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【目澤秀憲の目からウロコ】田中ウルヴェ京編②「指導者が感じる選手のメンタル問題とは」

目澤秀憲コーチが、異業種からゴルフのヒントを得る連載「目澤秀憲の目からウロコ」。前回に続き、スポーツ心理学者の田中ウルヴェ京氏に話を聞いた。

TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Hiroaki Arihara

田中ウルヴェ京 スポーツ心理学者(博士)。アーティスティックスイミング五輪メダリスト。引退後は米国大学院でスポーツ心理学を学び修士、2021年に博士号取得。現在はトップアスリートをはじめ、経営者などのトップパフォーマーの心理コンサルティングに携わり企業研修や講演なども行う
目澤秀憲 ゴルフ界の最先端を知り尽くすコーチ。現在は河本力、金子駆大、永峰咲希、阿部未悠などを教える

>>前回のお話はこちら

競技と関係ないことが
問題となることもある

―― 前回、メンタルは単に「強い」、「弱い」ではなく、強い幹と「しなやかさ」が大事だという話がありました。しかし何らかの原因でメンタルの「しなやかさ」が失われているケースも多いように感じます。

目澤 それはボクも感じます。たとえば、「ちょっとこうしたらどう?」みたいな、技術的なアドバイスをしたときに、選手がそれを「否定」ととらえてしまうとか。


田中 指導者側からすれば、「選手が否定的な捉え方をする」、「技術アドバイスに過度に落ち込んでいるように見える」といったことがあると「選手のメンタルの問題なのか?」と思うことはあるでしょう。当然、選手と指導者との関係性に原因があることもありますが、一方で指導者とまったく関係ない部分に根本的な原因があったりもします。選手自身の思考傾向だったり、日々の生活での環境変化だったり。直接、指導者には伝えにくいプライベートの悩みに意識が引っ張られていることもありますよね。それらは「メンタルの問題」というよりは、「気分や思考に影響する外的状況」の要素ですから心理の専門家とともに思考整理することで解決できる内容であるとも思います。

目澤 なるほど、同じ言葉をかけても、気分によって「はい、わかりました」と素直に聞き入れられるときと、「納得できません」と反発するようなときはある気がします。「コーチは自分のことを全然わかっていない」みたいな感じになると、そのあとのコミュニケーションが難しくなりそうです。

田中 そうですね、たとえば、「コーチは自分のことを全然わかっていない」という言葉をもしも選手が出してくれたら、「その言葉の真意は何か」を伺うことで、選手本人も気づいていなかった本当の悩みや原因が見えてくることもあります。その選手本人の「言葉の奥にある本音」といったものをいろんな方角から伺うことで、その選手の心の「映像」を見えるようにする。そんな状況を心理の専門家としては作っています。

目澤 悩みというと、将来に対する不安といったものはどうでしょうか。「結果が出なかったらどうしよう」だけじゃなくて、選手としてのピークを過ぎたら、「その先の人生をどうしよう?」というのはアスリートにはよくある切実な問題です。自分もプレーヤーだった時期があったので、それに見切りをつけてコーチの道に進むときにはすごく悩みました。

田中 将来の不安に対する対処行動は、結局「今日の自分が何をするか」の意思決定と、継続行動でしかないのだと頭ではわかっていても、誰しもが感じる不安だと思います。

目澤 あと10年か15年したら、コーチという「技術屋」としての自分も「終わりにしなくちゃいけないな」という考えが漠然とあります。ゴルフのプロツアーの現場、とくに女子ツアーは10代、20代が多く活躍しますから、そこに50代の自分がいると「迷惑」だなと(笑)。

田中 「50代は迷惑」という言葉は還暦近い私としては耳が痛いですね(笑)。私自身も30代前半までは日本代表コーチをしていた身ですから、当時の私も「自分の足技とか技術を選手に見せて指導するには限界があるな」と思ったものです。心理学をキャリアの軸にしていきたいと思い始めたのもその頃でした。ゴルフは心技体、そして戦術、戦略といった多面的な要素を含む素晴らしいスポーツだと思います。目澤さんなら70代、80代になってもさらに深みと厚みのある指導者になられるのではないですか?(笑)

感情そのものはコントロールできない

何か「不安」の感情が芽生えることがあった場合、「努めてそれを『言語化』するようにしている」と、田中氏。例えば将来への不安一つとっても自分で言葉にすれば解決法も見えてくる。「このモヤモヤは何か。自分の能力への不安なのか、それとも他人の評価に対する不安なのか」など言葉にしてみると必要な行動も見えてくる。「例えば『不安』といった複雑な感情は自分自身を成長させるための脳からの貴重なデータ情報でしかない、という思考法がある。そもそも、感情自体は大切な脳からの情報だからコントロールはできません。感情の原因に気づいて自分にとって必要な『行動』を選択することが大事で、それにはまず言語化が有効です」(田中氏) 

「本当の最悪はコーチの頭の中だけで起こればいい」
普段から「ネガティブに準備する」と、目澤コーチは言う。試合に臨む前の段階では、本番で選手に起こり得る「最悪の事態」を想定して、仮にそれが現実になっても乗り切れるように指導する、というのがその真意。「田中さんも、『想定外すら想定内にしておきたい』とおっしゃっていて、それは宇宙飛行士が地球上でやっている準備とも共通するんだそうです。宇宙で想定外のことが起きてしまったら、それは死に直結することかもしれませんが、ゴルフは命までは取られないので、あくまで準備はしっかり、試合になったら意外と楽観的に見守っています」(目澤)

月刊ゴルフダイジェスト2026年7月号より