通算113勝（海外1勝）の偉業を成し遂げているプロゴルファー尾崎将司。スケールの大きいゴルフと他を寄せ付けない圧倒的な強さから“ジャンボ”と呼ばれ、長年にわたり日本のゴルフシーンを牽引してきた。試合中は相手を睥睨し、萎縮させてしまうほどの強いオーラを放っていたジャンボの意外な一面を、長年ジャンボを取材してきたベテラン記者が明かす。

そして誰もいなくなった

広島オープンといえば最多優勝はもちろんジャンボ尾崎。広島CC八本松コース／西条コースで開催された試合で1976、78、84、89、90、94、95、98、99年と実に9回も優勝を果たしている。そのため、ジャンボ尾崎の姿を撮ろうと、練習日には関西地区や地元広島の報道陣が多く詰めかけた。ティーイングエリアで待ち構えて、スウィングの連続写真を撮るメディアが多かった。あるティーイングエリアでは、すでに大勢のカメラマンが待ち構えていて、ジャンボがアドレスしたとたん、シャッターの連続音が響きわたり、人数も多かったことからその音はビックリするほど大きかった。

「なんでいきなり撮るんだ!」とジャンボは激怒。すると、そこにいたカメラマンたちは一目散に逃げ出して、誰もいなくなってしまった。残されたのはジャンボと自分とキャディの佐野木さんの3人だけ。

「『撮ります』と、ひと言いえばいいものを、どうして言わないんだろう。撮るなとは言っていないのに」とジャンボは少し悲しそうな表情だった。フェアウェイを歩きながらジャンボは続けた。「人に何かを頼むとき、普通はひと言、声を掛けるもんだろう…… 。彼らには社会性がないんだよ、そう思わないか?」と嘆いた。自分が取材するときは「今日はこんな感じで撮ります」とスタート前に必ずジャンボにラフを見せていた。もっとも「いいよ」とか「わかった」という返事はなかったが、暗黙の了解はできていたと思う。

ティーショットのあと、3人でフェアウェイを歩いているとき、「最新のジャンボドライバーを見たい」と言ったら気軽に手渡してくれて、前モデルよりいかに優れているかを力説してくれた。

当時の最新ドライバー「J’s」。フェアウェイを歩きながらいかに優れているかを説明してくれた

川奈の1番グリーンで「100円貸してくれ」

ジャンボ尾崎が強さを発揮したトーナメントはいくつかあるが、なかでもフジサンケイクラシックが行われていた川奈ホテルGC富士コースとは相性がよく、1986、87、89、90、93年と5回も制覇している。93年大会ではツアー60勝目（通算79勝）となり、生涯獲得賞金は12億円を超えた。ある年のフジサンケイのプロアマ戦での1番ホール。グリーンオンさせたジャンボが自分のほうに歩いてきて小声で、「マーカー用に100円あるか?」と。コース内を歩くために荷物などはプレスルームにすべて置いてきていたが、偶然、ポケットに小銭が入っていて、100円硬貨を渡した。あれから幾年月、あのときの100円はそれなりに利子が付いているに違いない。

川奈ホテルGC富士コースで行われたフジサンケイクラシックを5回も制覇

文●吉川丈雄
年齢不詳でいまだに現役記者。ゴルフダイジェスト入社後、シンガポール、マレーシアをはじめ、フランス、モロッコ、英国、スイス、スウェーデン、イタリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、中国、台湾、アラブ首長国連邦、オーストラリア、ニューカレドニア、タイ、インドネシアなどのコース、トーナメントを取材。日本ゴルフコース設計者協会 名誉協力会員

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月23・30日合併号より

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