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【ゴルフ野性塾】Vol.1718「エクスプロージョンはダフリ打ち」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

曇り空。今日1月20日。

雨、降りそうだ。また15階から外に出ぬ日が始まった。人様への迷惑は掛けたくない。外へ出なきゃ生きて行けぬ身でもない。寛大、寛容であればいい。それが福岡けやき通りの15階住人の願いであります。読者諸兄の身と心の幸せを心より祈る。それでは来週。

左肘を曲げ、砂に薄く入れて打て。

バンカーから脱出できません。ボールの手前の砂を爆発させても、砂は大量に飛ぶのにボールはちょこっとしか飛んでくれません。かと思うと、ホームランもあります。バンカーに入ると、だいたい3~4発はかかる感じで、上手く打てたときもどこがよかったのかわかりません。塾長、バンカーショットを1発で仕留める秘訣を教えてください。(東京都・佐藤一輝・33歳・ゴルフ歴2年・平均スコア110)


ゴルフは決断と覚悟を必要とするゲームと思う。
瞬時の決断は要らぬ。瞬時の覚悟も要らぬ。
瞬時の対応には直感が要る。
野球の打者然り、格闘技然り、瞬時の決断が求められる。
しかし、ゴルフにインパクト直前の決断と覚悟は要らぬ。
アドレスの前か、アドレスに入ってスウィング始動直前の決断と覚悟を求められるゲームである。
短い時間での決断と覚悟は格闘技が求める。
言葉や思考ではなく、直感が決断と覚悟を生むと思う。
私は24歳でゴルフを始めたが、それ以前の競技経験は柔道、野球、自衛隊格闘技、銃剣道の4競技である。4競技総て直前の決断と覚悟が求められた。
栃木県の鹿沼CCに入ってゴルフを始めたが、決断と覚悟の時間的ポジションの違いに戸惑った。
言葉と思考が生む決断と覚悟ある事に違和を覚えた。
器用だったと思う。
町道場の柔道師範が私の父に言った。
「見所あるネ。攻めても受けても瞬時の対応力持つ子だ。ここに道場開いて15年になるが、これ程の対応力持つ子は初めてだ。いいネ。毎日通わせなさい」
軍人時代、陸軍曹長で銃剣道六段だった父は喜んだ。
小学3年の4月に柔道を始め、週2の稽古が6月から週6日通わされた。
好きじゃなかった。
父から柔道か剣道のどちらかを選べと命じられて剣道の面の臭さがイヤで柔道を選んだだけである。

小学4年の時、白川小学校の野球部の監督に勧誘された。
キャッチャーのなり手がいない、と私への直接の勧誘だった。
ドッジボールで私の投げるボールの速さとキャッチの上手さはクラス一だった。
それを知っての勧誘だったと思う。
「父に聞いて下さい。柔道やってるから多分、駄目だとは思いますが」
監督は父の経営する和菓子店に行って交渉したらしい。
「野球もやれ。陽の明るい内は野球、暗くなったら柔道場通いだ」
「ピッチャーかサードだったらやってもいいけど」
結果を申せば小学4年から6年迄、キャッチャーをやらされた。4年の時は5番、5年6年は4番打者だった。
ピッチャー出来ない不満は募ったが、私の気持ちは野球へ傾いて行った。
熊本市内ではベスト8に入る位のチームだった。
誰もやりたがらないのがキャッチャーであり、体が大きければ鈍臭くても足が遅くてもキャッチャーやれや、と勧められる時代だった。
先輩の使い古しのキャッチャーマスクを与えられたが汚いし、臭かった。
マスクをかぶらないで座った。
朝、起きたら枕元に新しいマスクが置いてあった。
父が買って来たマスクだった。
これでキャッチャー、イヤだの我儘は言えなくなった。
私がツアー参戦していた頃、母が言った。
「信弘にだけは反抗期がなかったのよネ。本当に手間の掛からない子だったよ」
そりゃ、そうだ。
父が怖かった。
父の命令は絶対だった。
長男雅樹も長女寛子も私に反抗する事はなかった。
怖かったのだと思う。
私にピッチャーやらせてくれたら甲子園を目指す野球少年になっていた様な気はする。
私は瞬時の決断と覚悟要るスポーツの経験者であった。

そして、24歳になったばかりの時に鹿沼CCの研修生になったが、27歳と11カ月の時にプロテストに通った。
翌年、ツアー参戦した。
ショットの出来は良かった。
パットが下手だった。
ショットの決断と覚悟は早かった。
構えてすぐ打っていた。
グリーン上、ダラダラの時を過した。
そして、決断と覚悟、不充分のままアドレスに入り、そこからまた逡巡し、他のプロよりも長い時間をパットに費やすビビリ屋ゴルファーだった。
バンカーは得意だった。
それでも試合でバンカーショット一発、ミスした。
試合のない時、一日1000球のバンカーショットを練習した。
周防灘のグリーンキーパーに頼んで、コース管理棟横に私専用のバンカーを作って貰い、そこで1000球打った。
練習に飽きる事はなかった。
1年でステンレス合金のサンドウェッジを3本摩耗潰しした。
フェースの溝が4本なくなり、極端なグースになり、軽くなった。

バンカーショットを伝授する。
極力、小さなバックスウィングで球を打て。
そして、厚いヘッドの入れ様ではなく、薄い入れ様で打て。
バンカーは力で出すものではない。
バンカーとアプローチは2つの基本を持つ。
クリーンヒットとダフリ打ちだ。
砂と共に球を打つエクスプロージョンはダフリ打ちである。
球の手前から打ち込めばピンに寄せるは難しい。
厚い打ち方は保険を掛けたショットと思う。
貴兄は保険掛けのバンカーをしている。それでは駄目だ。
球近くにヘッドを入れるべきである。
球が浮いていればクリーン打ちがいい。
球の重たさで砂の中に沈んでいる球のクリーンヒットは出来ないからエクスプロージョンとなるが、砂は少なく取るが最善である。
小さなバックスウィング、そして振り抜きの大きさで距離を生むが最善。
バンカーから出すだけでいいと思えば、そのレベルのバンカーショットになって行く。
入れに行く覚悟を持って貰いたい。その覚悟だけで貴兄のバンカーショットは大きな変化を生むであろう。
それとアドレス時から左腕に少しの曲り作った方がいい。
トップでも左腕をピーンと伸ばした緊張、力み必至のスウィングではなく、左肘を曲げるスウィングを勧めます。
バンカーの大ダフリは左腕、特に左肘の伸ばし過ぎが生むミスである。

人の格好良さは微笑みから生れると私は思って来た。
微笑み美しければ美しい人になり、微笑み優しければ優しい人になり、微笑み誠実であれば誠実な人になれると思う。
左肘を緩めよ。
そして、ボールを微笑みの気持ちで眺めよ。特に不得手意識持つショットの時程。
ボールは敵ではない。如何なる時も貴兄の味方である。
以上です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年2月8日号より