スコアを乱す“景色の罠”<後編>視覚的な情報によって起こりやすいエラーとその対処法

構えたときに目に飛び込んでくるコースの景色はアドレスやスウィングに大きな影響を及ぼし、さまざまなミスの原因になり得る。気付かないうちに忍び寄る「景色の罠」を克服しよう!
TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Getty Images ILLUST/Shinichi Hoshi THANKS/ロイヤルCC


解説/小野寺誠
おのでら・まこと。1970年生まれ。96年プロ入り。プレーヤーとして自身年間250ラウンドし、コーチとしてもラウンドレッスンによる指導が得意な“実戦派”
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視覚に引っ張られて
構えがズレる
視覚に起因するミスは、「バンカー越え」のように単純なプレッシャーによるものもあるが、それ以外では構えにゆがみが生じてスウィングに悪影響を及ぼすケースがとても深刻だと小野寺プロは言う。これは打ち上げ・打ち下ろしが典型だが、実は左右方向に生じたゆがみも上下方向とほぼ同じエラーを引き起こすという。
「たとえば左方向にOBやハザードがあると、無意識に上体の向きがスタンスとズレて右を向きやすいのですが、これは打ち上げで目線が上がって構えが右下がりになる場合と出るエラーは一緒なんです。スウィングがインサイドから来すぎたりあおり打ちになるなどして、最下点がボールの手前になり、スウィングがボールに届きにくくなります。その結果、プッシュアウトやダフリ、チョロなどのミスが出やすいんです」
同様に、右を嫌がって上体が左を向くのは、打ち下ろしで起こるエラーと一緒。打ち込みすぎたり左に引っ張り込む動きが生じ、引っかけやドスライス、テンプラなどが出る。
視覚的な影響は細かく見ていくととても複雑だが、おおまかには上・右方向を向きやすいケースと、下・左方向を向きやすいケースに分け、どっちに偏りやすい状況なのかを意識することが解決の第一歩だ。
「このほかでは、奥ピンの大ショート、手前ピンのショート>>オーバー、バンカー越えの大ダフリのようなケースは、見えてしまったもののせいで迷いが生じてミスになるパターン。『奥まで突っ込みたいけどオーバーはイヤ』『なんとかピン手前に止めたい』『越えるはずだけど心配』等々。これはほとんどの場合、『気になること』に無自覚なせいで、『やるべきこと』の障害となっていることに気付けないままミスをします。自分が何を見ているか、何を気にしているかに自覚的になることが重要です」
「上」や「右」に意識がいくと……

エラー①あおり打ちになりやすい
目線が上がって構えが左上がりになるときは、目線が右に引っ張られて上体が右を向くときと同じエラーが出やすい(写真下)。スウィングプレーンが右を向き、最下点が手前にきてプッシュアウトやダフリ、トップなどが出やすい


エラー②上体が右を向きやすい
打ち上げのホールや障害物越えで球を上げたいという意識が働くとき、足元は正しい方向を向けているのに目線が右に引っ張られることで腰から上が右に向きやすい。結果構えがズレる
「下」や「左」に意識がいくと……

エラー①突っ込んだり引っかけたりしやすい
目線が下がって構えが左下がりになるときは、目線が左に引っ張られて上体が左を向くときと同じエラーが出やすい(写真下)。スウィングプレーンが左を向き、引っかけやテンプラなどのミスが出る


エラー②上体が左を向きやすい
打ち下ろしのホールで着弾点に目が行き目線が下がったときや、球の高さを抑えたいとき、右に見える危険ゾーンを避けようとすると、足元の向きよりも腰から上が左に向きやすく、構えがズレる
エラーを防ぐ
「素振り」の工夫
視覚のせいでエラーが起こることはわかったが、「見なかったことにはできない」のに、ミスを防ぐ手立てはあるのだろうか。
「まずはいまの状況から何が起きやすいかを事前に想定して、体の向きや体重配分などに注意し、景色に引っ張られないように正しく構えることが最重要です。構えに関しては静的なものなので、ルーティンやチェックポイントを徹底することでエラーは防ぎやすいと思います。それでも実際にスウィングする際には、動き自体が視覚情報に反応しやすいのは確かなので、『やるべきこと』を事前にきちんと決め、そこに集中して実行する以外にありません。これには左足1本で立つ振り切ったフィニッシュの形を意識するのが一番有効だと思います。あとは素振りでよい動きを一度体に覚え込ませてからショットに臨むようにするのもおすすめですね」
「上」「右」のエラーを防ぐには…
地面コスリ素振り

右足前から左足前くらいまで、ヘッドで地面をコスりながら動かし、そこからフィニッシュまで振り切る素振りをすると、あおる動きや右へ逃がす動きを消せる
「下」「左」のエラーを防ぐには…
右手パー素振り

右手のひらをパーにしてグリップに下から添えたまま素振り。右手が常に左手よりも下にある状態を保ったまま素振りをすることで、上、外からの動きを防げる
「上」「右」のエラー防止や「下」「左」のエラー防止など個別の状況にはそれぞれ対処法があるので代表的なケースを紹介してもらったが、最終的にはこういった努力の積み重ねで「イヤな景色に負けずにナイススウィングできた」という成功体験を積み重ねることが必要。そのためにも視覚的な違和感に自覚的になり、打つ前に見逃さずに対策することを心掛けたい。
「ピン位置や池やバンカーなどのハザードの影響を受けそうなときは、どこに落ちてどう転がるかといった具体的な弾道の『過程』をイメージすることや、結果を点ではなくゾーンで考え、マージンを取って広めに設定するといいと思います。一番ダメなのは、番手を上げておいてゆるめるとか、スライス前提なのに左を嫌がるといった“多重保険”をかけることです」
視覚からくるミスを防ぐには…

打ち上げ・打ち下ろしは仮想の地面をイメージ
自分の足元とレベルな仮想の地面をイメージすることで、自分本来の弾道の高さを正しく想像しやすくなり、目線の高さもズレにくくなる。上げよう、抑えようという余計な動きも抑えやすいはずだ

“端ピン”対策は結果をゾーンで考える
奥ピンなら、グリーンセンターに落ちて転がる弾道をイメージすることで、そのために番手を上げて抑えめに振るといった感覚も生まれる。手前ピンにはピンの奥まで許容する広めのゾーンを想定して狙おう

ハザードが見えて力むなら正確な情報でクールダウン
手前の目立つバンカーなどは奥の壁までの距離を実測し、確実に越えるキャリーを打てる番手を持つことで不安を取り除く。あえてクラブを短めに持つと、ミート率が上がって大きなミスを防げる

スライスラインは「ここより外を通す」目印を決める
打ち出し方向のスパットだけではラインを厚くつくれずにアマラインに外しやすい。ボールとカップの中間地点、ブレーキングポイントよりも少し手前に目印をつくり「その外を通す」イメージがおすすめ
脳の構造的にも
体は視覚に反応しやすい

解説/西剛志
1975年生まれ。脳科学者で、工学博士、分子生物学者でもある。脳科学的な視点から企業や個人のパフォーマンスアップのサポートを行っている
脳科学者の西剛志先生も「見えてしまったものを意識から消すのはかなり難しい」と話す。また脳の視覚情報を処理する「視覚野」と、体を動かす指令を出す「体性感覚野」は部位的に距離が近いため、体は見えたものに反応してしまいやすいという。だからこそ、「気にしない」「見なかったことにする」のではなく、視覚に自覚的になり、意識的にコントロールすることが重要なのだ。

「気になるものは、避けようと思ってもよりそこに集中してしまう『認知バイアス』が起こりやすいうえ、脳の視覚野と体を動かす指令を出す体性感覚野が近いため、体は視覚に反応しやすい。見えているものに自覚的に、かつ客観的になることが大事です」
視覚的プレッシャーは「目」を使って軽減できる
西先生によれば、見えてしまったものに引っ張られすぎないために大事なのは、景色を客観的に見ることと、視覚のリセットとのこと。
前者は、1点を凝視せずに景色を広く見ることに加え、顔の前に置いた親指をぐるっと1周動かし、それを目だけで追う「ゾーン体操」が有効だという。また、「天橋立」のように自分の股の間から景色を見ると、視覚が反転されて脳がリセットされる。狙いたいところを指さし確認するのも、イヤな場所ではなく狙うべきところにフォーカスを切り替える効果があるそうなので、実際にコースで試してみよう。

天橋立作戦
イヤなものが気になったら、自分の股から景色を逆さに見ると視覚が反転され、脳がリセットされて客観視しやすい

指さし確認
狙いたいところを指さし確認することで、気になるイヤなところから狙いどころにフォーカスを切り替えられる

西先生考案「ゾーン体操」
顔の前に親指を置き、ぐるっと大きく1周動かす。それを目だけで指先を追うことでリラックスでき、緊張をほぐせる
月刊ゴルフダイジェスト2025年4月号より