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【日本オープン】ジャンボ超えの19アンダー! ノリスの勝因に佐藤信人が迫る

琵琶湖CC(滋賀)で開催された第86回日本オープンはS・ノリスが大会レコードでメジャー2勝目を達成。大会の模様を佐藤信人に振り返ってもらった。

TEXT/Kenji Oba PHOTO/Tadashi Anezaki

解説/佐藤信人

ツアー通算9勝。JGTO広報担当理事。海外経験が豊富でテレビなどの解説者としても活躍。東京五輪2020男子ゴルフの中継解説も務めた。小誌で「うの目、たかの目、さとうの目」を連載中

フェード1本で攻めた
徹底したマネジメント

今年の日本オープンは、ショーン・ノリス(南アフリカ)の日本ツアー通算6勝目となる、メジャー2勝目(17年のツアー選手権に続く)で幕を閉じた。大会歴代最多の通算19アンダー、歴代最少265ストロークでの優勝だった。ちなみにそれまでの記録は94年に尾崎将司が打ち立てた通算18アンダーで、ジャンボを含む3人が記録した270ストロークである。

優勝(-19)
ショーン・ノリス

日本語の上手さ、お辞儀までする礼儀正しさ。ゴルフに限らず「頭の良さを感じさせる」と佐藤プロ。19年の東海クラシックでは直前に死別した父のために、今回は危篤の友人のために戦い、優勝インタビューで号泣

日本オープンといえばパーを重ねる“我慢大会”の印象が強い。そこでまずはノリスの勝因の前に、バーディ合戦となった背景を佐藤信人プロに聞いた。

「横浜CCで開催された18年大会以降、フェアウェイを広くしているなという印象はあります。今回はアウトの9ホールでG・ノーマンが改修した琵琶湖コースを使いましたが、そうした意図を感じた改造でした。これはボクの想像ですが、JGA(日本ゴルフ協会)としては広く、多くの人にゴルフに興味を持ってもらいたい。そのためにアイアンで刻むプレーより、豪快なドライバーショットを見せる……という基本コンセプトがあるのでしょう。これはJGAに限らずUSGA(全米ゴルフ協会)も同じで、世界的な潮流です。個人的にはもう少しラフを伸ばしても良かったかなとは思います。予選カットがイーブンパーで収まったのは、初日にビッグスコアが出たため、2日目はかなり厳しいところにカップを切ったからでしょう。また最終日に天気が崩れなかったらスコアはもう少し伸びたかもしれません」

アプローチも徹底した転がしで攻める

もっともバーディ合戦にせよ、条件は同じ。そのなかでノリスは2位に4打差をつけて圧勝。その勝因はどこにあるのか? 佐藤プロが挙げたのは、徹底したマネジメントだ。実はノリスのフェアウェイキープ率は52位だった。


「ラフが短いこともあり、まずは曲がってもいい想定で曲がってもいいサイドだけを狙っていました。自分の攻め方や持ち球(フェード)が決まっているのです。たとえば他の選手がティーショットでアイアンを持つとします。すると、自分もここは手堅くいこうという思いが脳裏をよぎるもの。ところがノリスの場合、他の選手がアイアンを持っても自分はドライバー、逆に他の選手がドライバーを使っても自分は手堅くアイアンといった場面が何度も見られました」

フェードを得意とするノリスはトップ選手には珍しく、苦手なショットがある。それがグリーン周りの上げるアプローチだ。前週のブリヂストンオープンで佐藤プロは、ロブショットを練習するノリスを興味深く観察したという。

「イップスでもないし、寄らないわけでもないんです。ただ、本人には苦手意識があって日本オープンでは絶対に上げる状況は作りませんでした。転がせるところに外すんです。日本人は苦手を克服しようとしがちですが、得意なショットで勝負するのは、やはり外国人らしいなと思いましたね」

フェードボール一辺倒で、打ってもいいサイドなら外すのは想定内。グリーン周りのアプローチは、転がせる場所を選んで外す。上げるアプローチは苦手だが落とし場所や距離感といい転がしは天下一品

【日本オープン歴代優勝スコア】

2020年稲森佑貴-5紫CCすみれC
2019年C・キム+1古賀GC
2018年稲森佑貴-14横浜CC
2017年池田勇太-10岐阜関CC東C
2016年松山英樹-5狭山GC
2015年小平智-13六国際GC東C
2014年池田勇太-10千葉CC梅郷C
2013年小林正則-10茨城GC東C
2012年久保谷健一+8那覇GC
1994年尾崎将司-18四日市CC
野球でいえば手に汗握る投手戦から、ここ数年は打撃戦のルーズベルトゲームになりつつある日本オープン。全米オープンでもそうした傾向が強まっている。ちなみに今回はパー71だが、パー72でも70でもこれまでの最少ストロークは270だった

池田勇太の諦めないゴルフが
素晴らしかった

日本人でひとり気を吐いたのが2位に入った池田勇太だろう。最終日、ノリスと7打差の4位タイでスタートしながら荒天のなか、10番まで3バーディのゴルフ。ボギーが先行し我慢を続けるノリスに一時は3打差まで詰め寄った。このプレーについて佐藤プロは、

「感動しました。メディア的には大会3勝目だとか、12シーズン連続優勝がかかっているなどが注目されましたが、勇太は大会を通じて『もちろん勝ちたいし、できれば記録も達成できたらいいが、見に来てくれるお客さんが喜んでくれるのがいちばん』と言い続けていました。こうした姿勢が勇太のゴルフのすべてを物語っています。実際、最終日はスコア差の大きいスタートで優勝は厳しいなと感じる展開でした。どちらかと言えば勇太は、それが表情に出るタイプです。ところが今大会では1打1打が丁寧で一生懸命、最後まで諦めずに戦っている感じが画面からも伝わっていました。ボクが感動したのは、そうした部分です。同時にそれはナショナルオープンで見せてくれた、日本人選手の意地のようにも感じましたね」

2位(-15)
池田勇太

パーオン率1位、フェアウェイキープ率5位の池田だが、入りまくったノリスのパットに押し切られた格好だ。最終18番ではピン上2mにつけるスーパーショットも見せた。バーディは決められなかったが、終始沸かせるゴルフでギャラリーを魅了した

ちなみに大会終了後の池田勇太のコメントがこれだ。

「差があるんで追いかけるだけだった。もう少し上を追い詰めたかった。もう少しバーディ数が欲しかった。でも拍手や声援がもらえたのはプロ冥利に尽きる。悔しい結果に終わったけど、ギャラリーに囲まれて打つという喜びを感じました」

日本オープンとしては2年ぶり、男子ツアーとしては9月のフジサンケイ以来、約1カ月ぶりの有観客試合。池田のようなトップ選手に限らず、無名の若手選手からも有観客試合の喜び、ファンへの感謝の声が聞かれた。ファンやギャラリーもまたゴルフを盛り上げる、大切な存在であることを改めて知らされた大会となった。

米澤蓮のローアマは
いいきっかけになるはず

さて今大会、アマチュアの出場選手は15人。うち9人が予選通過を果たしている。ローアマに輝いたのは、米澤蓮さんだ。

「結果からいうと、ローアマになった米澤さんについては良かったな、と正直に思います。というのも彼の場合、調べてみると日本アマとか日本学生とか、タイトルがないんですね。もちろんナショナルチームのメンバーですから素晴らしい選手ですし、世界アマチュアランクも12位で日本人では3番手です。同年代ではアマチュア時に金谷拓実、中島啓太さんがツアーで優勝し、杉本大河さん、河本力さんが、アベマTVツアーで勝ちました。今の子はそれほどヤワではないでしょうが、それでも焦りはあったと思うんです。その意味で日本オープンのローアマは、米澤さんにとって大きなステップにつながるんじゃないでしょうか。それにしても最終日、あの荒天のなかでのノーボギーは見事ですし、今後、日本ツアーを牽引していく存在になることは間違いありません」

最終日、強風と寒さのなかでのノーボギーは、完成度の高さを感じさせる。実力は誰もが認めるところだが、これまでなかったのがビッグタイトル。「今回、日本オープンのローアマに輝いた実績は、彼の大きな飛躍のきっかけになるだろう」と佐藤プロ。今後が楽しみな選手だ

どんな試合でも勝った経験、タイトルを獲得した経験は、とくにプロとして生きる者には、その後の大きな財産になる。アメリカでは大学をはじめ、アマチュアの試合が多く、PGAツアーで活躍する一流プロたちもそうした試合で勝った経験が財産になっている。

「あくまで個人的な意見ですが、ボクはあまり若いうちからアマチュアがプロの試合に出るのには懐疑的です。それよりもアメリカのようにアマチュアの試合を充実させ、そこで勝つことを覚えるほうが大切な気がします」

その意味では米澤さんの日本オープンのローアマや、日本アマの優勝は、もっと注目されていいタイトルなのかもしれない。大学4年の米澤さんは今後、QTを受験し、来季プロデビューする予定だ。佐藤プロによれば米澤さんに限らず、「すぐにプロとして活躍できる逸材がゴロゴロいますからワクワクします」というだけに、いよいよ男子ツアーにも新時代到来の予感が高まってきている。

「来季は河本力、杉原大河など若手の活躍が楽しみです」

河本力

日本体育大学4年。松山英樹と同じ愛媛県出身。21年、下部のアベマTVツアー「TIチャレンジin東条の森」でプロの試合で初優勝を果たした。昨年の日本オープンでローアマにも輝いている。姉は女子プロの河本結

杉原大河

東北福祉大学4年。2年時の19年、下部のアベマTVツアー「石川遼チャレンジ」でプロの試合で初優勝。昨年の日本オープンでは河本力とともにローアマに輝く。また今年6月のツアー選手権では3位に入った

週刊ゴルフダイジェスト2021年11月9日号より