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【さとうの目】Vol.259 タイガーが勝てば最年長! 伝統の全英オープン、150回大会で何かが起こる?

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今回のテーマは、まもなく開幕する全英オープンについて。

今週はいよいよ全英オープンの開催です。世界最古のメジャートーナメントは、今年で150回目、ゴルフの聖地であるセントアンドリュース・オールドコースでの開催は30回目と節目となる大会です。驚くべきはチケットセールスが、大会史上最多の29万枚ということ。チケットを買えずに悔しい思いのファンも数多いようです。

大会の主役であり、また熱狂の要因はなんといってもタイガー・ウッズです。昨年2月の交通事故から、マスターズに続く復帰第2戦となった5月の全米プロは途中棄権。6月の全米オープンは欠場しただけに、タイガーがどんなプレーを見せてくれるのかボクも今から興奮しています。また、タイガーは今46歳。全英オープンの最年長優勝記録は、1867年にオールド・トム・モリスが記録した46歳99日で、タイガーが勝てば155年ぶりに記録更新となる快挙でもあるのです。過去3回、全英を制しているタイガーですが、00年と05年はセントアンドリュースでの優勝。特に初優勝の00年は、グランドスラム達成の偉業を成し遂げた大会でもありました。相性もよく、思い入れも深いコースだけに、十分そのチャンスはあるのではないでしょうか。

記録を持つトム・モリスの活躍した時代の全英オープンは、長くプレストウィックGCで開催されていました。そのためモリス自身が、セントアンドリュースで優勝したことはありません。ただオールドコースに最後に手を入れ、今の原形を築いたのがモリスです。1世紀半の時を超えて、タイガーがその記録に挑む……考えただけでワクワクする壮大なドラマです。ちなみに今回、チケットセールス記録が大幅に更新されましたが、これまでの記録は00年大会でした。タイガーのグランドスラムがかかったこともありましたが、大会前にジャック・ニクラスの最後の全英と発表されたためです。実はこの大会にボクも出場していたのですが、こんな粋な演出がありました。ニクラスが18Hを終えて戻ってくる時間に合わせて、タイガーがスタートしていったのです。

これにはさらに後日談があって、ニクラスの実際の最後の全英は5年後の05年、やはりセントアンドリュースでした。アーノルド・パーマーとニクラスは10歳違い。その10年前の95年に、パーマーがセントアンドリュースで引退しているのです。ニクラスのそれは、パーマーへの敬意でもあったのでしょう。そしてその10年後、ニクラスより10歳下のスターのトム・ワトソンが、やはりセントアンドリュースで引退します。こうして物語は引き継がれ、伝説になっていくのです。

こうした歴史や伝統の積み重ねのなかで生まれる名勝負、育まれていく人間ドラマこそが、ゴルフの魅力であり人々の心を打つのです。新リーグ、LIVゴルフへの違和感は、そうした歴史や伝統への敬意の希薄さのような気がします。新リーグについては筆を改めます。

「複数のホールでグリーン、フェアウェイを共有するのがオールドコースの特徴。00年に出場したボクは、共有グリーンでタイガーと鉢合わせし、『お先にどうぞ』と言われたのが大きな思い出です。ホールアウト後18番グリーンから歩いているときに『ボクの一番のお気に入りの選手だ、サトウ。ボールをくれ! なければグローブでもクラブでも』という少年に、ボールを渡したこともまた、いい思い出となっています」(写真は2000年全英オープン)

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年7月26日号より