“決めない”から面白い!? 原作者・かわさき健のポリシー【「オーイ! とんぼ」の舞台ウラ①】
週刊ゴルフダイジェスト連載中の人気コミック「オーイ! とんぼ」担当編集が、制作秘話やこぼれ話など「とんぼ」の裏側を大公開!
※多少のネタバレはご容赦ください。
「オーイ! とんぼ」の原作を手掛けるかわさき健先生には、編集者泣かせのポリシーがある。それは、ストーリーを先々まで“決めない”こと。
連載漫画というと、先々までストーリー展開やキャラの設定を決めて、伏線を張ったり回収したり、綿密な計算のもと作られているイメージがあるのだが、かわさき先生は決して“決めない”。
「このあとどうなるんですか?」と聞いても
「決めてないんですよ、えへへ」
決めていないから、当然、原作が出来上がるのはギリギリのタイミングになる。原作が遅れれば、作画の古沢優先生にそのぶん負担がかかることになる。古沢先生はしびれを切らして待っている。
「今週、本当に思いつかなくて……もう少しだけ待ってください!」
そうならないために余裕をもって先々まで決めておけばいいのだが……
「オヤジの教えなんです」
「オヤジ」とは、あの川崎のぼる先生のこと。かわさき先生は、『巨人の星』などで有名な漫画界の大巨匠のご子息なのだ。
そしてその「教え」とは、連載は“その週のその1話”が勝負だということ。これから書くその1話に集中すること。その1話が面白いことがすべてだというのだ。
たしかに連載を楽しみにしている読者にとっては、「今週の1話」こそが、1週間の何よりの楽しみなのだ。それが面白くなければ、以降読むのをやめてしまう人もいるだろう。
いいネタが思いついても、「これは先々にとっておこう」などと出し惜しみしていたら、その週にファンが離れてしまうかもしれない。
人は年を重ねるにつれ、つい守りに入ってしまう。
全力でダッシュすれば間に合うかもしれない電車も、いや、ケガをするといけないからやめておこう、と二の足を踏んでしまう。でももしかしたら、その電車でものすごく素敵な淑女との邂逅があったかもしれないのである。
そんな下心は抜きにしても、先々の心配をして今に集中できないのでは、本末転倒である。
ゴルフでも、「もしオーバーしたら3パットもある」と余計な心配をして、カップに届かないパットを打ってしまうことはよくある。
「失敗したらどうしよう」ではなく、まずは「目の前の1打」に集中すること。失敗したらまたそのときに全力で立ち向かえばいい。
「今できることに集中する」
これは「とんぼ」の作品内でもたびたび登場するテーマである。
かわさき先生は1週1週、まさに命を削る思いでネタを考え、ストーリーを編み上げている。その積み重ねが、「とんぼ」がここまで支持されている理由といえよう。
なので、かわさき先生の原作が遅れていても、けっして「急いでください」と言うことはできないのだが……もしかしたらこれは、遅れても許されるようにするための壮大な口実なのでは――などと、原作が届くのが遅いとついそんな不遜なことを考えてしまう。
でも届いた原作を読むと、待った甲斐があったと思わせる素晴らしい内容なので、つい私も古沢先生も、これなら遅くなっても仕方ないと毎度納得させられることになる。
とんぼは毎回「続きが気になる」と言っていただけることが多いが、気になるのは当然と言えば当然の話。なぜならこの通り、肝心の作り手でさえ、続きがどうなるのか知らないのだから。
※当記事は2022年に「note」に掲載したコラムを加筆・修正したものです