999年生まれの22歳。東京・池袋で生まれた稲見は、10歳でゴルフを始めた。
「父と一緒にゴルフを始めたのですが、最初から空振りとかなくて、ボールに当たるし、ちゃんと真っすぐ飛んでいたんです。それで1カ月後にはプロを目指そうと決めていました」
東京ではゴルフ環境がよくなかったため、小学6年生のとき、父親と2人で千葉に引っ越した。そして練習場として選んだのがショートコースのある「北谷津ゴルフガーデン」だった。いち早くジュニア育成に取り組み始めていた北谷津ゴルフガーデンは、小学生だった稲見にとっても最高の環境。学校から帰宅すると、15時すぎには北谷津に来てショートコースをグルグル回るのが日課だったという。
5月以来の優勝となったニトリレディスは、女子ツアーでもトップクラスの難度を誇る小樽CC(北海道)が舞台。そんな難コースで稲見はパーオン率89%(4日間平均)を達成。しかも最終日は、18ホール中17ホールでパーオンに成功。そんな彼女のアイアンの上手さは、ショートコースで培ったものなのだ。
ショートコースでは物足りない、上達するには本コースでラウンドしたほうがいい、と思うアマチュアも多いかもしれない。だが、グリーンを狙うショットはアイアンかウェッジというケースが大半。上達のためには、ショートコースを活用するのが実は近道なのかも?
ショートコースで培った稲見萌寧3つの強さ
1. 卓越した距離感
北谷津のショートコースは18ホールあり、最長127Y、最短55Y。100Y以内の距離感が磨かれたのは言うまでもない。稲見の「絶対距離感」はショートコースでの練習の賜物なのだ
2. アプローチのバリエーション
ショートコースはグリーンが小さく、砲台タイプも多い。そのためグリーンを外すと難しいアプローチが残る。左足上がりやつま先下がりなど、アプローチの引き出しの多さも稲見の強さのひとつだ
3. ライへの対応力
1年中、北谷津のショートコースを回っていた稲見は「ほぼ土みたいなベアグランドもぜんぜん気にせず打てます」と語る。さまざまなライで打っている経験こそが、ライへの対応で生かされる
北谷津GCの所属プロに聞いた
スコアメイクのカギはすべて
ショートコースに詰まっている!
解説/篠崎紀夫
北谷津ゴルフガーデン所属。ショートコースで腕を磨き、4年でプロテストに合格。07年ANAオープンで初優勝。19年からシニアツアーに参戦し、ツアー2勝を挙げている
研修生として北谷津ゴルフガーデンに入社した篠崎紀夫プロは、ショートコースで腕を磨き、4年でプロテストに合格している。そんな篠崎プロに「ショートコースで本当に上手くなれるの?」と聞いてみた。
「間違いなく上手くなりますよ。ショートコースは、ほぼフルショットができません。中途半端な距離でグリーンを狙いますから、必然的にコントロールショットが身につきます。それに思った以上にグリーンが小さいです。西コースのグリーンは2グリーンなので、本コースの1/4程度の大きさしかありません。ほとんどのゴルファーはワンオンできないはずです。そうなるとアプローチで寄せることになりますが、砲台グリーンやピンが近いなど、難しいアプローチが求められます。そのため、寄せの技も自然と磨かれます。傾斜の手前でワンクッションさせたり、フワッと高く上げたりなど、アプローチのバリエーションは確実に増えると思います。
それに天然芝で打てるのは大きいでしょう。練習場のマットではミスがわかりづらいですが、芝で打てば、結果はすぐわかります。芝で打つことで、ラウンドに必要な実戦力も上がっていきます」
スコアメイクに不可欠な距離感、ショット力、アプローチのバリエーション、そしてコースマネジメントなど、ショートコースならすべてが学べるのだ。
もうひとつ大きなメリットがある、と篠崎プロは教えてくれた。
「北谷津は最長でも127Yですから、ほとんどのホールでウェッジを使用することになります。ウェッジはバッグのなかでいちばん重いクラブです。その重いクラブでコントロールショットができれば、軽いクラブの扱い方がよくなるんです。重いクラブでゆっくり振ったり、振り幅を調整したり、カットに打ったり、低く打ち出したりといった技術をマスターすれば、それより軽いクラブ(アイアンやウッド)の操作は簡単です」
練習場で球を打つより、天然芝からピンを狙うほうが実戦力は身につくし、技術レベルも飛躍的に上がる。ショートコースを侮ってはいけないのだ。
距離感やアプローチが自然に身につく
【上手くなる理由1】
中途半端な距離ばかり
北谷津のショートコースはすべてパー3。その距離も56Y、93Y、74Y、69Y、107Yなど、中途半端な距離ばかり。どのくらいの振り幅や力感で打てばグリーンに乗るのか? その感覚がゴルファーの距離感を作ってくれる
【上手くなる理由2】
重いウェッジを多用する
コントロールショットが苦手な人は、クラブをゆっくり振れない、振り幅を調整できないことが原因。クラブのなかで最も重いウェッジのコントロールができれば、他のクラブの扱い方も必然的に上手くなる
【上手くなる理由3】
アプローチの機会が多い
ショートコースは基本的にグリーンが小さい。「北谷津はグリーンが硬く締まっているのでボールが止められず、外すことのほうが多いはずです。だから自然とアプローチのバリエーションが増えるんです」(篠崎)
【上手くなる理由4】
実戦力が上がる
本コースと同じ芝から打てるのは、技術的にもマネジメント的にもいいことばかり。ラウンドの実戦力はコースでしか身につかない、と篠崎プロは断言する
「横尾要や池田勇太、市原弘大も
みんな北谷津で育ったんです」(土屋社長)
続いて北谷津ゴルフガーデンの土屋大陸社長に話を聞いた。
「ウチのショートコースで育ったのは(稲見)萌寧だけではありません。横尾要、池田勇太、市原弘大、木下裕太、葭葉ルミなど、25人くらいのプロが巣立っていきました。私の自慢はオリンピアン(池田と稲見)が2人生まれたことですね。たくさんのジュニアが育ってくれたのは、千葉晃プロ(故人)の尽力なくして語れません。30年近く前からジュニア育成に取り組んでいた千葉プロによって指導体制や競技会などが整備され、プロを目指す子どもたちが集まってくれるようになりました。その意味では、萌寧は最後の世代に近いかもしれません。最近はゴルフ部が増えるなど、ジュニアの環境も変わりましたから。いま思うと歴代のプロのなかでもコースを回った回数、レンジで球を打った数は、ダントツで萌寧が多いです。ジュニアのときは営業終了まで必ず練習していましたし、本当に“練習の虫”でしたね」
ツアーの合間に練習で訪れる稲見は、今も変わらず練習の虫だ。
北谷津育ちのプロたち コース入り口には歩測できる看板
週刊ゴルフダイジェスト2021年9月21日号より
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