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【ティアドロップ物語】Vol.1 クリーブランド「雫のような曲線デザインの誕生」

TEXT&PHOTO/Yoshiaki Takanashi(Position ZERO)

現在主流となった「ティアドロップ」型のウェッジは、どのようにして誕生し、受け継がれてきたのか。連載第1回目は「ティアドロップ型」の元祖、クリーブランド「ツアーアクション588」の誕生物語を紐解いていく。

1988年
クリーブランド「ツアーアクション 588」

「Tour Action 588」ウェッジ。略して「TA588」。名前の由来は「1988年にデザインした5番目のモデル」というもの。異例のロングヒットを記録し、デビュー期のタイガー・ウッズも56度、60度を使用していた

ロジャーが生み出した
ツアーニーズの集大成

プレーヤー自身の手でクラブをいじる。90年代に入る頃まではそれが当たり前だった。南カリフォルニアのプロゴルファー、ロジャー・クリーブランドのもとには、仲間のプロからひっきりなしにクラブ調整の相談が舞い込んできた。彼らも自分でヘッドを削ったり、シャフトを挿し直したりしてはいたが、途中から手先が器用で、おまけに鋭いクラブの審美眼を持つロジャーに任せてしまうほうが確実だと気付いてしまったのだ。彼に相談すれば、どうにも構えにくかったクラブが見違えるようにピタッとアドレスできるようになり、よいショットのイメージがどんどん湧いてくる手放せない愛器となるのである。仲間うちで評判が巡るのは早い。ロジャーの仕事は日ごとに増えていった。

多くの調整依頼を引き受けるうち、彼は疑問に思った。「なぜ、みんなクラシッククラブのウェッジを後生大事に使っているのだろう?」。80年代だというのに、多くのプロが58年、59年、62年製の『ウイルソン ダイナパワー』や、60年代の『トップフライト』のウェッジを大事に使っていた。大手メーカーが新製品を出しているのに、プロたちはそれよりも20年も昔のウェッジを、自分で顔やソールを削りながら大切に使っていたのだ。古いモノを上回る、新しいウェッジがなかったからだ。

では、どのようなウェッジであれば、プレーヤーたちは“その気”になって最新ウェッジに替えるのだろうか。ロジャーはピーター・トムソン、デーブ・ストックトンといった親しいプロ仲間と最良のウェッジについて議論を重ね、その意見を参考に新しいウェッジを開発してみることにした。いつしか、自らがプレーすることよりも、自分の調整したクラブで仲間が好成績を挙げることに大きな喜びを感じるようになっていたのだ。

スクエアでも、開いても
違和感なく構えられる

ウェッジの好みは千差万別である。ロジャーは試作品を作ってはツアー会場に出かけていったが、同じウェッジでも、ある者は構えやすいと絶賛し、ある者はこんな形ではしっくりこないとNGを出した。誰かの意見を重視すれば、誰かのニーズを満たせなくなる。このプレーヤーごとのこだわりの違いこそが、プロがクラシックモデルを使い続ける理由でもあった。

ロジャーはいくつもの試作ヘッドを作るなかで、次第にリーディングエッジのカーブや位置に注目していく。刃先の曲線や出方を変えることで、好みがハッキリと分かれることがわかってきたからだ。そして88年、比較的多くのプロからポジティブな感想を得られるヘッドが見つかった。それは、その年に作った5番目の試作品だった。

08年、筆者が米国クリーブランド社に取材に訪れた際に見せてもらった『TA588』の形状サンプル。油性ペンで“MASTER”と走り書きされているOrigin感にドキドキした。ヒール部の高さを抑え、ハイトウに向かって大きくアールしたトップライン。丸みのあるリーディングエッジに雫のような曲線でヘッドの外周をつなぐ。この曲線シェイプが、スクエアでも開いても違和感なく構えられる秘密

低いヒールから高さのあるトウに向かって大きく曲線を繋ぎ、そこから一気にカーブを強めたラウンドトウ、そしてノンオフセットでしっかり丸みをつけたリーディングエッジへと一筆書きで繋いでいく。箱型でも円盤型でもない、まさに「雫(ティアドロップ)」のような曲線デザインだった。

このデザインはスクエアに構えたときには細面(おもて)に見えてライン出しが容易にでき、フェースを開いたときには丸みのあるリーディングエッジが利いて、フェース向きにとらわれることなく自然に構えることができた。つまり、スクエアに構えたい派にも、フェースを開いて使う派にも受け入れられる“汎用性”の高いカタチだったのだ。

多くのツアープロに選ばれた、88年に作った5番目のヘッド。それがクリーブランド『ツアーアクション588』である。どんなアプローチスタイルでも違和感なく構えられるからこそ、ティアドロップ型は変えることが許されないツアーウェッジのマスターシェイプとなっていった。

受け継がれる「雫」形状

クリーブランド「RTX ZIPCORE ツアーサテン」

80年代から90年代中盤まで、日本においてはジャンボ尾崎考案の「J’sウェッジ」が一世を風靡。ヒールが高く、リーディングエッジはストレート。オフセットも強いためフェースを開かずスクエアに打っていくイメージが出しやすい。このウェッジが主流だったため、日本ではティアドロップ形状のウェッジを「アメリカンウェッジ」と表現していた

週刊ゴルフダイジェスト2021年8月10日号より