つぶら、ひのき、イガイガ…キャラの「名付け」はけっこう大変!【「オーイ! とんぼ」の舞台ウラ②】
週刊ゴルフダイジェスト連載中の人気コミック「オーイ! とんぼ」担当編集が、制作秘話やこぼれ話など「とんぼ」の裏側を大公開!
※多少のネタバレはご容赦ください。
ストーリーの面白さやゴルフ技術の奥深さ、キャラクターの人間性など、漫画「オーイ! とんぼ」の魅力は語り出したらキリがないが、なかでも担当編集が秀逸と感じるのが「ネーミングセンス」。
とんぼ、つぶら、ひのき、イガイガ……
登場人物の名前が、どれもキャラクターと非常によくマッチしていて、言葉としての響きもいい。
それもそのはず、原作のかわさき先生は、ストーリーを考えるのと同じぐらい、キャラクターのネーミングに心血を注いでいる。
自分の子供の名前を考えるとき悩みに悩んだという人は多いだろうが、次から次へと新しいキャラクターが登場する連載漫画では、何十人、何百人と名前を付けていく必要があるので、その生みの苦しみたるや想像を絶する。
名は体を表すというように、漫画でも、名前はそのキャラクターの印象や方向性に大きな影響を与えるので、おいそれと決めるわけにはいかない。
ある程度リアルである必要はあるが、ありふれた名前をつけるわけにもいかず、「ありそうでない名前」という絶妙なニュアンスが求められる。これは漫画に限らず、ドラマや小説でも同じことだろう。
ちなみに「とんぼ」のこれまでの登場人物を数えてみると……
「大井とんぼ」「五十嵐一賀」「大井権三」「セツばあ」「安谷屋洋子」「文平理」「日高兼人」「肥後亘」「凛太郎」「クタさん」「安谷屋円」「有働九五郎」「八々」「一」「二子女」「音羽ひのき」「栗須エマ」「中瀬支配人」「西」「添嶋」「嘉良」「鳥尾」「光琳」「猪股幸(鳴寂)」「大賀茂小鴨」「水島夏南」「小野寺ゆずは」「近藤八智留」「吉原純子」「築山嬉々」……。
リーダーボードだけに登場する名前なども含めると、ゆうに100を超える。
なかでもかわさき先生が気に入っている名前は「安谷屋円(つぶら)」。常々「つぶらって、我ながらいい名前だよなあ」と悦に入っている。
一方で、思わずニヤっとしてしまう名前もある。
たとえば「小鴨(コガモ)」。
日本女子アマ3日目、とんぼと同組になった恐ろしくプレーの早い選手で、小柄な容姿にピッタリな名前ではあるが、フルネームは「大賀茂小鴨」。
そんなダジャレみたいな名前をつける親の顔が見てみたいものだ、と思ったら、キャディとして登場した大柄でイカつい父親の名は「小吉」。そのギャップに吹き出してしまう。
もうひとつ、気になる名前といえば「有働一家」
島を出て熊本の高校に通うようになったとんぼが居候している一家で、長男の名前は「一(ハジメ)」。これはとくに変わった名前ではないが、その妹の名前は「二子女(にこめ)」。理由は「2番目に生まれた子」だから。
これも、親の顔が見てみたい! と思ったら、父親の名前は「九五郎(きゅうごろう)」。なんでも「9時ごろ」生まれたからそう名付けられたという。親子そろってなんとも適当な名前の付け方をされたものだ。ちなみに九五郎の妻の名前は「八々(やや)」。全員名前に数字がついているヘンテコリンな一家なのだ。
名前に関して言うと、九州女子選手権時のリーダーボードに並んだ名前には、ある秘密が隠されていた。
「柏木陽子」「梅崎唯」「李沙織」「興梠真美」「阿部実花」……。
もうお分かりだろうか。
実はこのリーダーボードに載っている選手の名字は、すべて当時浦和レッズに所属していた選手のもの。
レッズファンにはお馴染みだが、とんぼの作画担当・古沢優先生は、『赤菱のイレブン』というレッズの選手をモチーフにした4コマ漫画を描いている。自身も熱狂的なレッズサポーターで、選手とも親交が深い。
というわけで、リーダーボードの名前を勝手に(?)レッズ色に染めてしまったわけだ。
とんぼの作中には、そうした先生方の遊び心もところどころ隠れているので、ぜひもう一度読み返してみてほしい。
次回は、主人公「大井とんぼ」の名前がどうやって決まったのかを見ていこう。
①“決めない”美学? かわさき健のポリシー << TOP >> ③「大井とんぼ」名前の由来は?
※当記事は2020年に「note」に掲載したコラムを加筆・修正したものです