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「ターフを戻す」はNGだった? 洋芝と日本芝で違う! “ディボット跡”の正しい処置

週刊GD8月3日号で「ターフは戻してはダメ」という記事を出したところ、読者から「ターフを戻すのは本当に意味がないのか?」という指摘があった。果たして芝を削ったあと、飛んだターフを元に戻すのが正しいのか、そうではないのか。芝の専門家に聞いてみた。

PHOTO/Yasuo Masuda THANKS/カレドニアンGC

漫画「オーイ! とんぼ」では、主人公の大井とんぼが軽井沢で行われている試合の練習ラウンドで大きなターフをとり、それを素早くディボット跡に戻しているシーンも(「オーイ! とんぼ」第340話より)

週刊GD 8月3日号の記事がこちら
「ターフを取った際、ターフ跡にターフを戻す人がいますが、あれは意味がありません。目土してください。芝の治療です。その際は、砂を山盛りかけてはいけません。地面が少しこんもりするぐらいにしてください」(P50「いまさら聞けないゴルフマナー基本のキ」)

<読者からの指摘>

「選手やキャディがターフをターフ跡に戻す映像を目にします。また、ある本には『ディボットはすみやかに拾って、はめ戻し、すき間に目土して保湿すれば大丈夫(一部要約)』と書かれています。ターフを戻すのはほんとうに意味がないことなのでしょうか?」

解説/石井浩貴氏

コースメンテナンスに定評があるカレドニアンGC(千葉県)のグリーンキーパー

小誌では「ターフは戻してはダメ」という記事を出したが、漫画「オーイ! とんぼ」の作中では、大井とんぼがターフ(ディボット)を戻していた。

結論から言うと、とんぼの“ディボットを戻す処置”は正しい。というのも、とんぼが参加している大会の開催コースは軽井沢で、「洋芝」という設定だからだ。

洋芝の場合、とれたディボットは、とんぼのようにすみやかにディボット跡に戻すのが望ましい。カレドニアンGCのグリーンキーパー・石井浩貴氏によると「ベントやケンタッキーブルーグラスなどの洋芝は、根が細かく、複雑に絡み合っていて水分を保持しやすいため、ターフ(ディボット)がとれても戻せば根付きやすいんです」。根に乾燥は大敵だが、洋芝の場合、根同士が絡み合うことで乾燥を防いでいるというわけだ。

同漫画では、とんぼが大きなターフをとったのを見て、登場人物のイガイガが「洋芝だからな」と言っているが、図らずもそれが処置のヒントになっている。漫画では戻すところまでしか描かれていないが、洋芝の場合のディボットは「戻し、足で踏み、もしすき間があれば(乾燥対策として)目土で埋める」のが適正な処置の流れだという。


さらに、乾燥を防ぐためには“すみやかに”がポイントになる。さっと戻せば「環境にもよりますが、3日くらいでつくこともあります。半日ぐらい放置してしまうと、えぐれた部分(ディボット跡)がすっかり乾いてしまい、根付くことはないでしょう」(石井)。とんぼのように走る必要はないが、打ち終わったらすぐに戻すことを心がけよう。

さらに「そもそも洋芝は、『わらじターフ』という言葉があるように、大きくとれることが多い。後の人のプレーのことを考えても、やはり戻さねばなりませんね」。芝のためにもなり、後続プレーヤーのためにもなる。洋芝のディボット戻し、善は急げ! だ。

しかしながら、日本のコースは洋芝よりも日本芝(コウライシバ、ノシバなど)が多く「その場合のディボットの処置はまた異なります」というのが、ややこしいところではある。ボコッととれたディボット、芝のためには戻したほうがいいのだろうか……?

洋芝以外のコースでは
ディボットは戻さない

こちらも結論から言うと、日本芝(コウライシバ、ノシバなど)の場合、ディボットを戻さず目土するのが良いという。

「日本のコースで多いコウライやノシバはディボットが飛んだ場合、ブチッとちぎれたようになります。しかし、ちぎれずに残った下の部分の組織は強靭なんです」

そのため「飛んだディボットを戻してくっつけようとするよりも、下に残った強靭な組織を生長させるほうが早いんです。目土は、その生長を促進させるためのもの。目土をしておくと、残った根の組織がほんとうに“ガッ”というように伸びてきます」

戻したディボットが根付くことは、環境によってありえなくはないが、新たな芝を生やしたほうが早いという。

カレドニアンGCで実際にプレーしていたメンバーにディボットがとれたときの処置を聞いたところ「目土ですよね」と即答。普段どおりやってみてくださいとリクエストすると、素早く目土、足で踏むという流れ。チェックした石井キーパーも「OKです!」

【ココも注意!】
目土は必ずそのコースのものを使おう

コースに置いてある目土用の砂は肥料などそのコースにあった配分がなされているので、よそのコースの砂を持ってきて目土してはいけない

ちなみに、コースが芝生を仕入れる際、業者(生産農家)は、生えている芝をうすーく切り取るという。すると「肥料をまけば下の組織が再生してまた芝が生えてきます。生え揃えば何度でも出荷できる。ですから、生産農家の畑の地面は下がっていますよ。何度も再生した芝をはぎとったからなんです」

もし、プレーヤーが大ダフリして大きなディボットをとったとしても、下の組織が生長しないとは考えづらいという。それほど、日本芝は再生力がある。目土をしなくても生えるほどだが、地面がデコボコになるのは良くないし、もちろん早く再生したほうがいいので目土が必要だ。

では、ディボット跡には目土をするとして、散らかしたディボットを放っておくのはどうなのか?「うーん、管理側もたくさん拾って回るのは大変ですが、それをゴルファーが拾っていたら、スロープレーになってしまいますよね」。確かに日本芝でディボットをとった際は、洋芝のわらじターフなどと違い、細かく飛び散るケースが多く回収は困難だ。「マナーとして気になるようなら回収して袋などにまとめてコースの人に渡す、などですかね。でも、それで進行が遅くなるようなら考えものです」

これを拾いだすとキリがない

ディボット拾いでスロープレーになっては意味がない

また、これまでに説明した洋芝は、いわゆる寒地型の芝だが、それとは別に暖地型のバミューダグラスなどを採用しているコースもある。「これはまた難しくて、ディボットを放っておくと、その場所で活着してしまうケースもあるんです」。また、バミューダでなくとも「グリーン上にフェアウェイの目土用の砂をまく人もいるのですが、グリーンはまた別なので、やめたほうがいい」とのことで、芝の世界は実に奥が深い。処置がわからなければキャディに聞くのが一番だが、セルフならスタート前にマスター室で聞いておこう。

週刊ゴルフダイジェスト2021年11月2日号より