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作戦勝ちでプレーオフを制した陽気なメキシカン(1971全米オープン)【記者が見た“勝負のアヤ”】

記者生活50年を超えるベテラン記者・ジョーが、長い取材生活のなかで目の当たりにした数々の名勝負の中から、いまだ色あせることなく心に刻まれているエピソードをご紹介!

多くのギャラリーが詰めかけた1971年全米オープンのプレーオフ。マーシャルの制御が利かないほどの熱狂ぶりだった

1971年 全米オープン

「ギャラリーを楽しませようとした
だけなんだよ」(リー・トレビノ)

メリオンGCで行われた1971年の全米オープン。3日目を終え、首位ジム・シモンズを2打差で追うジャック・ニクラス。さらに2打差にリー・トレビノ。最終日、トレビノは69、ニクラスは71で2人が並んだ。

翌月曜日にプレーオフ。1時40分に1番ティーイングエリアに現れたのはニクラス。「トレビノはどうした」と、ギャラリーがそわそわし始めた頃、トレビノは悠然とやって来た。トレビノはドライバーを受け取り素振りをすると、キャディバッグからボールや手袋を出すふりをして、バッグに潜めておいたヘビをニクラスめがけて放り投げた。詰めかけたギャラリーは驚き、それがおもちゃだとわかると爆笑となったが、ヘビが大嫌いなニクラスは驚いてしまい、いつもの冷静さをすっかり失ってしまった。

トレビノは、ニクラスが大のヘビ嫌いと聞いていたため、ヘビのおもちゃを動物園のギフトショップで買い求めてキャディバッグに入れ、何食わぬ顔でプレーオフにやって来たのだった。ニクラスは、この一件ですっかり動揺してしまった。そうなると勝負は“陽気なメキシカン”に有利となる。

実際に2番ホールでバンカーに入れてしまったニクラスは、そのショットをミスして今度はグリーン手前のバンカーに入れてしまいボギー。次の3番・パー3では2人ともグリーン左のバンカーに。トレビノはピンから70センチに寄せるが、ニクラスは脱出できずダブルボギー。プレーオフ3ホール目で、すでに3オーバーとつまづいてしまった。

17番は224ヤードの長いパー3。バフィーでオンさせたトレビノに対してアイアンで打ったニクラスは右のバンカーに。そこから1.5メートルに寄せるも入らずボギーで、結果はトレビノ68、ニクラス71。

スタート前、トレビノがヘビのおもちゃでニクラスを驚かせたことがプレーにどれだけ影響を与えたかは不明だが、トレビノの作戦勝ちだったのは事実だ。プレーオフを制したトレビノは「どんな奴だってついている日があるというもんだ。つまり、今日はオレ様の日だったというわけだよ」と言って笑った。

文・構成/ジョー(特別編集委員)
年齢不詳でいまだに現役記者。ゴルフダイジェスト入社後、シンガポール、マレーシアをはじめ、フランス、モロッコ、英国、スイス、スウェーデン、イタリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、中国、台湾、アラブ首長国連邦、オーストラリア、ニューカレドニア、タイ、インドネシアなどでコース、トーナメントを取材。日本ゴルフコース設計者協会

週刊ゴルフダイジェスト2022年5月3日号より