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【さとうの目】Vol.213 木下稜介「予想を上回る活躍。遼・松山世代のもうひとりの至宝」

PHOTO/Hiroyuki Okazawa

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は国内男子ツアーで2戦連続優勝を挙げ、全英オープンでも予選通過を果たした木下稜介。

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開幕前、「今年、初優勝するであろう選手」のひとりに挙げた木下稜介。6月のメジャー競技、ツアー選手権で初優勝を果たすと、ダンロップ・スリクソン福島オープンで連続優勝を成し遂げました。

「奥嶋さんがキャディじゃなかったら勝てていないと思います。距離も全部ボクが測って、キャディ業は微妙でしたけど(笑)」

福島の優勝インタビューで、こうして名前の出た「奥嶋さん」とは、東京五輪女子代表・稲見萌寧選手も指導する奥嶋誠昭コーチのこと。この言葉を聞いてボクは、改めてコーチの存在の大きさを思うと同時に、現役時代のボクと少しかぶる雰囲気を感じました。

ボクが木下くんのプレーをラウンドリポーターとして初めて見たのが18年のフジサンケイ。初の最終日最終組でした。いい球を打つなあと思いましたし、結果初優勝は叶わなかったものの、コメントが前向きな好青年という印象でした。

29歳での初優勝は、決して遅いほうではありませんが、(石川)遼くん、松山(英樹)くんと同学年。比べると遅咲きの印象は拭えません。いつか勝てる選手であることは当時から多くの関係者の評価でしたが、それが焦りや不安につながっても不思議ではありません。奥嶋コーチとの関係は2年前くらいからのようです。昨年のVISA太平洋マスターズでは初優勝の一歩手前で香妻陣一朗のミラクルイーグルの前に号泣しました。こんな試練も、コーチとの強い信頼関係で乗り越えた気がします。

信頼関係と口で言うのは簡単ですが、選手とコーチは微妙でデリケートな関係で成り立っています。半信半疑でもダメ、かといって100%依存してもダメなんです。ボクがヨーロッパで戦っていたとき、不安に襲われ2度も井上透コーチに無理を言ってイギリスまで来てもらったこともありました。このままでは、日本でも戦えなくなると感じ、欧州を撤退した経験があります。

この2年、木下くんと奥嶋コーチの間にもそうした時期があったのかもしれませんが、2人の発言などを聞いていると近すぎず遠すぎず、ほのぼのとしたいい関係を築いてきたようです。

今はSNSで手軽に動画がやりとりできる。これも選手とコーチのいい距離感になっているようです。とかく選手は“特効薬”をほしがるもの。一方コーチはそれを冷静に受け止めつつ、気長にいい方向に導くのが仕事です。奥嶋コーチのゆっくりした喋りには度量の深さが感じられます。これは一流コーチの必須条件ではないでしょうか。

木下くんのよいところはスウィングばかりではなく、脚光を浴びることが好きそうなところ。メディアに出ることにも、海外試合の参戦にも積極的です。先週の全英オープンにも早めに乗り込み、デシャンボーと練習ラウンドしたり楽しんでいる様子が伝わってきました。

木下くんにとって今年は、活躍元年になることは必至。これからやってくる日本男子ツアーの賞金王争いでも大いに脚光を浴びてさらに注目される選手になっていくでしょう。

「いいスウィングでいいドローボールを打つ。肩甲骨まわりが柔らかいのも要因でしょう。とくにドライバーの低いドローボールは素晴らしく、本場のリンクスコースでも通用するショットです」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年8月3日号より

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