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「自分で左右できるのは姿勢だけ」ゴルフ歴60年、90歳のチャーミングレディ

今回の主人公、小林良子さんは現在90歳と6カ月。ゴルフ歴は60年にもなる。激動の時代を、力強くチャーミングに生きて、プレーしてきた。「良子ワールド」にしばし耳を傾けようではないか。

PHOTO/Yasuo Masuda THANKS/太平洋C軽井沢R

今年4月、良子さん90歳のお祝いコンペが太平洋クラブ御殿場ウエストで行われた。「88歳のときはお祝いだったけど、今回は“90ごえ呆れたコンペ”だったのよ」

そもそも良子さんは、ゴルフコンペをいくつも取り仕切る“首謀者”。「ゴルフを楽しむ会」「成田レディス」「グリーンクラブ」「じゃらんじゃらん会」。今も会をまとめて引っ張る存在なのだ。

コース内だけでなく、いつもシャキッとしている良子さん。「本当は腰を曲げるとラクよ。だけど、姿勢だけですよ、自分で左右できるのは」と、こちらが姿勢を正したくなる言葉をくれる。

現在のゴルフの目標は「90歳だから、ハーフ50ね」という良子さんのベストスコアは92。「飛距離は昔もせいぜい170Yだったかしら。今なんて転がって130Yくらい。前は3オン2パットが目標だったけど、今は4オン1パットね。あきらめもありますよ」

いや、あきらめではなく合理的なのだ。「グリーン周りやパットはまあまあなんだけど、50~60Yが下手。でもいずれにせよヘッドアップしちゃダメね」という良子さんのゴルフは、狙いを定めたところに効率よく運びつつ、ここぞというパットは強めに打つ。

ゴルフのプレーぶりには生き方が出ると言われるが、良子さんの人生を駆け足でたどってみよう。

バリバリのキャリアウーマン

1931(昭和6)年1月3日、東京で生まれた小林良子さん。母は由緒ある軍人の家に生まれ、超エリート軍人である父に嫁いだ。父は陸軍士官学校を出て東大で物理を学び、フランス陸軍大学にも留学。恩賜は4回の英才だ。

しかし、戦争が一変させる。父が仕事で失敗、良子さんが借金を背負うことになった。

「家を出なきゃいけないときなんてみじめだったわ。切羽詰まってた。戦後仕事がないときで、飢えるとなると頑張るわよ。もとはお金。きれいごと言ったってね。愛のほうが大事なんてテレビでは言うけれど(笑)」

そう、良子さんは、キャリアウーマンの先駆者なのだ。

その職歴は華麗だ。51年4月から8年、三菱商事総務部・人事部に勤務、59年から93年までは郵船航空サービス営業部、93年から09年までは郵船クルーズの嘱託でクルーズ&トラベルアドバイザーとして活躍した。

「女性は仕事をする気がなかったのに、戦争中に“できる”という空気が出てきて女性が働いた。終戦後復員した男性を受け入れると人手が余って女性を減らし、次に日本の産業が復活し始めたらまた女性、女性と言い出す。朝鮮戦争、ソ連解体、湾岸戦争……悪いけど、不幸なことがあると、科学と仕事は進むのよね。そこで調整されるのが女性。そこを生き抜いてきたわけ。私が稼がないといけない家庭事情もあったけど、必要な存在だと認めさせるため、2倍、3倍と仕事をしなくちゃいけない」

そもそもデキる女なのだ。商社では外貨申請という特殊作業を担当、その後も気配り目配りで重宝されていく。22歳で結核を患い2年休んでも存在感は増すばかり。

スポーツウーマンの先駆者でもある良子さん。「勉強より運動が好きでした。本当はスポーツ医学を勉強したかったのよ」

商社時代はバスケット、スケート、ヨットなどを経験した。転職後はゴルフだ。

「まず、高田馬場の小さな練習場で『こういうものだ』と自分で学んで、57年春に伊勢丹デパートのゴルフスクールヘ。今は伊勢丹のメンズ館になっている場所で、戦前はアイススケート場だった。そして57年秋の大箱根CCがコースデビューです」

当時の航空会社、パンナムやノースウエストはゴルフの親睦コンペも行っていた。役人の手をとって教えたり、当時はゴルフボールが高額で“袖の下”的な役割もしたらしい。

「私はずっと後になって参加。もちろん割り勘でしたよ。そもそも始めたきっかけはヒステリー発散のため。ボールにいろんな人の顔を想像するの。こんちくしょう! 女だからと馬鹿にしてって(笑)」

メンバーコースは61年の伊香保CCからいくつも歩き、79年10月、48歳のとき太平洋クラブのメンバーに。そこからは19年3月まで、40年間一筋だった。

これに飽き足りず81年には陸上単発小型機のライセンスを取得。

「もっと仕事のストレスがたまったの。女はいいよ、スカートちょっとまくればいいって聞こえよがしに言う人もいた。セクハラよね」

土日は天気だったら調布の飛行場に行き、雨ならコースに。「だって、飛行機は雨なら絶対無理だけど、ゴルフはレインウェアでもできるでしょう」。その後、パラグライダーやダイビングにも挑戦、とにかくパワフルだ。

仕事は80歳まで続けた。旅行業界予備校講師の経験を買われてか、その会話力を買われてか、船旅や定年後の過ごし方などの講演会も行った。「ぬれ落ち葉対策要員とも言えるわね」と良子さんの多少の毒は心地よい。

“終活”の一環でゴルフも止めたはずが……

この頃、良子さんの体は満身創痍ともいえる状態。77歳で右ひざ、79歳で左ひざを人工関節にする手術をした。

「戦争中は、歩け、歩けだったし、戦後は仕事で日比谷から日本橋までよく歩いた。インドの古跡巡りもしたし、歩きすぎなのよね」

しかし、心は健康であり続けようとするところが良子さんだ。

「3週間入院してリハビリは3カ月。ゴルフはすぐに行ったかしら。自分のコンペを開催後に人院、入院中に次のコンペの人集めをして退院後に参加。コンペをやらないとゴルフ場もがっかりするから」

80歳の頃には親指が痛くなり急に曲がり始めた。

「リウマチと言われた。ゴルフするたびに痛いなんてこともあったし、パットをしてたらピリッと痙攣がくる。5年くらいは最悪でした。ハーフ70を叩いたこともあって、周りは大変だったでしょうけど我慢してくれたの」

そうして皆が“終活”を考え始める歳だと感じ、熱海に移住することにしたのだという。

「終活の第一歩でゴルフも止めようと、太平洋クラブも辞めた。19年の春です。でもね、シルバーマンションって、夜でもフロントに人はいるし、今まで戸締りにも何もかも気を使ってガサガサしていたのが割と落ち着いたの」

そう言って、二の腕を触るように言う良子さん。「ここ、“フリンデ”みたいじゃなくて意外に締まってるでしょ。リウマチは治りはしないけど、ごまかしはできるの」

この筋肉、自身で鍛えてつけたものなのだ。近所の大きなスーパーにある「カーブス(フィットネスクラブ)」に月に5~10回、1回15~30分通って2年になる。

「何がいいって、腕を広げるときは器械のほうが動いてくれるけど、元に戻すときに抵抗がある。二の腕やふくらはぎが鍛えられた。飛距離も割と戻って、ゴルフも続けられたんです。そこの隣の10分1000円のマッサージに週2回通ってるのもいいみたい。30分くらいで体には効くから、あとは体を休ませたほうがいいと教えてもらって」

西熱海GCの平日会員になり、セルフで1人プレーもする。「ハーフ3900円。週2回は行きたいと思っています。練習場は打ちすぎると体も疲れるから、下手でも実戦のほうがいい」

現在、熱海の23坪のシルバーマンションに94歳の姉と住む良子さん。「姉がまた見事で。50歳で車の免許取得、55歳で未亡人、57歳でクロスカントリーに目覚めたり」というスーパー姉妹ぶり。

雨でもカラフルなレインウェアでプレーすると気持ちも上がる

「昭和1桁生まれの女性には
みんなドラマがあるのよ」

若さや健康の秘訣は?

「苦労してるから。粗食だし。あとは朝起きて自分の体に聞くことです。ご機嫌じゃないときは、ビールを飲んで体操する。ストレッチして背中を伸ばすのは大事だから、私はストレッチポールを持ち歩いて使ってるの。これで休調を整える。ご機嫌なときは、ビールを飲んでお祝いする(笑)」

良子さんの座右の銘は、悲しいことは3分の1に。楽しいことは3倍に。

「人のなかを泳いできたから、顔色を読むのは得意だし、だいたいどんな人でも対応できるわ。私は学校でも1番になったことないし、ミス日本にもなってないけど、たとえば今日だっていろいろな人が声をかけてくれるでしょう。入社時から私が声をかけてきたから。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』というでしょう。馬とばかりつき合っているけれど(笑)、何かのときには助けてくれるという自信はあるわ。歳をとると、馬とつき合うことを忘れる人がいるのよね。考えてみれば、ゴルフのことなんて枝葉末節ですよ。生きることのほうが大事。人生、飛距離なんかよりもっとほかのことで悩めって言いたいわ」

そうは言っても、ゴルフの魅力は?

「しゃべりながらできること、社交ができること、いくつになってもできること。自然のなかでできるのもいいわね」

「だいたい、90年分の取材をしようとしたらこんな時間じゃ無理。昭和1桁生まれの女性には皆ドラマがあるのよ」と笑う良子さん。今日もどこかのコースで、仲間と人生について面白可笑しくおしゃべりしているに違いない。

良子さんの老けない生活8箇条
●苦労はする ●若い人と一緒にいる ●服装が明るいこと ●睡眠7時間。1日2食。好きなものをバランスよく ●サプリや人の力を借りる ●朝起きたら自分で体に聞く。今日はご機嫌どうかって ●常に背中を伸ばすストレッチを ●腕とふくらはぎを鍛える

週刊ゴルフダイジェスト2021年7月27日号より