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【ゴルフ野性塾】Vol.1788「左肘の位置を高くせよ」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

傘をさしても
出歩き難い

午後2時過ぎの雨だった。
降ったにしても一気の降り様だった。
6月16日、金曜日。午後2時30分。野性塾大濠公園の18名が集っているのは分っていた。
18名中15名は週に一度のコーヒー飲む時間、休んだ事のない男達だった。

私も約束は守る。決め事も守る。
ジュニア塾の7カ条の中に「約束は守れ。守れない約束はするな」との1カ条がある。
簡単、単純な1条なれど、塾生の練習に対する気持ちを一つにするには必要な約束事だった。
練習量を競い、練習の質を高め合い、試合への闘争心を競い、一打への勇気を持つには練習への気持ち、簡単、単純であればいい。
7カ条の中で一番単純な1条なれど守るに一番難しい約束事ではあった。
大人も守るは難しい。
ましてや小学4年生5年生の幼子が約束守るのは困難だ。
頭ではなく、体で理解して貰わなければルールとエチケット、マナーの混在するゴルフ競技は成立し得ぬものである。
頭の理解は誰でもが持つ。
しかし、体で理解するのは難しい。

人様の世の中、頭の中だけの理解し事、スムーズに運ぶのは3割迄。
残り7割の内、体の理解3割、そして残り4割は頭と体、合致の理解が要ると思う。
生き行けば人様への迷惑掛けるは必定。
なれど、体の理解あれば迷惑掛ける頻度、少なくて済む筈。
体の理解とは感性であり、無意識の善なる行為であり、愛と寛容と寛大の生む優しさと想う。
難しい事を書いたが、強き雨降る日、18名の前で語った事である。

左肘がツアー寿命の長さを決める。

野性塾「坂田信弘」7/11号

「坂田プロ、女子プロの現在の成績、どう思われますか? 私にはこの5年で一気の実力とツアーレベルの向上、生じている様に思えるのですが」
「間違いない。向上している。飛距離は出るし、曲らない球を打つ。男子プロのレベル、前年より5%向上しているとすれば女子プロの向上は20%だ。一発二発の向上力じゃない。14本全部のレベルの向上だ。特にティーショットとパッティングの向上が目立つ」
「スウィングですか、それとも体・技・心の体でしょうか?」
「今は体だ。もちろん、技も心も変化の途中なれど、体の向上が大きい。そして、その後に来るのが技と心の向上だ。そうなった時、毎年3人がアメリカツアーに新規参戦し、参戦中の6人と合せて9人のアメリカツアー参戦の大世帯となるだろう。ただ、そうなると毎年暮れ、9人の中の3人は日本に戻ると思う。9人全員がアメリカで成功する程、アメリカのレベルは低くはないからな。輪廻とツアーの新陳代謝だ。体・技・心は輪廻と新陳代謝を持つ。持たねば人は朽ちる。
5年前と較べた時、アドレスからフォロー迄のスウィングが変った。異常と思える程、良くなった。男子プロは全く追い付けない向上の早さだ。ただ、フィニッシュが悪い。怪我が怖い。フィニッシュ時、右肩、左肩、左肘のラインが一直線を理想とするし、その理想が怪我のない振りを生むが、フィニッシュ時の左肘の位置、低過ぎるスウィングが多い。これは指導者の勉強不足だ。男子と女子では筋力の強さ、骨膜の強さが違う。特に首筋、脇、背中、腰、そして足首迄の下半身の強さが異なる。低い左肘は己の眼で見る事の出来ぬ首筋と背中と腰を痛める原因を作る。だから前の年はいい成績残しても次の年、その他大勢の中に隠れてしまうのだ。背中と腰の怪我は怖い。見えないだけに確認するには他人の眼と医療器具を必要とするが、痛めてからでは遅い。フィニッシュ、左肘と左肩、右肩のラインを一直線にすれば怪我のないスウィング作れるのに勿体ない事だ」

「いつの間にか消えて行った女子プロって背中と腰の怪我が原因ですか?」
「そうだ。それでもフィニッシュ時の左肘位置を高くすればツアー最前線に戻って来る事は出来る。左肘の低さは己の眼で見る事の出来ぬ部位への負荷を強めるスウィングだ。その事実を知らぬ者は多い。どれ程のトレーニングしても男子と女子の体の作りは違う。長く戦いたければ男は男、女は女の認識、持つべきだと思う。逆Cの字のフィニッシュで長くツアー生活出来た者はいない。長く過せた者は左の肘の位置変えて行った者ばかりだ。特に男子プロは位置を変える事に躊躇せず、女子は臆病だったと思う。己を変えるに時を選ばずだ。左肘を両肩との一本ラインにすればいいのに何故と思う。一カ月あれば出来るのにな。ツアーから消えて行くのが早過ぎる」
「本能で打つからそうなるのでしょうか?」
「それもある。指摘されないから低い左肘で打ち続けたとゆう慣行もある。スウィングチェックする上で最優先とするはフィニッシュ時の左肘位置だが、アドレスからフォロー迄は美しく逞しく振れているのにフィニッシュの左肘の低さで総てがパーだ。美しさと調和の振りが一瞬で消えるのは見ていて辛いものだ」

「坂田プロはテレビ観戦されるのですか?」
「する。アメリカも日本も見る。ただ音は消す。画面だけありゃいいからな。解説もアナウンサーも騒さ過ぎる。5メートルを入れて叫ばれたんじゃ興醒めする。声が裏返りする様なアナウンス、ゴルフには必要ないと思う。静の中の動、動の中の静、静の中の興奮がゴルフの面白さだ。サッカーや野球、そしてプロレスと同じ解説し、一緒にしたんじゃゴルフが可哀想だと思わないか。私は可哀想だと思う」
「今日も鋭いご指摘ですネ。ゴルフ中継の有料化、どう思われますか?」
「反対だ。日本に合ってはいない。地上波をもっと大切にすべきと思う。今のままでは女子プロのゴルフ人気、今が頂点で終る。ゴルフ人気を高めたければ有料は駄目だ。それでもプレーする上に於て金の掛かるゲームだ。これ以上の金、求めちゃいかんと思う。テレビ観戦は無料。それでゴルフに興味のない人もゴルフに興味持ってくれるだろう。そこら辺りの認識、世間とズレている様な気はするぞ。日本はアメリカじゃない。日本は日本だ。そこを間違える組織は多い。人は間違えても組織が違えてはいかんのだ。その間違えない賢さ持つのが日本だと思っていたが、テレビの有料化は間違いだ」
「私も賛成です。NHKの衛星放送受信料でも世間は大騒ぎでしたのに、有料化すれば騒ぎますよネ」
「騒がない。無視するだけだ。無視される事がどれ程辛いか、男子プロも女子プロも考えるべきと思うぞ」

雨、強く降っていた。
それでも屋根があれば凌げた。
以下、次号。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年7月11日号より