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【さとうの目】Vol.262 “引きずらない男”キャメロン・スミス

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は全英オープンを制したキャメロン・スミス。

PHOTO/Tadashi Anezaki

前回のお話はこちら

今回も全英オープンについてお話しします。マキロイとの4打差を跳ね返し優勝したキャメロン・スミスについてです。

マキロイは4日間を通じてバンカーに入れたのがわずか1回、最終日はパーオン率100%。ラウンド直後のインタビューで「特に何か間違ったことはしなかったが、正しいこともできなかった」と語ったように、メジャーで3日間が終わりトップに立った選手がやるべき手堅くミスのない試合運びだったといえます。そのマキロイを最終日29パットで凌駕したのがスミス。アウトを終えてマキロイとは3打差。スミスやC・ヤングなどが勢いよく追いかけていましたが、まだマキロイに主導権があると思われました。


しかしスミスは10番から怒涛の5連続バーディで、とうとうマキロイをつかまえます。ほぼノーミスで来たスミスですが、唯一のミスといえば17番のセカンドショット。17番はとにかくシビアで難しいホール。トップに立ったスミスがセカンドで少しだけ引っかけてしまい、ボールはグリーン手前のバンカーの、さらに手前に落ちました。解説席からは「むしろバンカーのほうがよかったのでは?」という声すら聞こえたほど。

ここでスミスが手にしたのはパター。バンカー越えショットを選択すれば、少しでも距離が足りないと手前のバンカーに、少しでも強いとグリーンを出て道路のほうに行ってしまう、乗せるだけでもかなりシビアな状況。スミスはバンカー右端のスレスレのラインを狙い、バンクを駆け上がらせます。そして残った4m弱。微妙な傾斜で読みづらく多くの選手が外していた距離。しかもあの状況で難しさは倍増する。それをど真ん中からジャストタッチで入れ、メジャー優勝を手繰り寄せました。

実は僕は、スミスはどの時点でもメジャータイトルのプレッシャーを感じているようには思えませんでした。そして感情をまったくあらわにしない淡々としたプレーぶり。実際、この試合では派手なガッツポーズは1回も見せていません。優勝争いの相手がマキロイであったこともあり、より対照的に映りました。

3日目、スミスはチグハグなゴルフをしていました。13番でバンカー縁から強引に狙ってダボを叩き、あるいはほとんどの選手が1オンを狙う18番でレイアップしてみたり。この日73を叩き首位から陥落、優勝戦線から後退したと思われました。こうしたミスは引きずるものですが、「今日はたまたまパットが入らなかっただけ」と、練習グリーンで3〜4mのパットが何発か入るのを見届けただけでコースを去り、最終日はことごとくパッティングを決めた。勝負を決めた3〜4mのパットは、このオフから毎日20分程度練習を重ねてきたそうです。

ダスティン・ジョンソンに通じるショートメモリー――悪いことをあまり引きずらない――もスミスの特徴。このメジャー優勝で、ひと皮剥けたことは間違いありません。豪州勢の全英制覇は93年のグレッグ・ノーマン以来、29年ぶり。母国の大先輩でもあるノーマンからのLIVゴルフの誘いをどうするかも今後の注目点です。

超アグレッシブ&ピンチからのリカバリー力!

「ニクラスやタイガーがマネジメントのしっかりした防御能力の高いゴルフなのに対して、パーマーやバレステロスはファンをハラハラドキドキさせながら魅了する。スミスは完全に後者のタイプといえます」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月16日号より