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【さとうの目】Vol.238 松山英樹「自分を信じる力」

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週は、前回に続き松山英樹をクローズアップ。

PHOTO/Blue Sky Photos

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前号に続き今回も松山くんについて話します。ボクなどが言うのもなんですが、マスターズの優勝以降、ひと皮むけたというか突き抜けたと感じます。メダルこそ逃したものの東京五輪での頑張り、そして秋のZOZOチャンピオンシップ、年明けのソニーオープンでの優勝。五輪やZOZOは日本開催で注目される試合でしたし、ソニーオープンは世界アマチュアランク1位の中島啓太選手が注目を集める試合でした。ここで「主役はオレだ!」と言わんばかりの強さを感じましたね。

あの3Wでのショットは居酒屋で皆が語りたくなるもの。青木功さんと見たかった(笑)。83年のハワイアンオープンで優勝した青木さんのチップインイーグルのシーンも語り継がれてきて、あれを見てプロになりたいと思った人も多いはず。今回の松山くんのショットも、今のジュニア世代を魅了し、新しく語り継がれる“目標”になったと思います。


彼のスゴさは、常にアンテナを張り巡らしながらも、情報の取捨選択ができる能力にあると感じています。理論にせよ打法にせよ、道具やコーチにせよ、流行にすぐに飛びつくタイプではありません。それはゲームのマネジメントにも表れます。たとえばダボを叩いても焦って取り戻そうとするのではなく、無茶をせずじっと我慢してジワジワと追い上げていくタイプ。予選で出遅れても徐々に挽回、終わってみれば上位にいる試合展開は、そうした腰の据わった姿勢が影響しているのでしょう。

何より同じことを続けられる能力。これは一流選手には絶対条件。ゴルフに特効薬はないし、また上達に近道はありません。そして、その練習法と、それを選んだ自分を信じられる能力。昔、「男は黙って〜」というテレビCMがありました。こういう言い方は時代と合わないかもしれませんが、寡黙にして頑固、自分を貫く姿勢は多くの日本人の琴線に触れるのではないでしょうか。

最近、「ポッドキャスト」を聴くのにハマっていて、試合の振り返りや次週予想を選んで聴きますが、ソニーオープン後はアメリカでの松山くんの優勝がどう語られるのか興味深く聴きました。なかでも試合を解説していたトレバー・イメルマンの松山評には実に納得。イメルマンは今年のプレジデンツカップの主将で、前回大会でも副将を務めています。

「ヒデキはチームでバスに乗っても、端に座り無口でいつも静か。でも、そんなヒデキが口を開いたら、誰もが手を止めてヒデキの言葉を聞くだろう。無理に彼にチームリーダーの重責を与えることはしないが、みんなそれだけヒデキのことをリスペクトしているんだ」

まさに日本の侍です。PGAツアーで最初、嫌がらせのようなことを受けた経験もあるかもしれません。でも、「継続は力」を体現してみせた。すでに米国のファンも多いんです。マスターズ優勝後、「注目度も変わるから、人としてちゃんとしなきゃいけない」といったニュアンスのことを、松山くんが話すのを聞きました。自身にも少し変化が表れている。これからもっと上にいきそうです。

継続は力。英樹の練習風景はPGA名物!?

「ひたすら短い距離を、デーブ・ペルツ考案の練習器具と、カップ周りに刺したティーペグ、ボールの通り道に張ったロープを使って、左右片手打ちを繰り返す。今では夕暮れのなか、ひとり黙々とパター練習をする松山くんの姿は、PGAでも有名な風景となりました」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年2月22日号より

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