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【ギアラボ】テーラーメイド「ステルス」 なぜ、カーボンフェース? 脱チタンが生み出す未踏の初速性能

ギアラボ
2022.01.24

ドライバーのヘッド素材がステンレスからチタンに変わって約25年。いまやドライバーのほぼ100%がチタンフェースを採用しているなか、テーラーメイドがフェースに全面的にカーボン素材を使った新ドライバーを発表した。その名も「ステルス」。22年間アイデアを温め、秘かに開発を続けてきたという「カーボンウッド」の性能を解き明かしていこう。

PHOTO/Hiroaki Arihara、Yasuo Masuda THANKS/GC成田ハイツリー、丸菱バイオエンジ

300ccヘッド時代に
ステルスの胎動は始まっていた

解説/宝田 亘(東京工業大学助教授)

東京工業大学・塩谷正俊准教授の研究室にて、炭素材料、繊維材料、複合材料の構造と物性に関する研究を行う「カーボン」のスペシャリスト

ほぼ100%のドライバーがチタン合金を使っているフェース部分に、カーボン素材を採用したというテーラーメイドの新ドライバー『ステルス』。従来の常識を覆してフェースをカーボンにするメリットはいったいどこにあるのか。東京工業大学の宝田亘助教に話を聞いた。

「カーボンは、チタンと比べると軽くて硬い素材です。従来は、軟らかく伸びる素材であるチタンのフェースがインパクト時にたわむことでボールの変形を抑えエネルギー効率を高めていました。しかし硬いカーボンをフェースに使うということは、これとはまったく逆の発想ですから、すごい挑戦だと思います」

本来、インパクト時には物体の変形がないほうがエネルギー効率は高いが、フェースが硬いとボールが潰れすぎ、エネルギーロスを起こしてしまう。そのためフェースを軟らかくし、いわゆるトランポリン効果で初速を高めていたわけだ。

「フェースを硬いカーボンにすれば、従来捨てていたエネルギーもボールに与えることができますが、ボールが潰れすぎるとボール初速の向上にはつながりません。推測ですが、ボディの変形などを利用して〝受け〞を作り、エネルギーを蓄えているのでは。フェースが変形しなければスイートエリアは広がり、方向性はよくなるはず。従来と逆の発想を捨てず、出口があると信じて20年間研究費を注いできた研究者とメーカーは、すごいですね」

一方、テーラーメイドのプロダクト担当・高橋伸忠氏は、「ステルス」の開発ではカーボンの軽さを重視してきたと話す。

「カーボンの採用で、チタンよりもフェースを約半分の重量に軽量化できたんです。これによってフェースを軽く、ボディを重くできるわけですが、これで“動的な”慣性モーメントの向上を実現しました。スウィング中、ヘッドは静的=止まった状態ではなく動的=動きながらインパクトします。この場合、慣性モーメントの数値が同じでも、後方が重いヘッドのほうがボールを後ろから押せるので、ボールを勢いよく弾き出せる。ヘッドがグラつかず、高い伝達効率で飛ばすことができるんです」

軽くて硬いフェースがインパクト時にストッパーとなり、重いヘッドが後ろからそれを押し込む。これがカーボンフェースの効果と言えそうだ。


室田氏が考える
フェースをカーボンにするメリット

(1)フェースを軽く、硬くできる
チタンよりも軽いためフェース部分を約半分の重量に軽量化でき、そのぶんヘッド後方を重くできた。また弾性率が高い(硬い)ためインパクト時のエネルギーロスが生じにくい

(2)設計の自由度が高い
カーボン繊維をシート状にし、それをどういう向きでどのように重ねるかによって素材の特性を自在に設計できる。「ステルス」ではカーボンシートを60層重ねたという

(3)熱を入れずに成型できる
鍛造や鋳造で成型するチタンと異なり、低温成型(百数十度)できるため熱ひずみが起こらず、均一性が高い。そのため製品精度が高く、個体差もほとんど生じない

(4)打球の方向安定性が高まる
インパクトでフェースが変形しないことに加え、ヘッド後方を重くできるのでインパクト時のヘッドのグラつきが抑えられ、高い方向安定性を実現できる


「グローレリザーブ」がひとつの試金石だった

2000年からカーボンフェースの開発を続けてきたというテーラーメイドだが、実は2013年に発売した「グローレリザーブ」で一度カーボンフェースを市販ドライバーに採用していた。その経験が「ステルス」に生かされているという

カーボンフェースが生む
この初速は事件だ

試打・解説/横田英治

長年「D-1グランプリ」の試打隊長を務める。プロ、アマ問わずわかりやすいレッスンが人気。今春千葉県に総合ゴルフサロン「クラブハウス」をオープン予定

『ステルス』シリーズは、スタンダードモデルの『ステルス』のほかに、つかまった高弾道が打ちやすい『ステルスHD』、スライディングウェイトを搭載した『ステルスプラス』の3モデルがラインナップされている。この3モデルをおなじみ横田英治プロに試打してもらった。

「どのモデルも、すごくボール初速が出ています。そして低スピン。“高初速・低スピン”という飛びの条件が2つそろっているわけですから、すごいポテンシャルを秘めていると思います。しかも低スピンということは、ミスヒットなどでボールの回転軸が傾いた場合でも曲がりにくい。まさに“飛んで曲がらない”ドライバーだと思います」

これに加えて横田プロが驚いたのは、打感。過去のカーボンフェースドライバーはいずれも「ボコッ」というこもった打球音で飛んでいる感じがしないものばかりだったが、この『ステルス』シリーズはそれを完全に払拭したという。

「チタンの打感とは少し違いますが、フェースにボールが吸いつく心地よい打感で、飛んでいるという感触がちゃんとします。3つのモデルは弾道が高い順に『ステルスHD』『ステルス』『ステルスプラス』となっているので、求める弾道の高さで選べば、誰もが高初速・高打ち出し・低スピンで飛ばせると思います」


【KEY TECHNOLOGY 1】
ウェットな条件でもスピンを最適化するフェース

カーボンシートを60層重ねたフェースの上にPUコーティングとグルーブ加工を施すことで、低スピンを確保しつつ、ウェットコンディションでもスピンが減りすぎず、つねに最適スピンを実現する

【KEY TECHNOLOGY 2】
SIM2からさらに進化したエアロダイナミクス

「SIM」シリーズから採用された「イナーシャジェネレーター」をさらに進化させて搭載。流線形クラウンや軽量フェースなどの効果も相まって空気抵抗の低い優れた空力性能を誇る

【KEY TECHNOLOGY 3】
カーボンでも採用したツイストフェース

「M3」「M4」から受け継がれている「ツイストフェース」を引き続き採用。もちろん従来よりもフェース面が20%広がったカーボンフェースに合わせた新設計で、さらに曲がりを抑制できるようになった

【KEY TECHNOLOGY 4】
カーボンの初速性能を高める貫通型スピードポケット

ソール前方には、テーラーメイドのウッド類ではすでにスタンダードとなっている「貫通型スピードポケット」を採用。過去のモデルをさらに超える高初速を実現している

【KEY TECHNOLOGY 5】
タイガー使用の「PLUS」にはスライディングウェイトを搭載

カーボンシートを60層重ねたフェースの上にPUコーティングとグルーブ加工を施すことで、低スピンを確保しつつ、ウェットコンディションでもスピンが減りすぎず、つねに最適スピンを実現する


誰もがカーボンの威力を体感するには
3つのヘッドが必要だった

やさしい「HD」でも
圧倒的な初速と低スピンが味わえる

STEALTH

軽いフェードで飛ばせる。叩いても左が怖くない

「中弾道で、素直に打つと自然なフェード。初速が速く、多少芯を外しても初速が落ちないし曲がらないうえ、左に行く感じがしないので思い切って叩けます」(横田・以下同)

ヘッド速度初速ミート率スピン量打ち出し角キャリートータル
48.3m/s72.7m/s1.511805rpm12.0度268.8Y301.2Y
ヘッドスピード48.3m/sに対して72.7m/sという驚異のボール初速。打ち出し角12度とやや低めだが、約1800rpmの低スピン弾道でボールが前へ伸びていく。トータル300㍎超えのビッグドライブが出た

STEALTH HD

ヘッド速度が遅めでも“飛ぶ”弾道が打てる

「見た目はスタンダードモデルと区別がつかないきれいな顔ですが、打ち出しは明らかに高い。つかまりもよく、パワーのない人でも高弾道・低スピンが打てます」

ヘッド速度初速ミート率スピン量打ち出し角キャリートータル
48.2m/s71.8m/s1.491993rpm12.5度265.6Y299.1Y
スタンダードモデルよりも打ち出し角がやや高く、バックスピンも200rpmほど多いので球が上がりやすく、ヘッドスピード遅めの人でも飛ばせる。それでもバックスピンは2000rpm未満と非常に低スピン

STEALTH PLUS[セレクトフィットストア限定]

ヘッドスピード45m/s以上あると性能を出し切れるモデル

「かなりの低スピンで、ヘッドスピードが45m/s以上ないとドロップしそう。そのぶんハードヒッターにとっては強いライナーで狙ったところに飛ばせます」

ヘッド速度初速ミート率スピン量打ち出し角キャリートータル
47.4m/s71.3m/s1.501559rpm11.8度262.5Y299.6Y
打ち出し角11.8度の中弾道で、バックスピン1559rpmと超低スピン。ライナー性の直線的な弾道でランも多く出る。ヘッドスピードが不足するとキャリーが出にくいがハードヒッターほど性能を引き出せるだろう

月刊ゴルフダイジェスト3月号より