【名手の名言】森田吉平「マスターズの素晴らしさは何も、試合だけではないんだよ」
レジェンドと呼ばれるゴルフの名手たちは、その言葉にも重みがある。ゴルフに限らず、仕事や人生におけるヒントが詰まった「名手の名言」。今回は、川奈ホテルのバーテンダーからプロに転身した異才、森田吉平の言葉をご紹介!

マスターズの素晴らしさは何も、
試合だけではないんだよ。
パーティも……
森田吉平
森田吉平は、川奈ホテルのバーテンダーからプロゴルファーになった変り種。
プレーヤーとしての実績はさほどないが、後年、倒産したコースを社長として立て直したり、滝安史、岩間健二郎らの飛ばし屋軍団を育成し、ドライビング・コンテストを総なめにしたりの異能の持ち主だった。
また日本プロゴルフ協会(PGA)の副会長や競技委員も務め、協会の発展にも寄与したが、表題の言葉は、その時代、賓客としてマスターズに派遣されたときの話だ。
開催期間の週は歓迎パーティが毎日、クラブハウスのどこかで行われたという。感心したのはパーティが行われる時間に、夕日や景色がいちばん美しく見える部屋を正確に計算して選んでいたというのだ。
森田がそのことを敏感に感じとったのは、川奈ホテルのオーシャン・ビューのハウスでバーテンダーをしていた経験があるからだろう。そういえば、試合も夕日がいちばん美しく映える時間帯に終わるようにセッティングされていると聞いた。
どこまでも演出が細心に渡っているのも、毎年同じコースで開催されるがゆえに、ノウハウが積もって洗練されていくからであろう。
マスターズの魅力は、単なるゴルフトーナメントの枠を超えた「体験」にある──森田の言葉は、そんなマスターズの本質を突いている。
コースで繰り広げられる熱戦だけでなく、すべての訪問者を魅了するホスピタリティの極致。それは、まさに「世界最高峰」の名にふさわしい舞台装置であり、細部に宿る品格が、出場者だけでなく観る者の心にも深く刻まれていく。
元バーテンダーという異色の経歴を持つ森田だからこそ、ゴルフという競技の奥にある「もてなし」や「空間の美しさ」にも敏感でいられたのだろう。
競技の勝敗だけでは語りきれない、ゴルフというスポーツの持つ豊かさ。森田吉平のこの一言には、それを見抜く人間ならではの美意識と、ゴルフへの敬意が宿っている。
■森田吉平(1929~1997年)
もりた・きっぺい。川奈ホテルのバーテンダーからプロゴルファーに転職。所属していた富士ロイヤルCCが倒産したが、債権者として自主再建し、後に社長としてプロ育成に励む。「森田道場」と呼ばれ、1日1000回素振りのハードトレーニングで滝安史、岩間健二郎らが育ち、飛ばし軍団として全国ドライビング・コンテストを制し成果を見せた。後、関東プロゴルフ協会会長、日本プロゴルフ協会副会長に就任。プロ界の発展に努めた。