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【ゴルフせんとや生まれけむ】山本博<前編>「アーチェリーとゴルフは似ている」

ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、メダリストの山本博氏。

日本体育大学に入学して2年目の1983年、体育の授業で履修したのがゴルフとの出合いでした。中1でアーチェリーを始めましたが、小学生時代には野球、体育大出身なので大学時代も多くのスポーツに触れました。なかでもゴルフは最初から新鮮で面白いなあと思いましたね。いっぺんで好きになりました。

アーチェリーとゴルフってすごく似ているんですよ。どちらも負荷の程度がそれほど高くないので練習時間がやたらに長い(笑)。アーチェリーでいえば、とにかくいい矢が射(う)ちたかったら感性を体に覚え込ませなくてはいけませんし、理論や理屈がわかってもそれをルーティンとしていかに再現性を高めるかという競技ですから、練習時間がすごく必要なんですよ。でも、練習をたくさんやったからといってうまくなるかというと決してそうではないんです。そこが非常に難しい。

アーチェリーで300本の矢を射ったとして、その300本を300通りではなくて、1通りで300本射てるようにならなきゃいけないんです。同じことを再現するには集中力がとても必要なんですよ。集中しないと、いい加減な矢を射ってしまう。でも、そんな矢を射つ人間は一生うまくならないです。それってゴルフも同じじゃないですか? 初めてクラブを握った時から、その人のなかに「一球一球を丁寧に打つ」という感覚のない人は絶対にうまくならないという点もアーチェリーとゴルフは似ているとずっと思っています。

もう一つ、ゴルフとアーチェリーの共通点は36と72という数字が関係しているということなんですよ。もちろん、パー71とか70のゴルフ場もありますけど、ハーフ36、1ラウンド72がパープレーなのが普通ですよね。アーチェリーも3本の矢を24エンド、72本射って勝負を競うのが基本で、どちらもイギリスが発祥のスポーツということも関係しているんじゃないですかね。きっとその昔、ゴルフをやっていたイギリス人はアーチェリーをやったことがあり、逆にアーチェリーをやっていた人がゴルフをやったことがあってルールを考える時に同じような発想があったんじゃないかなと僕は想像しているんですよ。

ただ、唯一ゴルフとアーチェリーで違いがあるとすれば、ゴルフには展開があるけど、アーチェリーにはないという点かな。ゴルフならドライバーがスライスして林に入っちゃったらセカンドはどうするとか、グリーンを狙ったショットがバンカーに入ったら次はどうするとか、計画にその都度変更が起こるじゃないですか。そもそもゴルフには状況に応じて使い分けるクラブが何本もあるのに対して、アーチェリーは常に同じ弓で同じ矢を射つ。つまり、アーチェリーは計画に変更が起きないんですよ。ですから、僕らアーチェリーの選手には競技中“展開”という考えはありません。もちろんアーチェリーでも風が吹いてきたら狙いを変えることはあります。でも、狙いを変えた矢を的から抜いてもう1回射つかというと刺さった矢はそれで終わり。1本1本完結なのがアーチェリーという競技であり、それがまた面白味でもあるんですよ。

>>後編につづく

山本 博

やまもとひろし。1962年、横浜市生まれ。中学1年生からアーチェリーを始め、84年のロサンゼルス五輪で銅メダルを獲得。その後20年を経て04年のアテネ五輪で銀メダルに輝き「中年の星」と呼ばれ話題に。現在、日本体育大学教授(医学博士)。ベストスコアは85

週刊ゴルフダイジェスト2025年4月22日号より