Myゴルフダイジェスト

浴室のビニール袋、ペットボトル……ゴルファーができる「サステナブル」を考える

近年よく聞く「サステナブル」とは「持続可能な〜」の意味。社会・経済・環境の観点から人類を持続可能なものにしていく考え方だ。ゴルフ界でもその取り組みは広がっており、これらは実は我々がゴルフや生活を楽しく続け、未来へ伝えるためにある。識者や企業に話を聞いた。

「ゴルフとサステナビリティには
親和性がある」

脱炭素社会やサステナブルな取り組みについてウェブサイトやSNSで情報発信をする「エナジーシフト」発行人、前田雄大氏によると、「サステナブルとは、文字通り“持続していくことが可能”という概念です。『情けは人のためならず』という言葉のように、自分のしたことが回り回って自分に返ってくるという考え方ともいえる。自分だけではなく、子どもや孫世代にまでです。ただ日本では、環境への意識や個々が行動に移すというところで進んでいない面があります。たとえば国際問題でもある海洋プラスチックに関して、身近な“自分事”としてとらえてない方も多い。海に流れて微細化したプラスチックがいつまでも分解されず、実は自分が食べている魚に入ってくることは可視化されませんから」

ゴルフ界はどう見えている?

「アディダスが率先して取り組んでいますね。海洋プラスチック削減のため、バージンポリエステル使用を廃止し、リサイクルポリエステルを使用したウェアやシューズなどのゴルフ製品を提供したり、ゴルフ場でできるSDGsについてのワークショップを開いたり。スポーツ業界で見ると、ナイキやアシックスなどもシューズなどでサステナブルな素材を使用しています」

また、ゴルフ場の風呂場のビニール袋削減などの取り組みも、意識をつくるきっかけになっているという。

「たとえばコースから簡易髭剃りや歯ブラシがなくなったことを疑問に思えば、これはプラスチック問題を考えるきっかけづくりになると思うんです。ゴルフが環境問題との接点になる。また、日本では森林を切り開くことをよしとしない文化がありますが、本来森林は管理しなければならないもの。ゴルフ場も、きちんと人の手を加えることで里山の管理につながりますし、これは地方においても長い目で見るとサステナブルの観点から大事だと思います」

ゴルフとサステナビリティの考え方には親和性があると前田氏。

「ゴルフって緑の中で行うスポーツ。だから、自然のことについても考えやすいですよね。最初は、概念がよくわからなくても、何となく格好いいと思ってもらうだけでもいい。意識することが大事です。そのためには、サステナブルな商品を身に着けているプロゴルファーの方にもっと発信していただいたり、インタビュアーの方にもそこに注目して質問してほしいですね。実はサステナビリティの世界では、年配の方のなかに、自分たち世代にはあまり関係のないことだととらえる方がいる、その方々にどう行動変容していただくかも1つの課題になっています。ゴルフは老若男女できるスポーツですから、ゴルファーが率先してサステナブルに取り組んでいく流れができると、すごく広がりがあると思います」

「破綻せずゴルフ場として
続けることが大事」

ゴルフ場運営のコンサルタントを行う「エナジー」代表、菊地英樹氏は語る。

「2、3年前から、会議の場でコースのHP制作の方などからサステナブルという言葉を聞くようになりました。コースでは、プリンスゴルフリゾートさんがいち早く取り組んでいますね。お風呂場のビニール袋を削減したり、電動カートにしたのも早かった。母体がホテルなので一般のお客さんを相手にしていることもあり、先進性があります」

それ以外にも、ビニール袋をやめたりトイレのタオルをやめてペーパーにしたりするコースはあるというが、「これらは経費削減にもなるんです。ペンシルやマーカー、スコアカード(ナビに付いているので)を希望者にしか渡さない、なども同様です」と菊地氏。経費削減が結果的に自然環境への取り組みになる部分もあるという。

「ゴルフ場のサステナブル活動には2つの大きな要素があると考えていて、コース管理の手法につながる自然環境の持続性と、経済的な持続性です。どちらも大事。コース管理でいうと、たとえばOB杭をなくす。ルール変更もあったので、白ではなく赤杭にして、入ったら1ぺナ。すると管理も楽だしプレーの進行もスムーズになる。また、経費削減で手間がかけられず自然に戻す場合もありますが、これもよいことですよね」

サステナブルな思想のコースは本来メンテナンスにお金がかからないはずだが、ゴルファー自身が許さないこともあるという。

「たとえばプレーゾーン以外を野地にすると、ボールを失くすと不満が出る。するとまた短く刈ったりして手間がかかる。日本人はオーガスタナショナルGCを理想としすぎる面もあるようで、全英オープンで使うようなリンクス風コースは酷いと思う方もいます。でも、今の世界のコース設計の主流は、『モダンクラシック』。ベン・クレンショーやトム・ドォーク、ギル・ハンスなど。管理している場所とそうでない場所のメリハリがある。自然環境を最大限に生かす、人間の手で無用な造形を入れない、プレーゾーン以外は自然に戻すなどが基本です。わかりやすく言うと俗にいう『アメリカンスタイル』と呼ばれるコースではなく、スコットランドのリンクスのようなそのままの自然を生かしたコース。雑誌の企画などでトップ100に入るコースのうち、新設で上位にくるコースも確実にコレ。改造した横浜CCもそうですね」

サステナブルなコース運営について、菊地氏はこう語る。

「どこも経営が厳しいなか、破綻せずに生き残ること、ゴルフ場として続けることこそが持続性という意味では一番かと思います。ゴルフ場は開発許可も大変厳しく、土石流なども出ないように対策を立てて造られている。ですから、そこに存在している限り問題なく、環境保全にもなると思います。廃業せずに頑張ることこそゴルフ業界のサステナビリティにつながるのではないでしょうか」

2014年に全米オープンを開催したパインハースト。「このとき、クレンショーが改造して話題になりましたが、これがいわゆるサステナブルなコースです」(菊地氏)

サステナブルに積極的な
企業は常に「行動する」

【大箱根CCの場合】

「じつは合理的で効率的な方法なんです」

サステナブルな取り組みをいち早く入れたプリンスゴルフリゾート。ハウス内でもコース管理でも積極的な大箱根カントリークラブに聞いた。

「コース全体としては、プラスチックストローから紙ストローにしたり、食品ロスを減らすためブッフェからセットメニューにし、地産地消の食材を取り入れたり、割り箸は希望者のみにお渡ししたりしています」というのは、マーケティング戦略担当の中野久美子さん。

また、05年からコース管理の責任者を務める崎山朋己氏によると、

「15年にSDGsが国連で採択され、16年にR&Aがゴルフ場経営も含めコースに関してのサステナブルな取り組みの指針を出し、その後日本に伝わりました。会社でも取り組みを推進するなかで、私自身もコース管理としてできることを考え、17年くらいから徐々に始め継続しています。ゴルフ場は、農薬による水質汚染などが言われたこともありますが、調べると国内で使われる農薬のゴルフ場に占める割合は全体の3%くらいと言われている。残りは野菜や米などの食物に多く使われている。それに農薬は散布した後、時間とともに必ず土の中で分解される。今は農薬取締法で厳しく管理もされており、正しい使い方をすれば、実際環境汚染はないと考えます」

大箱根CCのコース管理においてのサステナブル活動は、(1)コースの地形と土質に合った管理、(2)適切な芝種の選定、(3)メンテナンスエリアの見直し、(4)生物多様性に配慮したメンテナンス。詳細に工夫されているので、ぜひHPでチェックしてほしい。「コース管理での活動は欧米では浸透していますが、日本ではこれから。どんどん浸透してプレーヤーにも伝わっていけばいいですね」(崎山氏)(写真提供/大箱根CC)

ただ農薬や肥料の使用量を減らすだけに留まらず、時代に合った活動を考えているという崎山氏。

「地域社会ともっと連携し、教育や福祉などにまで及ぶ事業の展開を考えていかなければいけない。地域社会におけるゴルフ場の在り方のモデルケースとなればいいと思っています。コース管理のスタッフ不足や予算が絞られてくるなかで、お金がないからコースが汚くなるというネガティブな発想では考えたくなかった。合理的に効率的に考えたとき、サステナブルな考え方でやるのも1つの方法かと。費用が余計にかかるわけではない。今、金銭的な成果などのデータをまとめている最中です」

難しいのは、考え方をスタッフ全員に浸透させること。

「ただコースを整備するのではない、目的や考え方に対する意識づけです。皆で考えればもっとよいやり方も出てくるはずです」

この取り組みが社会全体に評価される時代がくることが望ましい。

「たとえば融資を受けたときに金融機関が金利を優遇してくれるとか、ある程度国が補助を出してくれるとか。プレーヤーさんはゴルフを楽しみにいらしていますから直接伝えるのは難しいですが、ゴルフはイマジネーションが大事。風を読んだりして自分の技量と合わせてゲームを組み立てプレーするところに面白みがある。だから、あまりにコースコンディションにこだわりすぎないほうがいいかとも思います。そして、お風呂場にビニール袋がないコースはケチだなんて思わず(笑)、エコバッグの持参などにもつながればいいですね。サステナブル活動が当たり前になり、暮らしやすい社会をつくっていかなければいけない。そのなかでゴルフ場として何ができるのか、考えていきたいです」

【アディダスの場合】

使用素材を2024年までにすべて
リサイクルポリエステルに

アディダスが取り組むサステナブル活動は「END PLASTIC WASTE」。末永くずっとゴルフを楽しめる環境づくりのため率先して行動してきた。アパレルやシューズに使用するポリエステル素材を2024年までにすべてリサイクルポリエステルにする目標を掲げ、現在約90%までに迫る。プラスチック廃棄物をアップサイクルして生まれた素材で作られた製品を続々発表しているが、もちろん機能性も抜群だ。

契約プロでもあるザンダー・シャウフェレは、プラスチック廃棄物の問題にゴルフ界が取り組む必要性を問われたとき「個々が気にかけていないといけない問題。プレーする場所が野外なのでスポーツのなかでも独特の立場にいる。僕らの場所を守るために取り組むべきだ。まずはトーナメントからペットボトルが減るとよいなとも思う。シンプルだけど、同じ思いの選手は多い。サンディエゴのコーヒーショップはグラスボトルで提供してくれる。無駄なごみを減らせるよいアイデアだし、小さいけれど効果があると思う。僕は練習中はマイボトルを使っているけど、試合では、全試合とまでは言えないので、そこが改善点です」

一人一人が意識を向けることからゴルファーのサステナブル活動は始まるのだ。実はアディダス社では、コンビニで買ったビニール袋を持ち会社に戻ると注意されるくらいだそう!

また、R&Aは19年の全英オープンでペットボトルを排除しウォーターステーションを設置、12万3000本も削減したが、今年、カーヌスティで開催された全英女子オープンでも、アディダスとマスターカードと組んで同様の取り組みを行った。

「環境を継続的に育成し、トーナメントが残す影響を最小限に抑えることが重要。水イニシアチブはこの目標を達成するための1つのツールです」(R&A、フィル・アンダートン氏)

プラスチック廃棄物は地球上の大きな問題。海洋とコースはつながっており、我々の生活ともつながっている。アディダスのゴルフ界をリードするサステナブルな行動に注目したい。

7月にはアディダスゴルフ主催で
座談会が開催された

アメリカ育ち、現在日本ツアーで活躍中のエリック杉本プロは「アメリカは意識が高い。お店にもプラスチックバッグはないし、紙ストローも普通です。これからツアーでできることはまずマイボトルの使用などでしょう。未来の子どもたちにとって綺麗な地球であり続けること、自然と一緒にゴルフできる環境であり続けることを考えていきたいです」。茅ヶ崎GL総責任者の伊藤修武氏は「ゴルフはサステナブルな意識を持てるアクティビティでありスポーツ。コースが緑を守る理由は、環境問題だけにとどまらず、災害時の避難場所の観点からでもあります。地域の人々に近くにゴルフ場があってよかったと思われるとよいです」。人気レストラン「HxM」オーナーの相山洋明氏は、「フードロスの観点から言うと、食べ残さないことだけでも大切。有機野菜を泥が付いたまま直接農家さんから仕入れると過剰包装も減り、地産地消の推奨は運ぶエネルギーの削減になりますよね」。アディダスゴルフの木戸脇美輝成氏は、「皆さん、それぞれの立場で行動がある。難しいテーマではありますが、僕も引き続き学んでいきたい。小さな一歩からでも始めたいですね!」

週刊ゴルフダイジェスト2021年9月21日号より