Myゴルフダイジェスト

【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.281「腕時計の巻」

腕時計といえども、最近では時刻を見るだけではなく、なんとかウォッチなどという、ハイテクなものも出てきていますよね。私にはカタカナばかりで何を言っているかさっぱり……。今回は、その腕時計に関する話なのですが皆さんは腕時計をしたままゴルフはしますか? 人によると思いますが、先日高級時計をしたままラウンドされる御方がいてびっくりしたんですよ。

ILLUST/アオシマチュウジ

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スマホゲットもなかなか使いこなせない

今どきのデジタル文化にまるで弱く、時代から取り残されている気分になる。今年の始めに、ガラケーかららくらくスマートフォンに機種変更したばかりだが、いまだに年寄り用のスマートフォンさえ使いこなせていない。

先日、ゴルフをしていたら仲間の一人がデジタル腕時計をしていた。若い人ならなんちゃらウォッチとか正確な名称がすぐに出てくるのだろうが、ただただ薄くて黒い画面の腕時計なのである。

ただ、この機械がただものではなかった。ポチッと画面のわきのスイッチを押したり、画面に対して語り掛けると、驚くような使用法が夢のように次から次へと飛び出してくるのだ。

時刻はもちろん、電話やメール、万歩計、血圧、脈拍、異国の言葉の通訳、音楽も聴けて、ニュースまで見られてしまうのだ。もちろん、電車、地下鉄、バス、タクシー、飲食店の支払いやコンビニの決済までできてしまう。なんでもござれの時計である。


驚いていると「なんだよ、時代遅れだなー」と笑われた。ただいろいろと説明されても、アプリのダウンロードやらカタカナの言葉が次から次へと飛び出してくるので、頭のなかはちんぷんかんぷん。これはとても使いこなせないと諦めてしまった。

仲間は、俺よりも年上の70歳。「アナログ野郎だなー。かわいそうに」とからかわれた。別にいいや。腕時計は時間さえ分かればと自分の心に言い聞かせるように黙り込んだ。

すると、「キャディさん、残り140ヤード。8Iかな9Iかな」とデジタル野郎が尋ねている。「おい! その魔法の時計に教えてもらえよ」と言うと、「そこまでは面倒を見てくれないんだよ」とバツが悪そうに答えていた。

会食の腕時計は厳禁の教え

読者の皆さんは、ラウンド中に腕時計をなさいますか。私はしません。普段は腕時計をしていないと落ち着かず、たまに家に腕時計を忘れてくると、ドキドキしてしまいます。スマホがあるから事が足りるのだが、いちいちバッグの中から取り出すのが面倒くさいし、左手首に腕時計がないと、どうにも気が気じゃなくなってしまう。

しかし、時にはわざわざ腕時計を外すことがある。「大事なお客様と会うときは、腕時計は外しなさい」と芸人の先輩から教わっていた。

例えば会食に誘われる。いい料理屋さん。その店のランクや敷居の高さで一張羅の洋服や着物で伺うその折に、持っているなかで一番合いそうな腕時計をしていく。すると、お客様よりも高級な腕時計だったら、失礼になるんだと教えられたのだ。そんなときに「いい腕時計なさっていますね」なんてよいしょやお世辞を言うと、「そうかい、こんなものでよければやるよ」なんて、もらえちゃうこともあるんだよと誇らしげに高級腕時計を見せられた。

高級腕時計がもしかしたら読プレに?

ゴルフのプレー中に腕時計をしている人のほうが少ないのではなかろうか。しかし、なかには、金ぴかのロレックスをしながらラウンドする御方もいる。

名古屋のゴルフ仲間が、プレー前日になって「すまん、明日のゴルフ、知り合いの会社の社長を連れて行ってもいいかな。うっかりお前と明日ゴルフをするって言ってしまったら、どーしても一緒にゴルフをしたいと言い出してしまったんだ。俺の大事な取引先なんだよ。助けると思って俺のわがままを聞いてくれよ。お前が初対面の人が苦手なのは知っているけど、頼むよ。一生のお願いだから」と懇願された。なんでもコロナで大変な時期にずいぶん助けられた大恩人だという。これしきのことで友人の役に立てるのであればと引き受けた。

当日、その社長は赤のポロシャツにダブルタックの黒ズボン。頭は角刈りの襟足伸ばし。筋骨モリモリ。真っ黒に日焼けしてこわもて。昭和の手強いおっさんを絵に描いたような人だった。年齢は私と変わらないので60前後。「いやー! 師匠、会いたかったよ」といきなり、野球のグローブのような手で、痛いくらいの握手。大きな声でガハハと笑う。

「ゴルフダイジェストのエッセイをいつも読んでいますよ」と言いながらまた、ガハハハ。この連載を読んでいるなんて言われると、まんざら悪い人ではなさそうだ。いや、良い人かもしれない。

声も態度も豪快なのだが、ゴルフが上手い。クラブチャンピオンだったこともあるシングルさん。その日もスリーアンダーで上がってきた。ただこの社長、右手には水晶のような数珠。左手首には、ダイヤモンドを散りばめたロレックス。プレー中にこんな高級時計をいつもはめているのかと尋ねると、「ロッカールームにしまっていて取られたことがグアムであったから」とガハハと笑いながら「俺のことを書いてくれたらこのロレックスあげるよ」と続けた。

万が一、ロレックスが届いたらもちろん、読者プレゼントにします。もし届いたらですが……。

ロレックス 記事になったら 読プレに

月刊ゴルフダイジェスト2022年9月号より