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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.839「風の影響をどのぐらい受けるのかは、経験を積む以外にありません」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

前回のお話はこちら


猛暑も去ってようやくゴルフシーズンが来ましたが自分は雨が苦手なので、朝起きて降っているとキャンセルしてしまいます。プロは天気を選べないですが、ゴルフで一番厄介なのはどんな気象条件ですか。(匿名希望・36歳・HC19・歴16年) 


ゴルフトーナメントは大概の雨が降っても中止にはなりません。

多少の雨風でもプレーするのがゴルファーの心得ではありますが、台風や集中豪雨で大会が短縮したり中止になることはあります。

日本国内はこれまで気象条件の変化はおおむね穏やかだと考えられてきたように思います。

でも、それは考え直したほうがいいのかもしれませんね。

今年は開幕から32試合を終えた時点で、荒天のため大会が短縮された試合がすでに6試合もありました。

昨シーズンは全38試合のうち6試合が短縮開催。

コロナ禍で変則的に統合された2020-21シーズンには、合計52試合のうち8試合が短縮され、それ以前の10年間を振り返ると東日本大震災が起きた2011年にその関連で4大会が中止になったことを除いて、悪条件のため開催が短縮されたのは9シーズン(全333試合)で16試合しかなかったようです。


ここ数年、短縮開催が異様に増えているわけです。

そこで私たちプロゴルファーがプレーするうえでもっとも厄介な条件は何かと問われれば、風にほかなりません。

風の強さや方向は至って気ままです。

自然そのものなのですから、風の対応には必ず運が付いて回ることにもなります。

アゲンスト、フォロー、サイドとあらゆる角度から好き勝手に吹いてきます。

フック風に対してスライス回転のボールで風と喧嘩させ真っすぐに飛ばそうとする打ち方もありますが、わたしはむしろ、風の力で流される度合いを計算して打っていく受け入れ派です。

喧嘩するよりは、友だちになろうと考えています(笑)。

また、アゲンストのときフェードボールなら10ヤードもショートするところがドローだと5ヤードで済むなどボール回転によって風に対する耐性が違うことも頭に入れておかなければいけません。

風を相手にするのには、正確な状況判断に加えて、自分のなかに蓄え培ってきた経験に基づいた対処法が必要になるわけです。

先月行われた「マスターズGCレディース」最終日の実況解説席に座っていたわたしは、風のいたずらをあらためて強く印象付けられました。

この日は朝から、コース上を冷たく強い風が縦横に吹き渡っていました。

スコアメイクに苦しむ選手が続出するなか、最終組のイ・ミニョン選手は後半14、15番の連続バーディで首位を走り、16番でドラマは起こりました。

ピンまで残り120ヤードの左からのアゲンストで、イ・ミニョン選手のセカンドは、風の対応を誤りグリーン左手前に。

エッジからカップまでは3ヤードと寄せるのは至難のワザの位置にあるアプローチで、ギリギリを狙ったがグリーンには届かずボールはまた元の場所へ。

ところが、次の4打目はグリーン端ギリギリに着地してボールはスルスルと転がりそのままカップイン。奇跡のチップインパーで乗り切りイ・ミニョン選手が優勝しました。わたしはこの勝負の行方に気ままな風の演出を感じました。

ゴルフ発祥といわれるスコットランドも風が強く、ゴルフと風はつきもののようにも語られることが多いようです。

昔は台湾出身の選手が風に強いとよくいわれました。

ただ、飛んで行く打球が風からどんな影響を受けるかは、実際にどうなったかを目で見て、体で感じる経験を積まないと分かりません。

どれだけ吹いていると100ヤード先で10ヤード、150ヤード先では15ヤード曲がる、あるいは伸びるかショートするか――自分なりのスケールを感覚の中に作っておく必要があります。

独自の体内飛距離計を構築するのと同じです。

ですから、雨が降ったらキャンセルしているようでは、いつまでたっても風と友だちにはなれないと思いますよ。

という私も、雨のゴルフは、ボールやクラブやグリップを拭いたり、傘を差したり、レインウェアを着たりとやることが満載なので、一番嫌いなのは雨ですけどね(笑)。

「突風はプロでも予測がつかないから“運”を味方にできる日頃の行いが大切かも(笑)」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2024年11月26日号より

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