Myゴルフダイジェスト

【インタビュー】横峯さくら<後編>「私には、まだまだ伸びしろがあると思っている」

プロ入り22年目を迎えた横峯さくら。ツアー通算23勝の実績とともに今も戦い続けている。QTランキング28位の資格で参戦するシーズンを前に、母としての喜び、ツアープロとしての苦悩、ゴルフや人生への思いを聞いた。

TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Shinji Osawa、Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki、Shizuka Minami

>>前編はこちら

オーバーワークに
なっている自分がいた

――環境が整ってゴルフが続けられるようになっても、実力がなければツアープロは続けられないと思いますが、その辺の取り組みはどうなのですか。

横峯 これまで私はプラスアルファで頑張ろうと思っていたんです、トレーニングでしっかり筋肉も付けて、1年間戦える体を作らないといけないって。もちろんそうだとは思うんですけど、でもそれが私のなかではオーバーワークになってしまうことが多くて。試合後の練習も上手くいかないから夕方までやって、その後も夜9時まで練習場に行くという生活がけっこうありました。昨年までは、そうやってプラス、プラスでやってきて、それで結果が出せているかというと、10年勝てていないわけだから、このやり方は自分には合っていないんだなということに気付いて。何か違うことをしないといけないのではと夫と話をして、その結果、私自身の体も含めて「ゼロに戻す」という方法を、このオフにやっているんです。

――具体的にはどういうことをするのですか。

横峯 ウワーッという強いトレーニングではなく、背骨を1個ずつ動かすとか、使えていない筋肉を使えるようにしようとか、そういった地味なトレーニングをやっています。

――スウィング的には。

横峯 私自身が気持ちよく振っていくなかで、動いていない部分を意識して使えるようにする感じです。昨年までは、動きができていなくても小手先でなんとかしていました。今は動いていない筋肉や大きな筋肉を使って、自分が気持ちよくスウィングできるようにしようとしています。

小手先で振らないことが必要だという横峯。「気持ちよく振っていくなかで、動いていない筋肉や大きな筋肉を使うんです」


――同年代の藤田さいきさんは長年シードを保持していますが、飛距離で負けないことがベテランが生き残る一つの条件になりますか。

横峯 ほんと、そうだと思います。私自身の飛距離は240~250ヤードくらいで、多分、今でも女子プロのなかでは中の上くらいだと思っているんです。実は昨年まではバラつきがすごくあり計測不能な場合も多かったので、実際はわからないですけど(笑)。(2024年ドライビングディスタンス243.8ヤード/31位)

――ショットの安定性もゼロに戻す取り組みで身に付けていくわけですか。

横峯 そうです。

――一方で飛ばすことのポテンシャルは元々あるわけですね。

横峯 どうなんですかね。出産後1カ月でクラブを振って、ドライバーのキャリーが180ヤードしか行かなかったんですね。そこである意味一度ゼロに戻ったわけですけど、でも今はキャリーで230ヤードくらいなので、“使い方”がわかればポテンシャルはあるのかなと思います(笑)。

――スウィングは以前とは変わっているんですか。

横峯 昔はトップが高くてオーバースウィングだったんですけど、アメリカツアーに行ってからは年々、トップが浅くなってきて。今はちょっとオーバースウィングだね、というくらいになってきています。

――以前は「超オーバースウィングの遠心力で飛ばしてる」と言っていましたが、今はどういう“使い方”で飛ばしているのですか。

横峯 いかに芯でとらえるか、ミート率ですね。そのためには、先ほど言ったように小手先で振らないということが大事で、そのためにもゼロに戻す取り組みが必要だと思っています。

横峯の代名詞「オーバースウィング」が年々小さくなってきているという。「いかに芯でとらえるか、ミート率が大事ですね」

――優勝ができなくなったこの10年とそれ以前と、女子ツアーは何が違っていると思いますか。

横峯 昔はパーを重ねていってやっとバーディがくるという感じだったんですけど、今は18ホールを通してバーディを狙っていくゴルフになっている感じがします。今は情報量も多いじゃないですか。だから自分に合うクラブやスウィング、それに効果的なトレーニングの仕方のトライ&エラーが早く簡単にしやすくなり、自分に合ったスウィングや練習方法なんかが見つかりやすくなったと思います。回り道をしなくていいぶん、上達も早いから、今の若い子たちはホント上手いです。

――そういう若手とツアーで争うことになる。恩返しに優勝することがモチベーションだとおっしゃいましたが、厳しい目標ではないですか。

横峯 ゼロに戻すということをやったことによって、本当にオフシーズンをよい状態で過ごすことができていて。1月のラウンドでは5年ぶりくらいに6アンダー、7アンダーと2日間連続でビッグスコアが出たんです。本当に変わってきているなということは感じているので、その先に優勝があるのかなと思っています。私自身、自分に期待できる、昨年までとは全然違うなと思っています。

まだまだ伸びしろがある

――いよいよ開幕ですが、どのようなシーズンにしたいですか。

横峯 昨年のオフから、「ゆっくり焦らずに」というテーマでやってきて、それが「ゼロに戻す」ということでもあるので、シーズンに入っても同様にやっていこうと思います。

――今までは、どんな焦りがあったのですか。

横峯 やっぱりここ10年くらい勝てていないから。もちろん“優勝”の前に“優勝争い”だと思いますし、シード権を取ることもですけど、そういうステップも全然踏めていないという、その焦りです。また、一昨年はずっとウェイティング、ウェイティングでしたし、昨年はふたを開けてみればダイキン以外の前半戦は全部出られたんですけれど、ウェイティングで1、2番目だった試合も多くて。でも今年に関しては、昨年QTを通って、前半の16試合に出られることが決定しているので、予定なんかも組みやすい。その意味でも焦らずに、よい状態で臨みたいと思っていますね。

――横峯さんがそういうキツイ思いをしながらもツアーに出続けている。その一方で、同じく同年代のスター選手だった宮里藍さんや上田桃子さんは一線を退くことを表明してツアーから撤退。人気女子プロゴルファーの“引退宣言”。気持ちはわかりますか。

横峯 う~ん。たとえば、すごく応援しているアーティストの方が、「今日でやめます」と突然いなくなるより、1年前に「引退します」と言ってもらったほうがファンの方たちにとっては心の準備ができますよね。プロゴルファーの場合なら、「(最後に)この週には応援に行こう」などということができるのかなとは思います。

――2人のようなトップのツアープロがツアーを撤退するのは、限界を感じたり、ある程度やることはやったという気持ちもあったかと思います。横峯さんはどうですか。

横峯 いえ、私はまだいっぱい伸びしろがあると思っているので。

――まだまだ上手くなると。

横峯 はい。思っています。欠点だらけなので(笑)。

――ご自身は、どういう引退のイメージをお持ちなんですか?

横峯 私自身、モチベーションがなくなったら、そこでもう潮時かなって思っています。あと、家族が不幸せになっているなあ、と感じたりすると、少し考えてしまうかもしれないですね。先ほど言ったように、20代の頃はゴルフが好きではありませんでした。ゴルフとプライベートの幸せとがつながっていなかったというのがあったから。今は、つながっているからゴルフを続けていますし、モチベーションも高いです。

いろいろな活動を行うことでつながれる。知人の協力で、味はもちろん、集中力アップも期待できるオリジナルルコーヒーも作った

――最後に、今、ゴルフの何が好きですか?

横峯 何が好きって言われるとなかなか難しいですね。正直言って、この10年間は勝てなくて、苦しいと感じるほうが多いので。

――好きなんだけど、苦しい。

横峯 はい。だから伸びしろがあると思えるんですよ。だって、苦しくもなく、ただ大好き、という状況だと、伸びしろがあるなんて思わないじゃないですか。

   *  *  *

自分はやることはやった。もうこれ以上、伸びる望みはないと感じることを「絶望」という。「私にはまだいっぱい伸びしろがある」と希望を口にした横峯は、まだツアープロを続けていくだろう。横峯さくらの22シーズン目のツアーがまもなく開幕する。

所属のエプソンはじめ、多くのスポンサーが支えてくれる。「こんな成績の私のために。でも、本当にありがたいですし、頑張ろうというモチベーションもいただけます」。クラブは「マスダゴルフ」を使用。昨年、仲間の女子プロに借りて「すごくよかった」と使い始めた。座右の銘は「継続は力なり」。それを体現してきた横峯だからこそ、皆応援したくなるのだろう

週刊ゴルフダイジェスト2025年3月11日号より