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【わかったなんて言えません】Vol.75 矢野東#3「大事なのはスウィングよりも“スピンコントロール”」

「ゲンちゃん」こと時松隆光がプロを招いてトークをする連載「わかった! なんて言えません」。今週のゲストは前回に続き矢野東。飛距離が欲しいと悩む時松に対し、矢野が送った金言とは?

TEXT/Chiharu Kubota PHOTO/Tadashi Anezaki

ホスト/時松隆光

1993年生まれ、福岡県出身。ツアー通算3勝。プロ10年目。テンフィンガーグリップで戦う。愛称は“ゲンちゃん”

ご指名/矢野東

1977年生まれ、群馬県出身。00年プロ入り。ツアー3勝。14年に12年間守っていたシードを手放すも、昨年見事復帰

前回のお話はこちら

時松 矢野先輩は「2023年とか2024年に向けたスウィング改造」って言っていましたけど、その始まりは、やっぱり怪我があったということですか?

矢野 2019年に公傷が終わって、サードQTで落ちて、まあ、いいタイミングだなと思って。怪我してゴルフも壊れていたから、5年ぐらいかけて、もう一回頑張って46歳ぐらいでツアーに戻れればいいなと思った。ゴルフスタジオの監修もやっていたけど、スタッフにスウィングオタクが多くて、最新の理論などに触れるチャンスもあってね、それでもう一回ツアーにトライしてみようかなって。

時松
 昨年、関西オープンの練習ラウンドをご一緒させていただいたときも、高い球筋ですごく飛んでいたし、一昨年末の特別QTファイナルでも1位だし、もうスウィング改造は違和感もなくて、完成形なんですか?

矢野 いや、完成なんて全然。でも、以前とは変わってきているとは思う。スウィング改造って、僕もみんなもザックリと言うけど、改造の意味はレッスンプロと、僕らツアープロでは違うと思うんだ。レッスンプロは、スウィングに関して、理に適った合理的で無駄のない動きを目指すじゃない。

時松 そうですね。

矢野 僕らツアープロは、戦って結果を出すことが一番大事だよね。


時松 はい。いくらスウィングが素晴らしい、と言われてもツアープロは賞金が稼げなくちゃ意味ないです。

矢野 僕らにとって一番大切なのはスウィングじゃなくて、ボールのスピンコントロールなんだよ。それは、縦回転でも、横回転でも何でもよくて、ドローとかフックとかスライスとかね。ハイスピンは止まるし、ロースピンは止まらない。止まらなければ手前に落とせばいいんだし、そうやって自分が球の回転数をコントロールできればいいんだ。

時松 スウィングの形じゃなくて、ボールの飛び方ということですね。

矢野 そう。ボールのスピンコントロールを自分できちんと理解して球を操ってさえいれば、日本ツアーなら絶対に勝てる。だから、ツアープロにとってのスウィング改造の本質はそこにあると僕は思うんだ。

大事なのはスウィングの形じゃない!

「縦回転でも、横回転でも、自分が球の回転数をコントロールできればいいんだ」(矢野)

時松 僕はスウィング改造というとやっぱり飛距離アップとかになっちゃうんです。

矢野 ゲンちゃんのスウィングは、見た目がすごくゆっくりで、地面反力などを使っている雰囲気がないよね。持っているポテンシャルに対して、最大限の飛距離は出していないけど、それでいいんだよ。ゲンちゃんの振りで、インパクトで、ボールのスピンコントロールができているから。それでツアーでも勝っているし、ランキングも上位にいるんだから。

時松 でも、やっぱり、もっと飛ばしたいと思うんです。

矢野 そうすると、少しいじらなくちゃならないけど、当然、今までみたいなスピンコントロールではいけなくなる。縦距離も変わってくるし、インパクトの厚みも変わるし、スピン量も変わるから、そういうのを全部頭で理解したうえでやっていくなら、スウィング改造もありだと思うよ。

時松 難しそうですね。

矢野 若い頃にスピンコントロールが素晴らしくて活躍していたのに、スウィング改造して壊れてしまった選手ってたくさんいたじゃない。そういう選手って、そこが理解できていなかったということだと思う。

時松 飛ばせばいいということじゃないんですね。

矢野 去年、何かの試合で3日目だったか4日目だったか、一緒になったとき、淡々といいゴルフをしていたじゃない。これぞ“ザ・ゲンゾウ”って感じで、ポーン、ポーン、ポコ。ポーン、ポーン、ポコみたいな。だから、あのスタイルを究めることだと思うよ。

時松 ベースボールグリップってどう考えていますか? 僕、ロブショットとかがダメなんですよ。

矢野 ベースボールグリップでもパームに握らずに、フィンガーで握ればいいんじゃないかな。そうするとリストワークが使える。でも、ゲンちゃんは2勝もしているんだし、そのまま一生やればいいんだよ。あと、大切なのは、いいときの自分がどうクラブを動かしていたのかを知っておくこと。そうしないと、何か変えたとき、戻せなくなってしまう。スウィングを勉強するのもいいけど、現状を知ろうとする程度でいいと思うし、高みを目指してやりすぎてしまうと、さっきも言ったけど、ボールコントロールを見失ってしまうことが多いから。

時松 やっぱり、矢野先輩と話していると、勉強になります。

週刊ゴルフダイジェスト2022年4月12日号より