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【ゴルフ野性塾】Vol.1743「パッティングには方向勘がいる」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

今日7月21日。
午後1時35分。

雲、一昨日、昨日より白くなった。
けやき通りの蝉の鳴き声、強くなった。
昨日迄は15階の廊下に蝉の亡きがら転がってはいなかったが、今朝、今年最初の亡きがらを見つけた。
15階迄、飛んで来て力尽きて15階の廊下に眠る一匹の蝉。
ティッシュでくるんだ。
1階迄、降りて行き、マンション前のけやきの根っ子に埋めた。
いつも通りの私の夏の朝が始まった。
暑い。
雲、30分前よりも白さを増した。
これより舞鶴公園へと向う予定。体調良好です。

グリーンに立ち、東西南北を探せ。

先日、高速グリーンで有名なコースをラウンドしました。トーナメント並みのスピードという話で、いわゆるポテトチップ型の複雑な傾斜のグリーンでした。最初はそこそこ対処できていたつもりでしたが、ホールが進むにつれてフックとスライスが逆に見えてしまったり、最後は上りか下りかさえわからなくなってしまいました。大きなうねりと細かい傾斜が複雑に入り組んだグリーンでは、どこが高くてどこが低いのかどうすればわかりますか。どうやってラインを決めればいいですか。(大阪府・匿名希望・44歳・ゴルフ歴15年・平均スコア90)


貴兄は傾斜と東西南北の方向を知る能力、お持ちの方だと思う。
ハンディキャップは関係ない。
ゴルフ歴も関係なしだ。
ただ、ゴルフは己の個性を確立しなければラウンド80は切れないゲームである。
個性とは如何なる状況であれ、一点を確保し続ける能力を言う。
フォロー風であれ、向い風であれ、横からの風であれ、トップ位置かフィニッシュ位置が変らぬスウィングであれば個性は確立されている。
ゴルフスウィングと感性は人それぞれであり、人それぞれとは己だけのものであるが故、我流スウィングの持ち主とゆう事になろう。
基本は個性に辿り着くものだ。

球を打つは打つ人の体の動きだが、体の動きが振りの型とスピードを生み、その型とスピードがクラブヘッド軌道とスピードを生む。
ゴルフは飛距離の正確さと方向の正確さを競う競技である。
ドライバーからサンドウェッジ迄の14本のクラブで競い合う競技だ。そりゃドライバーショットの飛距離、飛んで損する事はないが、それも正確な方向に打てての話である。
となれば何が一番大切かと申せば正確さであろう。
正確さなき飛距離に魅力なしと私は考える。
飛ぶけど曲るスウィングよりは飛距離並みだけど曲らぬスウィングが良き結果を生むと思う。

日本ツアーとアメリカツアーの差はどこに在ると問われる事は多い。
問うて来た人に問い返す。
「アナタはどう思う?」と。
10人中7人の方が体格、体力、飛距離、ツアーレベルの違い、そしてコース難度の差と答えた。
「間違ってはいませんネ」と私は答える。ただ、その答え、一番じゃない。
日本とアメリカの差は正確さと思う。
ドライバーからパター迄の14本、正確さが違いを生む一番の理由であろう。
松山英樹は飛距離で戦ってはいない。
14本の正確さで戦っている。そりゃ日本に来りゃ松山のアイアン飛距離、抜きん出ているが、アメリカでは抜きん出た飛距離ではない。
しかし、松山のアイアンの正確さは抜きん出ていた。

人はいい時と悪い時を持つと思う。
いつもいい時ばかりじゃないし、悪い時ばかりでもない筈だ。
私は悪い時は見ないし、興味も持たぬ。私はいい時を見る。人の話もいい時の話を聞く。
人が大きく変化し、成長するのはいい時の経験あればこそとゆう気はする。
自信を生むはいいスコア出せた後だ。成功の後に己への自信生れると思う。失敗続けてどの様な自信生れるとゆうのか。
プロの領域、毎日ラウンド65のスコア出し続ければ、ラウンド70のスコアは己に関係なきスコアとなって行く。
ラウンド70のスコア出し続けて、たまに65のスコア出しても65を己のスコアと思うは難しい。やっぱし70が己のスコアであろう。
65を出し続ける自信と70を出す自信とは別物だ。
65はボギーを出さず、バーディ7つ取る自信が必要であり、70はボギーを怖れる気持ちが存在する自信と思う。
怖れ持たぬ自信持つ人は何が必要か。
正確さである。
狙う方向、狙うポジションに打って行く正確さだ。

日本ゴルフ界、プロを目指す人が100人いたとしても、その100人全員、プロになれる訳ではない。
プロになったとしても、その全員が賞金で生計を立てられるプロゴルファーにはなれぬ。
1人だと思う。
プロを目指した者100人に1人である。
正確さを己の武器と考える者が100人中の1人として生きて行けるのではと私は考える。
どれ程の飛距離持っていたとしても、正確さなき飛距離に100人中の1人となる可能性は無いのではと思う。

アメリカツアーの正確さは抜きん出ている。
私は昭和60年のマスターズから欧米ツアー、そして昭和64年からは日本ツアーの観戦記執筆に入ったが、飛距離には驚かなかった。
テレビ朝日の企画で生れた「坂田信弘の世界名門コースの旅」はアメリカとイギリスのコースで収録されたが、アメリカツアーのトッププロ、そして、メジャー競技優勝者との対戦の中で私の自戦記を語る番組内容であり、視聴率は高かったと聞く。
飛距離に20ヤード、30ヤードの差はなかった。当時、私は40歳過ぎたばかりの時であり、飛んでいた。しかし、正確さの違いを感じた。
彼等のゴルフ、強振してもしなくても正確だった。
何が正確かと申せば、トップ位置とフィニッシュ位置の正確さだった。
強振したか否かはインパクト直後のスピードで分ったが、インパクトの音でも分った。

貴兄はゴルフ能力持つ方だ。
私以上の能力を持っておられると思う。ただ、それもグリーン上だけの話。ティーからグリーンに乗る迄の能力は私に歩(ぶ)ありだ。私はどこのコースに行ってもライン分らずのゴルフしか出来なかった。
私は東西南北を知る方向勘が持てなかった者であります。
その方向勘が傾斜を知る能力を生むと思って来た。
持つ者は持っている事実に鈍感になり、無感動にもなって行くと思う。
持たぬ者は持たぬ事に敏感になり、何等(なんら)かの偶然で持てた時には感動するであろう。
私は6勝しているが、トロフィーのある試合の勝利は1つだけであり、残り5試合は賞金だけの小さな試合だった。
でも、勝てた時は感動した。持っていないものが突然現れたからだ。
グリーン上のラインが見えた。
距離も合った。
継続は勝者の誇りと思う。
私に継続の力と能力はなかった。故に3流半のプロで現在を迎えている訳だ。

貴兄はグリーン上に立った時、空を眺めよ。そして、東西南北の方向を探すのだ。
その能力得る事出来れば傾斜に戸惑う事、少なくなる筈。
ゴルフ勘に恵まれし人は車の運転上手いと聞く。
方向勘、距離勘、傾斜勘、スピード勘、位置勘、総てに於て、車の運転に繋がると聞いた。
私は運転出来ない。免許がない。
いずれにしても貴兄は私より秀(すぐ)れし方だと思う。
44歳は若い。
東西南北の方向勘のズレが生みし貴兄の惑いであろう。
グリーンの速さにも惑った。
ならば経験が要る。
今一度、そのコースへ行け。
以上です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月9日号より