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【ゴルフ野性塾】Vol.1805「9アイアンは自信生れるクラブ」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

運動たるもの、
心・技・体の順

ではない。
体・技・心だ。
体から始まり、技を覚え、心の領域に辿り着くのが上達の手順であり、変化の手順である筈。
変化の先に進化在りと申す。
先に進化在りて、その後の変化ではない。
人のやる事、まずは心からと述べた人、如何なる経験を得ての論だったのか理解し難い話じゃある。
言葉の語呂合せの良さで心・技・体としたのか、まずは心構えが大切と思いての心・技・体だったのか、問うてみなければ分らぬ事なれど、子供にゴルフを教え、進化論塾生にも教えて来た経験で申せば、体・技・心の順番が正しかった。

進化論塾、10年間で50回近いゴルフ指導の旅を続けたが、少ない時で30名、一番多い時は1グループ120名の指導をして来た。
勿論、私一人で120名の指導は出来ぬ。アシスタント4名を入れてのレッスンの旅だったが、120名の方のスウィングはチェック出来たし、一人一人の修正すべき点、伸ばすべき点の指示は出来ていた。
それでも120名の指導は疲れた。

ラウンド前日、9アイアンを練習せよ。


悪癖修正か、長所伸ばす指導か、レッスンには2通りあると思うが、悪癖矯正に最も適したクラブは9アイアンだった。
長いシャフトは悪癖を強めた。
短いシャフトは悪癖を隠した。
強めもせず、隠しもしないクラブは9アイアンただ1本だった。
そして、自信生れるのも9アイアン。己の変化に最も敏感なのも9アイアンであった。
9アイアンが与えし自信は強かった。

私は矯正指導よりは長所伸ばしの指導を得意として来たが、その指導の基本クラブは9アイアンだった。
私の経験で申すが、14本のクラブの内、体・技・心で打つクラブは9アイアンとパターの2本のみ。
練習場、私は1時間半で400球の球を打つが、6アイアン、9アイアンの2本で200球打って来た。
私は当りのいい球を求めた練習はしない。
ミス少なき練習を目指した。

アドレスで、ミス球出るか、ミス球出るスウィングとなるかは分るものだ。
勿論、バックスウィングでも分るし、トップでも分る。
ダウンスウィングで分る事もあるし、総てインパクトの型崩れる原因ではあった。
当りのいい球出る理由は分っている。
体・技・心が生む呼吸、乱れなければいい球は出る。
この事、ミス球少なきスウィング作りを目指して来た中で分った事である。

体の使い様には捻転態、回転態の2つがあり、その態を生むには体重移動存在すると思うが、呼吸の乱れは振りのリズムを崩し、呼吸の異和は自信を損なうと思う。
柔道も銃剣道も相手の重心位置を崩し、その崩しが相手の型を崩すと父は教えた。
父は五段師範である。
筋金の入った五段だったと思う。
父の呼吸乱れるは母に浮気がバレて母の前に正座した時だけと乙五郎爺様は教えてくれた。
乙五郎爺様は母の父であり、若い頃は近衛騎兵として東京に住む生活を送った生粋の職業軍人だった。
その爺様が父と母を語る時の表情は楽しそうだった。

今、私は己の体重位置を崩さず、呼吸乱さぬ練習をしている。
難しくはない。
しかし、簡単でもない。
相手はゴルフボール1コ。

野性塾大濠公園18人衆の気配が変った。
私の前に座る者のコーヒーカップを見た。
飲んでいなかった。

「いい球打った時、成功の理由、ミス球の出た時の理由は瞬時にして分るものだ。しかし、このままスウィング続ければミスする。ならばスウィング中断してしまえばと考えるは愚だ。一度でもスウィングを中断すれば振る事出来なくなって行く。その中断の後の苦しさは半端じゃないと聞く。アドレスに入ってから7秒以上、構えたまま動けぬ人もいるが、その7秒の長さは危険な長さだ。金縛りの長さと思う。構えたらすぐのスウィング始動がいい。体・技・心は構えの時間長い程に分断されて行くからな。シャフト長きクラブ、飛距離求められるクラブ程、構えてからの時間、長くなると思うが、悩みと不安、その長さが生むは間違いないと思うぞ。
ミスを恐れるな。ミスは己のものであり、他人様に譲ったり譲渡出来るものじゃあない。迷惑掛けなきゃいいんだ。9アイアン1本の練習に精出せ。特に明日、コースラウンドとゆう日の練習、9アイアンを打て。短いシャフトのクラブ、ロフトも立ってはいないクラブだ。自信与えてくれるクラブが9アイアンだ。
76歳になった爺様の練習、今、9アイアンの球数増やすつもりになって行く。自信が欲しい。自信は心だけに宿るものじゃない。体には体の、技には技の、心には心の自信宿ると思う。全英オープンコース、リー・トレビノのキャディさんがクラブを天日干ししていた。9アイアンのクラブヘッドだけだった、インパクトの跡、はっきりとしていたのは。1年は使っていたクラブと思う。他のクラブに打った痕跡、はっきりと残ってはいなかった。
今年の2月から打ち始め、今は一日400球打つ者の経験だ。いずれ毎日450球打つ時、来ると思うが、増えた50球は9アイアンで打つ。気持ちの逞しさはアイアンで得られると思う。逞しくあれ。その為にはアイアンで球打つが最善。フィニッシュ乱れる力で打つのが100%の力打ちすとすれば、フィニッシュ乱れない打ち方は力8分のスウィング。
私は想う。ジュニア塾生、9アイアンの練習もっとさせたならばプロテストに通りし者の数、シード取りし者の数、増えていたのでは、と。115名がプロになった。18名がシード選手になった。その数、変っていたと思う。
自信は要る。9アイアンの練習が与えし自信。バックスウィング途中、左手の甲を張って行け。それで左の肘は伸びて行き、左肩は無駄少なき動きを生むであろう」

18人は穏やかな表情していた。
理解出来た時の表情だった。

「海に行く。陽の沈む時間、随分と早くなったからな。私は夕焼け空が好きだ。大濠公園の夕焼けもいいが、やっぱり海の夕焼けがいい。気ィ付けて帰れ」

全員、立った。
全員、頭を下げた。
頭のテッペンが見えた。
髪残る者、薄くなった者、髪1本も残っていないそれぞれの頭のテッペンだった。
一生懸命生きているんだな、と思った。
頑張って生きて行け、大濠18人衆、と思った瞬間、涙が出そうになった。
背を向けた。
1カ月後には旨い蜜柑出ている筈。
一人2コ食べるとすれば私の分含めて38コか。
重い。
しかし、彼等と食べる蜜柑、旨いと思う。

今日10月31日。
体調良好です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年11月21日号より

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