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【ゴルフ野性塾】Vol.1798「パープレーで回る夢を持っておられるか」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

野性塾大濠公園
18人衆との

集いの場所が変った。
9月7日、木曜日から大濠公園内のスターバックス屋外テーブルに変った。
暑い日続いた8月、中央区赤坂門交差点近くのホテルレストランに集うていたが、昼の気温暑くっても35度迄の日々、続いていた為、大濠公園スターバックスへと戻った。

「眠りは夢を与える。その夢は楽しい夢、悲しい夢、辛い夢、怒りの夢、喜びの夢だ。人はどこで幸せを覚える。いい夢見られた時じゃないのかな。ぐっすりと眠ればいい。然ればいい夢見られる機会も増えるだろう。
眠れ、子供よ。眠れ、若者よ。眠れ、老いし人よ。眠りは生きた足跡を残す。ただ、今日より明日へと繋がる夢は眼醒めている時にしか見る事の出来ぬ夢と思う。だから二夜三夜と繋がる夢は眠りの時の夢では見られぬのだ。起きている時の夢だ。10年前、20年前の眠りし時の夢、覚えているか? 覚えちゃいまい。しかし、起きている時の夢は10年前も20年前も今と変らずの夢であっても不思議じゃない。そんな夢持てるは幸せだ。
起きてる時の夢は縮んだり膨らんだりする。眠っている時の夢は縮まないし、膨らみもしない。起きている時に見る夢は実現可能の夢だ。そんなの夢じゃない、生きて行くが為の目標だ、願望だ、と言う人もいるだろう。だが私はそれも夢だと思っている。何事も人それぞれでいいじゃないか。
90切れぬ人がパープレーの72で回れる夢を眠っている時に見るか、それとも昨日のコースラウンドで5メートルを3パットした後に見るかは己の勝手だ。私はそんな夢が見られなかった。己を否定すればいい夢は見られない。否定は駄目だ。だから他人も否定するな。399球打った後の400球となる1球、ここで夢を見ればいい。この1球がパープレーへの夢の始まりだと」

「秋の始まりに相応しいお話ですネ。今日も又、背筋の伸びるお話が聞けそうです」
「コーヒー一杯の話だ。ミディアムサイズの紙コップコーヒー一杯飲む時間と一杯の値段に合う話だ。背筋を強張らせるな。気持ちの緊張も駄目だ。気楽に聞いてくれ。私の話は講堂や教室で聞ける様な話じゃない。街中の風呂場の浴槽か、コーヒー一杯の場で聞く様な話だ。相手が女性であれば一つの事、為し終えた後、腕枕の中で聞いて貰う様な話だ。虚脱がいい。今、飲んでるコーヒーにスプーン半分の砂糖を入れてみろ。甘さが強張りの力、抜いてくれるかも知れんぞ」

一番若い男が砂糖取りに行った。誰も指示せず、眼配せもしなかったが、一番若い男がスッと立って店の中へ入って行った。
18名全員異なる職業であり、役職も規模も違う者の集まりなれど、年齢が暗黙の序列を作っていた。
いい事だ。
異なる職種の者集う時、能力、地位、樹木の種類と大きさで暗黙の序列生れる事あると聞くが、野性塾大濠公園の18名は年齢、要するに生きて来た時間で縦横の序列を決めていた。
私が作ったジュニア塾がそうだった。
同級生は君呼びさせた。
下級生は呼び捨てにさせた。
上級生は姓か名の後に先輩の一言を付けさせた。
だから上田桃子は今も年齢上の者へは先輩と言うし、年齢同じ者は君と呼び、下級生は呼び捨てだ。
ただ、性格のいい者へはチャン付けしている様じゃある。それが坂田塾だった。
先に生れた者への敬意は必要と思う。
18名全員のコーヒーに砂糖が入った。

他人と戦い、欲と戦う。それがゴルフ。


「最善を求めに行く。それがゴルフだ。最悪を想定すれば最悪は近付く。右OB打ったらどうしようと考えれば右OBは近くなる。3パットはイヤだなと思えば3パットは近付く。3パットだけは絶対に駄目だと考え、確実なる2パットと思えば1メートルが残る。そして、この1メートルの難度が上がる。打ち切れずに外す。あるいはヒッカケ打ちかプッシュアウト打ちで外す。己への嫌悪生じる。
過去は最悪を想定せよと教えた。それこそが最悪の教えであった。私は体・技・心の基本を教えた。115名がプロテストに通り、プロになった。どの業界にも天才はいる。天才は最悪を考えないし、想定もしない性分の持ち主だった。天才でなくても二つ三つの成功は出来ると思う。人は皆、一つの成功を持つ。その成功とは真っ直ぐに生きて行く事だ。
真っ直ぐに生きて来られませんでした。失敗ばかりで人様に迷惑と心配を掛け、曲りくねった日々の連続でした、と己を否定する人、いると思うが、今、生きているとゆう事が真っ直ぐの生き様、出来て来た証じゃないかと思う。世間は寛大だ。一人二人の面倒なる人間いても時間と世間の寛大さが面倒見てくれるものだ。
失敗した時は頭を下げよ。そして身を引け。何も残すな。名誉も誇りも過去と今への固執も金も足跡もだ。それで世間と時間は許すと思う。何かを残そうとすれば世間も時間も許しはしない。真っ直ぐに生きて行くには身を最悪から遠のけて置けばいい。76歳になってやっと見えて来た事だ」

「私は最悪を想定してティーに立てと教わりました。間違いだったのですか?」
「間違いだ。最悪を想定してティーショット打ってみろ。最悪の球しか出やしないぞ。最善を想定して打ってみりゃ分る。少なくとも最悪の球が飛び出す事はない。ただ、一番いいのは無心無欲で打つショットだ。練習には5つの無が要る。なれどコースラウンドには2つの無あればいい。無を持つのは難しい事だ。無を持つが為の日々の練習であり、他人との戦いでもあろうが、背を向ける訳には行かんだろう、ゴルフが好きなのであれば」

「今日、これから練習に行くのですか?」
「まずは海に行く。そして夕焼け空を眺める。周りが暗くなる瞬間、何も考えず、何も想わずの時が訪れる。その瞬間が私の無の時だ。その後、西新のゴルフ練習場へ行く。今日も300球だ。暑くなる前もなった時も400球打っていたが、少しヘバリ気味になったので球数落したら増やす事が出来なくなった。今日は暑くない。400球打てるかも知れんな。練習場の打席にいるのは1時間半。帰りは西鉄バスだ。赤坂のマンション迄190円。それじゃあ、また会おう」

今日9月11日。
体調良好です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年10月3日号より

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