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【ゴルフ野性塾】Vol.1749「原稿書き。球叩き。二足の草鞋」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

女房殿が元気だ。
2カ月前、冷蔵庫

と洗濯機に不具合が生じ、それでも女房殿は何とか使いこなして来たが、1カ月で洗濯機が動かなくなった。冷蔵庫は冷凍力が弱まり、アイスクリームがシャーベット状となった。
女房殿は諦めた。
買い替えを宣言した。
女房殿と44歳になる長男雅樹と私の3人で博多駅近くのベスト電器へ行った。
1時間半後、新たな洗濯機と冷蔵庫が決まった。私はその間、試し体験させてくれるマッサージチェアの上で過していたので、洗濯機と冷蔵庫の選定に加わってはいない。雅樹は携帯電話持ってどこかに行った。
ただ、最終決定する30分は女房殿に付き合ったらしい。
決った。
冷蔵庫の撤去と新しい冷蔵庫の納入は9月8日の午前11時と決った。
今日である。
現在時、9月8日午前9時35分。
私はいつも居間のテーブルで原稿を書くが、古き冷蔵庫の中を拭いていた女房殿が、あと1時間20分と叫んだ。
女房殿も急ぐし、私にも急げの声だった。私に焦りはなかった。女房殿を見た。笑っていた。楽し気だった。
冷蔵庫の中を整理出来たし、新しい冷蔵庫にはなるし、いい事ばかりネ、と言った。
洗濯機の入れ替えは9月22日である。
長男雅樹が福岡県豊前市の高校を卒業して日大経済学部へ進学した年、長女寛子が15年間住んだ豊前市の角田中学を卒業して福岡市内の高校に進学した時、私達は福岡市中央区の今泉へ引っ越した。
古き冷蔵庫と洗濯機は今泉へ持って行ったと記憶する。

球ァ叩いて生きて行けるは幸せな事。


つつましいプロゴルファーだった。
ツアー参戦したが予選通るか通らないかの成績を続けており、通っても最終成績50位前後、予選落ちた時の順位は1打足らずのスコアが多かった。
そして、ペンを持った。
37歳の時であった。
自戦記、観戦記を書いた。
球ァ叩かなくてお金貰えるなんていい商売だな、と私同様、予選通るか否かの生活を続ける先輩プロが言って来た。
中嶋常幸は逆の事を言った。
球ァ叩いてお金貰えるのが一番いい商売なのにどうしてそんないい商売から離れるんだよ、と言った。
成績の作る立場の違いを感じた。それが同じプロゴルファーでもプロの違いとゆう事を改めて認識させられた時だった。

今泉に1年、中央区大名のマンションに2年、そして現在も住むけやき通りのマンションに移り住んで22年が経つ。
福岡の中央区に住んで25年が経った訳だ。
私は74歳を過ぎてあと2カ月で75歳になる。女房殿の年齢は書けば機嫌悪くなるので書けません。雅樹と寛子は来年の2月で45歳と42歳だ。
雅樹は独身、寛子は亭主と2人の子持ち。長女ひなたは中学3年生、長男景登(けいと)は小学3年生。
皆、元気である。
「これで私が死ぬ迄、冷蔵庫と洗濯機の心配しなくて済むわ。御主人様、有難う」と女房殿が言った。
大きな買物する時、女房殿は私を御主人様と呼ぶ。
雅樹と寛子は父上と呼ぶ。
小さな買物の時や日頃の会話時、女房殿は信さんと言い、雅樹と寛子はお父さんと言って来る。孫2人はお爺チャンだ。

昨夜、夜のけやき通りを歩いた。一気に秋の気配に変ったとは言え、昨夜は冷え込んだ。
こうも暑さ変るのかと思いながら歩いた。
私と女房殿と雅樹が住むけやき通りの15階マンションから2キロ離れた大濠公園迄、行った。
疲れた。
大濠公園内のベンチに座った。大濠の波は静かだった。少し眠ったと思う。そして戻った。
現在時10時15分。
11時迄には書けそうもない。
冷蔵庫搬出搬入の時間は1時間と思う。その間、和室で過しゃいい。30分、1時間、2時間と短い時間眠るのは得意だ。そして起きた後、すぐに食事出来るし、原稿書く事も出来る。球ァ叩くのもだ。
野球に例えれば私はリリーフ向きなのかと思う。
プロゴルファーは常に先発から始まる生活で生きている。
野球の様な競技の繋ぎはない。
1番ホールから18番ホール迄は一人である。しかし、私にとってはいい商売だった。
「これからも続くが、プロゴルファーの女房、良かったか?」と女房に聞いた事がある。
「最高でしたよ。そしてこれからも続くと思えば感謝しかありません。私の人生って本当に幸運だったと思います。確かに結婚した後の8年間、豊かじゃなかったけど貧しいと思った事もないし、やっぱり雅樹と寛子と過せて楽しかったわ。そしてこれからはひなたと景登もいるし、1日1日が楽しいばっかりよ」

孫のひなたと景登は1週間に2度は遊びに来る。
来る理由は女房殿の作る夕御飯だ。料理苦手と言う女房殿も頑張る。私と雅樹は黙って食べるだけ。
「洗濯は洗濯機が洗ってくれるし、乾燥もしてくれるし、食器洗いは食洗器がしてくれるし、主婦も楽な商売になったわ。これで文句言ったらバチが当るの間違いなしネ」
女房殿の手が止った。見れば冷蔵庫の扉が閉っている。冷蔵庫内の掃除が終ったのだろう。
現在時午前10時35分。
業者に来て貰う25分前準備完了であった。
私は140字詰めの原稿用紙あと5枚書かねばならぬ。
やっぱり無理だ。
女房殿がお茶を淹れてくれた。
「嬉しいか?」と問うた。
「ハイ。嬉しいです。新しい冷蔵庫と洗濯機は主婦の一番の望み事。あとは御主人様が悪い事しなければ文句ありません」
「俺、何もしてない。する気もする予定もない」
「アラ、悪い事って予定立ててやるの? そんなに簡単に出来るものなの?」
女房殿の声、少し高くなった。マズいと思った。私は余分の一言が多い。特に女房殿に対してはだ。私の余分の一言への救援者雅樹はどこにいる?
いない。

雅樹は8月21日に神戸へ移動し、大手前大学の男女秋季リーグ戦に備えての指導と神戸塾生の指導に入り、今もゴルフコースと尼テクの練習場で指導に当っている筈。
8チームが出場した関西学生女子一部校対抗戦は9月5日と6日の2日間、宝塚GC旧コースで行われたが近畿大学が優勝した。
2位は大手前大学。3位は大阪学院大学、4位は神戸流通大学。この4校が石川県の片山津GCで10月25日から28日迄の4日間で行われる日本大学選手権団体戦に出場出来る事となった。
男子関西リーグ戦は9月12日から16日までの5日間、蒲生GCで行われ、全日本出場の大学が決まる。
雅樹が福岡へ戻る日は、男子リーグ戦の終るのが9月16日だから17日以降になるだろう。
福岡から兵庫県西宮市の大手前大学迄、片道7時間の車での移動。途中の休憩を入れれば9時間。
月に1度、福岡から西宮へ行っているが、西宮1週間滞在の時は新幹線で移動している。関西での行動範囲広い時は福岡に置いてある自分の車で移動する。
「お前、自分を若いと思っているのか?」
「車を運転している時は年取ったと思うよ。スピード出さないもん。でも学生とゴルフやってる時は若いと思うな。飛距離もスコアもゴルフ内容も負けないもんな。トレーニングも一緒にやれてるし、食事の量も負けちゃあいない」

私の助け人雅樹はいない。
女房殿の声、高くなった。マズい、マズいぞ。私は執筆中だ。邪魔しないでくれ。今を必死に過す。
私の余分の一言招きし事態。
現在時午前10時55分。
書き上げた。これよりファックス送稿。冷蔵庫を持って来る家電業者はまだ来ない。
2000年9月に引っ越し、今年で22年を過すけやき通り、昨夜、鈴虫が鳴いていた。
蝉の鳴き声、いつ終わったのかは記憶なしだ。
体調良好です。それでは来週。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年9月27日号より