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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.858「ゴルフにおいては突発的に発揮する力より自分の意思で制御できる力のほうがとても重要です」

KEYWORD 岡本綾子

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


今はアドレナリン効果という言葉で説明されることが多い「火事場の馬鹿力」。これを出せるのは一種の能力だと思いますが、岡本さんもここぞという時に意識して力を発揮していたんでしょうか?(匿名希望・50歳) 


プロがしのぎを削るトーナメントと災難である火事場とは状況が違いますが、言いたいことの理解はできます。

試合で自分の持てる力の限界と火事場での命の危険に直面する両者の間には違いがありますからね。

“力”という意味は、腕力や握力の肉体的な強さ以外にも、能力や技術といった意味もありますが、緊急時に発揮される「馬鹿力」は、原始的で純粋なパワーのみを指しているということではないでしょうか。

ゴルフにおいては……どうなんでしょうね(笑)。

そこで思い出したことがあります。

わたしがゴルフ場で一度だけ「火事場の馬鹿力」を存分に発揮したことがありました。

あれは1975年の春です。

前年10月のプロテストに合格したわたしが、ゴルフ場でキャディを務めていたときのことです。

大阪にある池田カントリークラブ衣懸コースの最終パー5。

わたしは乗用カートに乗ってセカンドからサードショット地点に移動しようとしていました。

カート道はS字に曲がっており、やや下りの右カーブに差しかかったあたりでスピードが出過ぎたのでブレーキをかけたところ、思いのほかブレーキが利きすぎてしまった!


わたしは遠心力の勢いでカートから地面に放り出されたんです。

放り出されながら「こんなこともあるんだな〜」と思いながら、ふと見上げるとカートがわたしの上に倒れ込んでくるではありませんか!

5人乗りカートにお客さんのキャディバッグ4本、合わせて何百キロもあった物体が体の上に倒れてくる。

わたしは本能的にカートの屋根を支えるフレームを両手でつかむと、そこから“ぐぐぐーっ”と押し返してカートを元の位置に戻したのです。

「あの子は何者なんだ!」

それこそ紛れもない火事場の馬鹿力だったのでしょうね。

その一幕を目撃していたお客さんたちが「池田カントリーにはスゴイ女子がおるらしい」という話をして、パーッとウワサが広がっちゃったみたいでした(笑)。

それはともかく、優勝争いの緊迫した興奮状態では、アドレナリンの分泌でプレーヤーの筋力が爆発的に増加し、飛び過ぎのミスを犯すことがあります。

問題なのは、その力が制御できないことにあります。

あの超人ハルクだって怒らないと変身できないわけですから(笑)。

でも、アドレナリンで特異なパワーが出せるとは限らず、むしろ委縮して力が出ないケースもあります。

プレーヤーは、常に冷静沈着に平常心で今やるべきことに集中する方法を身につけることがとても大切になるのです。

勝負の場では、心理的にはやる気持ちが働き、生理的にもアドレナリンが出て行動をイケイケにさせる傾向が強くなる。

だからこそ、そのことを経験から学んで、可能な限り平常心を保つセルフコントロール術が必要になります。

わかってはいるのですが、それがなかなかできないんですよね。

そうなると、やっぱり馬鹿力に頼りたくなってしまうというのが人間のサガなのですかね(笑)。

「ボールも気持ちも“コントロール”が大切です!」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年5月6日号より