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「来年もまた出場したい!」ジュニアと障害者のペア大会が教えてくれたゴルフのチカラ

3月中旬「第1回君津市長杯ジュニア育成障がい者ゴルフ交流大会」が、新君津ベルグリーンCCで開催された。前編に続き、大会の模様と参加者の声をレポート。

PHOTO/Yasuo Masuda THANKS/新君津ベルグリーンCC

>>前編はこちら

スコアだけでない
“楽しさ”を発見

本大会に唯一、障害者ジュニアゴルファーとして参加している中島早千香さん(中1)は、先天性の障害で、生まれたときから左手前腕部の橈骨と親指がない。しかし、スプリットハンドでクラブを握り、大きく美しい軌道を描いたスウィングで150ヤード飛ばす。ゴルフは兄の練習についていったのがきっかけで小2のときに始めた。「最初から1時間半で700球打ちました。楽しかったんだと思う」。ゴルフは「よくわからないけどストレスが解消できる。ドライバーは当たると気持ちよくてスカッとする」とニコリ。

一般のジュニアの大会にも出たことはあるが、皆が上手すぎて少し引け目を感じた。DGAの試合に出るようになり、大人と回るのはむしろ楽しいが、今回は久しぶりの同年代とのラウンドなのだ。

日本を代表する障害者ゴルファーの小山田雅人プロから時々レッスンしてもらうという中島さん。「アプローチの力の入れ方なども考えながらできるようになりました」

今回“ペア”を組んだのは大会の翌日が卒業式だという大田区立の中学3年の川原莉緒さんだ。ゴルフは小3のとき、父の影響で始めた。今は競技にも参加するジュニアゴルファーだ。「ゴルフはずっと好きです。進学する高校はゴルフ部がないので、個人で頑張ろうと思っています。ゴルフは楽しいのでやめないで続けます。大人の方と回る機会が多いんですけど、話も面白いですし、年齢問わず、性別も問わず競い合えるのはゴルフのいいところですよね」とハキハキと話す。

2人ともプレーが早い。攻め方を相談しながら、ヘッドカバーが落ちたら拾ったり、お互いに「ありがとう」と言いながらラウンドする。目土もしっかりしながらだ。

「残り140ヤードくらい、打てる? 右手だけだと難しいかな」(川原)。「微妙かな。届かないかもしれない。ごめん、ムリだった」(中島)

自然に出る言葉に嘘はなく、リカバリーし合う姿勢はムリがない。ここにも「ゴルフ好き」がいた。

すぐに通じあうのがゴルファー。距離計測もライン読みも協力し合って

ホールアウト後、それぞれに感想を聞くと、まず出てきた言葉は「楽しかったです!」(2人)

「(彼女は)上手かったです。私は今日、アプローチがダメで。結構ミスった。プレッシャー、ちょっとかかりました。でも、ミスったときでも上手く打ってくれるのでどうにかなった」と中島さん。

「今は100を切ることが目標。102まではいったけど……」

3カ月前、体の成長に合わせてジュニア用からレディスクラブに変えた。やっぱりもっと飛ばしたい。クラブが長い分、振り終わったあとに足がバタバタ動いてしまうのが課題だという。将来の夢は、

「義肢装具士になりたいです」

でも、ゴルフがパラリンピックに採用されたら、ぜひ出たいと考えている。ちょっと照れ屋だけど、期待されたり目立つことは嫌いじゃないらしい。自分が頑張る姿を見て、障害者ゴルフが広がってくれたらいいな、とも思っている。

飛ばしでは負けない!

「もっと飛ばしたいし、もっと上手くなりたい」と中島さん。川原さんも「私もです。これからトレーニングします!」

「(彼女は)右を向くクセがあると思う。ラウンド中にも少し言ったんですけど。日頃からお父さんに肩にクラブを当ててもらって向きを確認したらいいと思います。でも、またこういう機会があったらぜひ一緒に回りたいです。来年もこの大会があるなら、来ます!」という川原さん。

「ベストスコアは74。今年中にアンダーで回りたいんです」

飛距離は当たれば240ヤードくらい。課題はショートゲームだという。将来の夢は、

「ツアープロです。でも、最近はレッスンプロもいいなと。前にキッズゴルフで教えて楽しかったんです。ゴルフに関わる仕事がしたいですね」

いつか2人が同じ舞台で、ギャラリーの歓声を浴びながら、真剣に楽しくラウンドする姿を想像するのも楽しいものだ。

「今日は楽しかったです!」

同組の伊藤常男さんは「皆小さな巨人です。惚れ惚れしちゃう」。「ゴルフは大人になっても楽しめるので続けたいです」と中島さん

ゲストとして参加した女子プロの植田希実子は、「ラウンドを見ていて、障害者の方が引っ張っていたり、逆にジュニアが『こうしてくださいと』お願いしたり。ゴルフは自分の責任で自分でやるものだけど、交互に打つことで、人と人とが支え合うことの大切さがわかりますよね。障害者ゴルファーの方は、自分のことをよく知っているので上手い。ジュニアたちには、応援される選手になるためにも、ゴルフが強くなるのはもちろん、やさしさや感謝を忘れないでほしいです」

“元ジュニアゴルファー”でもある植田。「障害者の方もただただゴルフが好き、楽しい、だから前向きなんですね」。

最後に、ジュニアの感想を一部紹介する。

「ゴルフの幅はすごく広いんだな、みんなゴルフが一番好きなんだと改めて感じました」。「ハンディキャップがあっても努力姿に感動。自分ももっと頑張らないといけないと思いました」。「障害者の方になるべく平らで易しいところから打ってほしいと思い、すごくいつもより考えてボールを打ちました」

最近耳にする「インクルーシブ」という言葉。直訳すると「包括的な」という意味であり、皆がそれぞれの個性を認め生かすことの大切さが隠れている。

老若男女が同じ舞台で楽しめる生涯スポーツであるゴルフはインクルーシブなスポーツだと言える。障害も個性ととらえ、生かすことができるスポーツでもある。今回、ジュニアゴルファーたちが、それを体感した。こうして少しずつ、「インクルーシブゴルフ」が広がっていくことを願う。

※文中の学年は試合開催の3月時点のものです。

優勝は72歳と中学生

優勝は浅野芳夫さん(72歳)、大地武虎さん(中2)の年の差ペア。「障害者の方とゴルフをするのは初めて。優しく接してくれて本当に楽しかったし嬉しかったし、いい体験でした」「若い人は違うね。勢いがある。270Yくらいいってるね。こういう企画をこれからもずっと続けてほしいです」

ボランティアも大活躍

運営ボランティアは法政大ゴルフ部の皆さん。「障害者ゴルファーって枠でくくらなくてよいと思いました」

生憎の雨風強い天気だったが、ジュニアたちの感想はアツい!「軽蔑したり悪いイメージを持つことはやめようと思いました。ジュニアも障害者さんも同じゴルファーなのだから」。「いつもスコアばかり意識して……今日は久しぶりに純粋にゴルフが楽しかった」。「障害者と一緒に年齢など関係なくできるスポーツはゴルフだけです」。「クラブの振り方や体の使い方など、いろいろ学ぶことがありました」(一部抜粋)

週刊ゴルフダイジェスト2024年4月16日号より

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